NZ Wine News
ニュージーランドワインニュース
28.06.2023
気候変動からのメッセージを受け止めるワイン業界

気候変動が起ころうが起こるまいが、美味しいニュージーランドワインを味わうためにブドウ畑の試験場では様々な実験が行われている。

ニュージーランド・ワインセンター内に建設中の、植物・食品研究所の取り組みの一環となる試験的未来型「ヴァーチャル・ブドウ畑」では、環境条件を詳細に調整し、将来的に予想される気候シナリオを模倣することができるようになる。

2024年に完成予定の敷地面積600平方メートルの新施設で栽培される植物は、温度、土壌の種類、水の利用可能の可否が将来的にブドウの生産にどのように影響するかについて科学者が理解を深め、その結果を踏まえて、業界が適応するのに必要な重要知識を提供するのに役立つと期待されている。

植物・食品研究所の研究によると、気温上昇に伴い、北島のソーヴィニヨン・ブランの栽培に適した地域が、今世紀中にも大幅に減少してしまう可能性が予想されるとのこと。

しかしながら「気候変動は全てがニュージーランド・ワインの愛好家に悪いニュースをもたらすわけではない。気候の高温、低温化傾向のシナリオを両側面から見ると、南島でのブドウ成長が良くなる傾向となるとのモデル結果がでている。

つまり、マールボロ、カンタベリー、セントラル・オタゴでは、上昇気温が低いという仮説では、栽培適性は緩やかに上昇し、反対に、高気温になる仮説では、大幅に上昇すると予測されている。

今世紀半ばには、カンタベリーやセントラル・オタゴの一部が、マールボロ(現在ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランの主要生産地で、生産量の72%を占める)と並んで、世界的なソーヴィニヨン・ブラン生産地になる機会があるかもしれない。そのため、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランが好きな人なら、気候変動でも心配はいらないだろう」と植物・食品研究所、果実・農作物生理学 グループリーダーのジル・スタンレー博士は言う。

「植物・食品研究所では多くの産業分野と協力し、将来的にどんな作物をどこで栽培できるかを研究している。コンピューターで『ヴァーチャル・タイムマシン』を作り、国内の各地域での降雨パターンや、気温がどうなるかの可視化をしている。

気候変動は、食物に長期的な影響を与えることになる。裕福な国々は、当分の間は自分たちが食べたいものを多少なりとも確保できる資源を持っているため、最初のうちはその影響は非常に小さいと感じるかもしれない。

一方、発展途上国では、気候変動は食料安全保障の面で現実的な問題を引き起こす。利用できる食品の種類に影響を与えるだけでなく、もっと懸念すべきは、世界中で作物の不作リスクがますます高まり、食料が絶対的に不足することにつながる。

この研究所では、自国の人のみならず、他国の人類のためにも、栄養価の高いおいしい食べ物を作り続けることができるようするのが目標だ。

まず、最初はどの作物がどこで、よく育つかを把握することだ。もう既にある作物かもしれないし、新しい作物かもしれない。現在国内にある作物を改良し、気候変動の影響にうまく対応できるようにすることも視野に入れている。

干ばつ耐性、さまざまな害虫や病気に対する耐性、あるいは単に暑い条件下での生育能力などだ。この研究結果は、生産者と業界への重要なメッセージを含んでいる。気候変動の影響を緩和・軽減するために、生産者が将来のことを考え、適応策を講じることがますます重要だ。作物の栽培方法には多くの要因が影響するため、この先何が起こるか確実には把握できないが、私たちの研究は、この分野で何が起こり得るかを考えるためのものだ。

気候変動に適した品種に変更するだけでなく、雨や雹のリスクから作物を保護する覆いを使用するなどして、生産者は作物の栽培方法を変更することもできる。また、栽培作物の変換(例えば、ブドウの代わりにアボカドやリンゴの栽培)他の地域へ進出することも考えられる」とチーフ・サステナビリティ・オフィサーのロジャー・ロブソン=ウィリアムズ博士は、語る。

また、業界からも「気候変動は、ニュージーランドの園芸部門に新しい機会をもたらすかもしれない。ニュージーランドに新作物を導入し、将来の環境に対応できる可能性のあるものを試験中だ。例えば、気候変動の影響で、ドラゴンフルーツのような亜熱帯植物の栽培に成功する可能性があり、温暖な地域の生産者には新しい産業となる可能性も示唆している」とサイエンス・ニューカルチバー・イノベーション社部長のザック・ハンリー博士は語る。

実際に、ニュージーランドとベトナムの共同ドラゴンフルーツ育種プログラムで、ニュージーランドの産業分野の基礎となりうるドラゴンフルーツの最初の品種が開発された。外務貿易省の支援を受け「ニュー・プレミアム・フルーツ品種開発プロジェクト」では、T&G社(ニュージーランド最大のトマト栽培会社)のベンチャー・フルーツ社が世界的に商品化する3種類のドラゴン・フルーツの新品種が育成された。現在、こういった新品種をノースランドでどのように商業栽培するか、初期試験と評価が行われている。

ノースランドでのピーナッツやホークス・ベイでのアーモンド栽培など、ニュージーランドの将来の気候に適した非伝統的な作物の商業生産の可能性についても植物・食品研究所は研究をしている。

また、天候に左右されない室内での栽培も選択肢の一つだ。「私たちの研究は、気候からの影響があるにもかかわらず、ニュージーランドが将来にわたり栽培可能な食料を供給できるようにするための試みだ。室内での栽培は、基本的に管理されたエリア内で環境全体を再現することができるので、不規則な天候だけでなく、季節ごとの天候のリスクを排除することができる。必要とあれば、1日で四季を作り出すことも可能だ。気候変動がニュージーランドに大きな影響を与える可能性大なので、既に生産者はその対応策を考えている。園芸部門は、気候変動への適応や緩和のコストと、対策を講じない場合の経済的影響を比較検討する必要がある。変化が何を意味するのかを業界団体が考え始め、対処する計画を講じている姿を見るのは、期待が持てる」と植物・食品研究所のサイエンス・グループ・リーダーのサマンサ・ボールドウィン博士は締めくくった。

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