NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第13回コラム(May/2005)
おつかれさんビール
Text: ディクソンあき/Aki Dickson
ディクソンあき

著者紹介

ディクソンあき
Aki Dickson

三重県出身、神奈川県育ち、NZ在住。日本では、栄養士の国家資格を持ち、保育園、大手食品会社にて勤務。ワイン好きが高じてギズボーンの学校に在籍しワイン醸造学とぶどう栽培学を修学。オークランドにあるNZワイン専門店で2年間勤務。週末にはワイナリーでワイン造りにも携わる。2006年より約2年間、ワイナリーのセラードアーで勤務。現在はウェリントンのワインショップで、ワイン・コンサルタント兼NZワイン・バイヤーとして勤める。ワインに関する執筆活動も行っている。趣味はビーチでのワインとチーズのピクニック。

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3月14日、ギズボーンからが大きなトレーラーをひいたトラックが到着した。「ワン、ツー、スリー!」の掛け声と共にトレーラーの扉が開き、甘い香りを漂わせたブドウが、轟音を立ててコンテナに一気に落ちて行った。

2005年のヴィンテージは、この甘いブドウ、ゲヴュルツトラミネールの破砕作業から始まった。私は今年も、ワイナリーでワイン醸造を手伝えることになったのだ。去年働いた小さなワイナリー(コラム第1回参照)と異なり、今回のワイナリー、クーパーズ・クリーク・ヴィンヤードは、あらゆる品種のワインを造り、大部分を輸出するほどの、比較的大きなワイナリーだ。

仕事は朝8時に始まる。大きなホースやポンプを運び、果汁を圧搾機からタンクに移す。大きなタンクの掃除は、中に入って水浸しになりながら行う…仕事はかなりの重労働だ。

夕方6~8時には全てを片付けて“おつかれさんビール”を同僚たちと一杯飲みながら一日の反省会(おしゃべり)をし、仕事終了とする。労働の後のビールは実にうまい。

私がワイナリーで働けるのは、週に一日だけ。一週間間隔で働くと、タイムスリップしたような錯覚に陥る。酵母たちの発酵はあっという間に終了し、次の工程に歩を進めていたり、先週はまだ収穫もされていなかった赤ワイン用のブドウ品種が、いつの間にかタンクの中でプチプチと小気味良い音を立てて、活発に発酵していたりもするのだから。そんな私の仕事は毎週全く異なる。

「え?自分のものをわざわざ買って持ってきたの?ジーザス!(なんてこった!)」

マイ手袋とマイレインコートを持参した私を見て、一緒に働くドイツ人、バーントが驚きの声を上げた。ワイナリーには大きいサイズの手袋しかないし、素手で赤ワイン造りの作業をしたら、指先に赤ワインの色がしみ込んで、一週間以上は黒ずんだ手と付き合わなくてはならないのだから。

この週の私の仕事は、赤ワインのポンピング・オーヴァー、つまりポンプを使ってワインを混ぜることだ。赤ワイン用ブドウ果汁の発酵は、皮や種と一緒に行われるが、これは皮や種に含まれる色や香り、渋みの成分を抽出するためだ。皮と種は軽いので、果汁の上部に浮んで通称(キャップ)と呼ばれる固まりを形成するが、キャップは下部の果汁と混ぜ合わせる必要がある。混ぜ合わせることで、色や香りや渋みの成分の抽出を促し、温度が均一化され、さらに、微生物による腐敗も防止することができるからだ。小規模のワイン造りだと、プランジャー(混ぜ棒)による手作業(プランジング)ができるが、大規模で造る場合は大抵、ポンピング・オーヴァーだ。

直径10センチはある大きなホースを両手で抱え(もちろんマイ手袋着用)、

ポンプで汲み上げられて勢いよく発射する赤ワインを、乾いた果皮にまんべんなくかける。「おいしくなれよ~」と思いを込めながら。ともすれば腰を痛めかねない、いささか骨の折れる作業ではあるが、ブドウと酵母のいい香りに包まれながらのこの仕事は、結構楽しいものだ。

この日も私は“おつかれさんビール”を飲んで、帰宅し夕食を食べたら、そのまま倒れこむように深い眠りに落ちていった。

2005年6月掲載
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