NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
オークランドのパブで学んだこと
第194回コラム(Sep/2018)
オークランドのパブで学んだこと
Text: 柴田花純/Kasumi Shibata
柴田花純

著者紹介

柴田花純
Kasumi Shibata

法政大学卒業。大学時代に「まちづくり」について学ぶ中、コミュニティというソフト面の重要性を痛感し、英国パブ文化に興味を持つ。卒論ではパブとコミュニティについて研究、大学4年の夏から1年間日本のブリティッシュパブ、アイリッシュパブで修行し、単身オークランドに乗り込む。現在地域に愛される女性バーテンダーとして活躍中。趣味はダンス。5歳からバレエを学び、高校でバトン、大学でチアを経験。

この著者のコラムを読む

更に表示

クイーンストリートにある「QF TAV」で日本人初の女性バーテンダーとして働かせていただいて早10か月。逃げ出したくなるような辛く苦しいこともたくさんありましたが、それ以上に素晴らしい経験もたくさんできました。パブは「みんなの家」。人種も貧富の差も関係なくみんなが平等に楽しめる自由なコミュニティ。そんなパブでの様々な人たちとの出会いは私を大きく成長させてくれました。

デボンポートの海軍の人たち、ラグビー関連の仕事に従事する人たち、土木作業員、建築作業員、アーティスト、銀行員、教師、経営者など様々な職業の人たち、そしてヨーロッパやアメリカをはじめ世界中の様々な国から訪れる人たちなど、バーテンダーをやっていなければなかなか出会うことのないような多種多様な人たちと出会い、その価値観や文化に触れ、大きな刺激を受けました。

国によってお酒の飲み方に違いがあることも良い勉強になりました。以下にそれぞれ例を挙げてみます。

日本人はやはり居酒屋文化。お酒を飲む場で食事は欠かせません。また、のどごしの良いラガービールを好み、私も好きなmac's gold や東京ドライが大変人気でした。多くは一緒に来た仲間とテーブルを囲み飲食を楽しむというスタイルでパブを楽しんでいました。ちなみに東京ドライはニュージーランドの伝統的なラガーを日本のスーパードライスタイルに仕上げたものだそうです。

フランス人は大のワイン好き。私がスペインで人気のカクテル「カリモーチョ(赤ワインとコーラ)」を飲んでいると、「ワインにジュースを混ぜるなんてもったいない」「ワインに何かを混ぜるなんてありえない」と言われるほど。自国のワインに大変誇りを持っており、私のフラットメイトのフランス人は、ワインとチーズの話をいつもしており、どのチーズにはどのワインが合うのか等大変詳しいです。日本のパブで働いていた頃は、ワインの種類は赤か白くらいしか知りませんでしたが、ニュージーランドに来て、フランス人の友達が出来て、白ワインだけでもソーヴィニヨン・ブランシャルドネ、ピノグリの種類があることが分かりました。後からニュージーランド人の友達に話を聞いたところフランスのワインは一番ですが、ソーヴィニヨン・ブランはニュージーランドが一番だそうです。

スペイン人にとって、カリモーチョは貧者のキューバリブレとも呼ばれ庶民に大変親しまれているそうです。ちなみにキューバリブレの材料はラム、コーラ、ライムです。例え安いワインを買ったとしてもコーラを混ぜればおいしくワインを飲めるということで庶民に大変人気なのだそうです。私がオークランドで出会ったスペイン人の友達のお気に入りのカクテルは言うまでもなくカリモーチョとキューバリブレです。カリモーチョは私のお気に入りのカクテルなのですが、フランス人の前では飲むのを控えています。

インド人と言えば調味料。インド人も日本人同様にお酒を飲む際はフードを注文することが多いです。彼らのほとんどはソースを好み、サイドメニューのフレンチフライを注文する時は毎回と言っていいほど、ケチャップ、アイオリソースの追加注文をします。後にインド人の友達に聞いたところ、インド人のほとんどはソースやスパイシーが大好きで、ソースはかけるのではなく、浸すものという認識だそうです。

マオリの人にとってハカはこの上なく神聖なものです。マオリの人のスタッフが退職する時には、マオリのお客さんがスタッフに向けてハカを行いました。また、週末DJが来る際は、音楽に合わせてハカのような合いの手で、彼らの強さを表してました。

イギリス人と言えばフットボール。熱狂的なサッカーファンです。時差の関係で試合が早朝や深夜に行われようともイギリスの試合の日は大変混み合います。さすがパブ発祥の地、パイントビールを片手に大変盛り上がります。

このように様々な文化を垣間見ることができるのも、国際色豊かなオークランドのパブならではかもしれません。

また、私のニュージーランド生活はまさにパブを中心に成り立っていました。パブで働くことが目的でしたから当然と言えば当然なのですが。パブでの様々なお客様との出会いが私の生活に素晴らしい彩を添えてくれました。

オフの日には仲良くなったお客様とディナーに行ったり、ビーチに行ったりします。近場のパブに飲みに行けば必ず誰かしら知っているお客様がいて、おしゃべりとショットドリンクを楽しみます。ラグビー好きのお客様とラグビー観戦に行ったり、フランス人のバーテンダー仲間とパブでサッカーワールドカップを観戦したりとオフの日は大忙しです。日本とは違いお客様との距離が大変近く、友達の様な関係になれることが大変嬉しかったです。

生活面でもたくさん助けていただきました。銀行の口座のことで分からない事があれば銀行員の常連さんがアドバイスをくれたり、旅行やアクティビティの予定を立てたい時は旅行会社で働いているお客様がアドバイスをくれたり、お腹がすいてファストフード店に行った時はそこで働く常連さんがフライドポテトをサービスしてくれたりとパブのお客様には生活面でも随分支えて頂きました。

パブはお客様にとって素敵な出会いの場ですが、それはバーテンダーにとっても言えることです。言葉も通じない見ず知らずの街でバーテンダーの仕事を得て無我夢中で働いた結果、多様な人々と出会い、多くのことを学ぶことができました。そしてパブの魅力を再認識することができました。

私の修行の旅はまだ始まったばかりです。世界に愛されるバーテンダーを目指してこれからも挑戦を続けていくつもりです。

2018年10月掲載
SHARE