NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第145回コラム(Aug/2014)
ワインとビーフ in ニュージーランド
Text: 岡嘉彦/Yoshihiko Oka
岡嘉彦

著者紹介

岡嘉彦
Yoshihiko Oka

「ニュージーランドワインを毎日飲みたいから!」と言っても過言ではない程この国のワインの素晴らしさに魅せられて、数年前から移り住んでおります。大学卒業後は、カリフォルニアにあります某ワインメーカーにて勤務し、その後レストランにてお客様へ直接ワインの素晴らしさを伝えてきました。今現在は、シェフとして、ワインと料理のマリアージュ(最高の組み合わせ)を追求すべく、ここNZで毎日新鮮なNZ食材と向き合っております。少しでも多くの方に、NZワインとNZ料理の素晴らしさをお伝えできれば幸いです。

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ここニュージーランドには美味しいものが沢山あります。そのなかでも今回は、皆さんの大好きな『牛肉』と『ワイン』にフォーカスを置いておいてみたいと思います。

その前に、まずニュージーランドに牛は何頭くらいいると思いますか?訪れたことのある方ならご存知かと思いますが、どこを見ても牧草地で、どこを見渡しても牛・牛・牛という環境です。実は今現在、ニュージーランドには約1,000万頭の牛がいると言われています。そのうち約600万頭が乳牛で、400万頭が肉牛です。ちなみにニュージーランドの人口はというと、約450万人程度でしょうか。圧倒的差で牛さん達の勝ちですね。。。

私は仕事柄、よく牛肉を口にしますが、ニュージーランドの牛肉は日本の牛肉と違って、あまり脂の刺しが入ったお肉を見ることはありません。基本的には赤身中心ですが、もちろん適度に脂がのった牛肉も沢山あります。ここの牛たちは、日照時間の長い大草原の中で、ストレスを感じることなく、牧草を沢山食べて育っています。ニュージーランドの牧草牛は穀物を飼料としたよその牛に比べて、鉄分やオメガ3脂肪酸が多く血液中の脂質濃度を下げることから、低カロリー、低脂肪、低悪玉コレステロールで有名です。脂のはいり方も上品で、しつこくなく、沢山食べても胃がもたれないという、まさに「美味しくて健康になるお肉」なのです!

本来、牛肉は脂質が多い食べ物であるがために、ワインを一緒に飲む場合には、その脂を口の中から流す為にも、メルローやカベルネ・ソーヴィニヨンなどといった、渋みやタンニンの強い赤ワインがどうしても必要となってきます。牛肉がもつダイレクトで力強い味わいには、他の品種ではどうしも太刀打ちできないというのは事実です。

しかし、私が感じるニュージーランドビーフの特徴としては、程よい肉の甘味と主張しすぎない程度の脂身がそこにあります。牛にとっても過ごしやすい気候でもあり、ストレスフリーで育った牧草牛には、変な臭みもなく、赤身の部分でも十分柔らかく、いくら食べても飽きることがありません。

ということは、つまり「色々なワインにも合わせやすい」ということにもなりますね!

例えば、ステーキでお話をすると、焼き上げたお肉をそのまま塩胡椒だけで食べるのであれば、ニュージーランド・ビーフは旨味たっぷり、脂少なめのお肉なので、完熟したピノ・ノワールがお薦めです。しかし、口に含んだワインをアクセント代わり(ソース代わり)にお肉を食べようと思えば、メルローやカベルネ・ソーヴィニヨンという考え方もあります。赤ワインを煮詰めて牛汁と合わせてステーキソースを作るのと同じ発想ですね。マリアージュの時によく行う「足りない味を補う」という手法です。ちなみに、ピノ・ノワールのお薦め地区は、私個人的にはやはりセントラル・オタゴですね。赤系果実でもなく黒系果実でもなく、力強い凝縮感を感じながらも、繊細な骨格が見事に感じられる、とても洗練されたピノ・ノワールが多いです!(もちろんマールボロ地区のものも美味しいですよ!)

もしも、お肉にニュージーランドでは定番の、マッシュルーム・ソースなどが掛かってきた場合には、もちろんピノ・ノワールやメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンでも良いのですが、ブラックペッパーを振る代わりに、スパイスの香りが特徴のシラーを一緒に合わせてみても面白いかもしれませんね!もしくは、よりさっぱりと食べたいという方には、シャルドネもよいかもしれません。樽の香りのしたシャルドネであれば、マッシュルームソースにナッツのようなテイストとほのかなトースト香をプラスして、よりステーキがリッチでまろやかなものに変化するかもしれません。

私個人的には、ニュージービーフに合わせるシャルドネは北島のものよりも、南島の特にマールボロやセントラル・オタゴのボリューム感のある、フルボディで辛口なものがお薦めです。シラーのお薦めエリアとしてはワイパラ地区のものでしょうか。この地区のシラーには非常に複雑味のあるものがおおく、ステーキと合わせた場合にも、ただの「スパイス」というマリアージュではなく、最近スーパー等でよく売っている色々なハーブの入ったスパイスのミルをお肉に振りかけたような楽しみが生まれてきます。

逆に、ソースにペッパーコーン(胡椒がつぶつぶのままソースと一緒に乗ってくるもの)をチョイスした場合には、パンチの効いた胡椒に、カベルネ・ソーヴィニヨンを合わせてみてもよいですし、お肉が上品な質である為だけに、ピノ・ノワールでもよいかもしれません。

スタイルを変えて、「牛肉の和風たたき」(これもニュージーランド人には大人気)にワインを合わせるのであれば、味付けのポン酢を意識して、スッキリしたシャルドネや辛口のロゼを冷やしてマリアージュさせたいですね!この場合には私個人的にはホークス・ベイのシャルドネなんかがピッタリなのでは?と思っております。

ニュージーランドは朝昼晩とで寒暖の差が激しく、1日の中に四季があると言われています。朝晩は非常に冷え込みが厳しいですが、日中は肌がひりひりするほどの強い陽射しが降り注ぎます。その結果、糖度と酸味のバランスの取れた良いワインが沢山作られています。(もちろん造り手の並みならぬ努力も大きく影響をしておりますが)。

そして、水や空気の綺麗な大自然の中で育ったニュージーランドの牛たちから取れる、お乳やお肉は当然ながら最高品質のレベルであることに疑いの余地もありません。

同じ土壌で生まれ育ったワインと牛肉、これ程相性の良いものは他に無いでしょう。むしろ。どのワインがどのお肉と相性がいいかなどと深く考えなくても、自然と合うようにできているのではないでしょうか。

ニュージーランドビーフはよそのビーフと違い、口の中に残る脂をわざわざタンニンや酸の効いた赤ワインでリセットする必要性のいらない、非常に上品な肉質です。

あとは好みのワインを見つけて、そのワインと一緒に食べるだけ。是非、皆さんもニュージーランドにいらした際には、色々な地域のワインとニュージーランドビーフを楽しんでみてください!

2014年9月掲載
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