NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第136回コラム(Nov/2013)
地球規模ならAll Year Round!
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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さて、2013年の口開けとなるコラムはシャルドネから始めましたので、締めは当然?リースリングになるでしょう。ニュージーランドのリースリングといえば一昔前は、「美味しいけど、なんだか“キレイ”なだけ」のものも多かったように思います。世界的なリースリング・ルネッサンスが叫ばれて久しいですが、そういったワインから皆こぞって脱皮しつつあり、甘辛以外の部分でなかなかの幅が出てきています。劇的な数字ではないもののここ10年で作付面積に比例して銘柄も増え、またシャルドネと違い基本的には樽からの風味をつけない素材勝負であることも手伝って、ニュージーランドそれぞれの地域差もかなり明確にワインから感じられるようになってきているといえるでしょう。

そのことが実感できる代表的なイベントといえば、そう、ご存知SOR。お伝えするまでもなくすでに有名でしょうから、あくまで“念のため”概要をお話しますと、Summer of Riesling/サマー・オブ・リースリングは、ニューヨークのとあるワインバーのオーナーが、提供する白のグラスワインを全てリースリングにしたことに端を発するムーヴメントで、今やお隣オーストラリアなど含め世界的な広がりを見せています。飲食店はワインリストや料理にリースリングをフィーチャーして提供し、ワイナリーサイドも様々な企画をして、各地でセミナーやイベントなどが開催されます。ディナー、音楽、アート、路上パーティ…SORをニュージーに持ち込んだ仕掛け人の一人、Tongue in Groove/タンギン・グルーヴ(このワイナリー自体も流石、グルービーです)のAngela Clifford/アンジェラ・クリフォードの言葉を借りれば“最高にクリエイティヴな方法で”、参加メンバーがリースリングの素晴らしさを説いて回るのです。写真でご紹介しているように、意味深なワードが綴られた毎年デザインの変わるオフィシャルTシャツやタトゥーは、その象徴となっています。

通常のワインフェスとSORとの違いはまず、よくあるように週末の3日間、というわけではなく、開催期間がある程度の期間にわたること。本年度は12月から年をまたいで2月末迄、そう、現在はその真っ最中。そして、地域を限定したものではなく、ニュージー全土のリースリングを巻き込んだものであること。実は当初このイベントを知ったのがワイパラ・ワインのウェブサイト内にあったバナーからだったため、ワイパラ地方がアイデンティティを模索していく中で軽く始めたんかなぁと誤解していたのですが、この垣根のない心意気、なんとも素晴らしいじゃあありませんか!参加ワイナリー、そしてレストラン/バー/小売店の参加社数はそれぞれ約50を数えており、もちろんこのサイトでこれまでご紹介してきたトップクラスのワイナリーの面々も、リストにその名を連ねています。

今年で早3回目を迎え、ぽっと出の思いつきではないことがすでに証明されたといえるでしょう。消費者の認知度はもちろんのこと、多くのワイナリーで期間中のリースリング売り上げが2倍増、大手の小売店などでも15%以上アップしているとか。「つくり手も生産量を増やしているし、リースリングの売り上げが伸び悩んでいるなんて、全然そうは思えないけど?」アンジェラはこの革命がどこまでも広がっていくことを確信しているようです。

二大高貴白品種に数えられるリースリングは、シャルドネよりさらに不遇の日々を過ごしてきました。いや、ここで多くを語るのはやめましょう。ただ一つだけ、もう大分前のこと、リースリングが原料に含まれてすらいないような甘くしゃばしゃばしたワインが、同じ形の瓶に入った本物のリースリングの名声をも地に落とす原因の一つとなってしまった、ということだけ弁護させて下さい。大体、栽培に手間暇のかかるリースリングを、安価で大量生産できるよしもありません。世界規模で見れば僅かなためあまり話題にされることもありませんが、実はニュージーランドもその昔、ラベルに「リースリング」と書いた本物とは似ても似つかないワインを生産し、現在まで爪痕を残す負のイメージの一端を担ってしまっていた時代がありました。

実際、消費者に向けてわざわざDryという表記が表ラベルに必要な品種自体、そう多くはありません。さらにブドウの多才な性格、そしてリースリングを手掛ける生産者の多くが何故か(笑)とりわけ「感性豊か」であることとの相乗効果で、最近では頼みの綱の辛口表示さえもいぶかしまれてきました。近年も世界的な権威を集めて大真面目に「リースリングってどこまでが辛口って言っちゃっていいの?半辛口と半甘口って結局何が正解なわけ?」的な会議が開かれたくらいです。甘・辛スケールを裏ラベルに表記するなどして目下皆試行錯誤中ですので、近い将来より我々にやさしい世界基準が生まれることでしょう。

「う~ん、それでもやっぱり、日本は季節が逆だし、もうさすがに寒くて飲めないかな?」ですと?この冬場に忘年会やら何やらにかこつけて冷たいビールをしこたま飲み、クリスマスだの新年だといって分厚いコートを脱いだその足で迷わず冷えたシャンパーニュをオーダーするその口で、リースリングは飲めぬと吐き捨てるとは、まさに鬼畜の所業…と、いうのは冗談ですが、冬にリースリングを飲めない理由って、よくよく考えてみれば大して見当たらないのではありませんか?別段キンキンに冷やして飲まないといけないワインでもありませんし、ワインに幅がある、ということは、裏返せばそれだけその相手にも幅があるということなのですから。

もちろんWinter Rieslingに限らず、今年いっぱい、そして来年も、セオリーなどという誰かの作った思い込みに自分を閉じ込めず、様々なシチュエーションで様々なワインにチャレンジしてみてくださいね。それでは、みなさまの素晴らしいクリスマスや年の瀬、そして来年為替の影響が少ないことを祈って。Cheers!

「リースリングは大好きだけど、ニュージーまでは行けないので…」という方はこちら

「リースリング・リング」はリースリング・ファンであればすでにご存じかもしれませんが、いつもお世話になっている有坂芙美子さんが会長を務めてらっしゃいまして、Summer of Rieslingとタッグを組んだバイ・ザ・グラス・キャンペーンも展開しています。主だったイベントの一つ、ニュージーランドも含めた世界のリースリングを一堂に会した試飲会は、個人的にも数ある業者向けの試飲会の中でも特に!いつも楽しみにしているものです。嬉しいことにこちらは、一般にも開放されております。もちろん日本に流通している全てのリースリングが出品されるわけではありませんが、毎回素晴らしい満足度。まだご参加されたことのない方は、ぜひ来年お申し込みされてはいかがでしょうか?

2013年12月掲載
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