NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
エスクヴァレー ホークス・ベイ ワイナリー訪問~伝統あるエステート~
第216回コラム(Feb/2021)
エスクヴァレー ホークス・ベイ ワイナリー訪問~伝統あるエステート~
Text: 寺口信生/Shinobu Teraguchi
寺口信生

著者紹介

寺口信生
Shinobu Teraguchi

MUTU “睦“ワインメーカー | ワイン醸造技術管理士(エノログ) 日本では成城石井の子会社である東京ヨーロッパ貿易の代表取締役として、輸入商品の統括、特にワインに関してはエノログの知識を活かしアドバイスを行った。2017年にNZに移住、ニュージーランドで最初にワインが造られたホークス・ベイで、2019年よりMUTU“睦”ブランドワインメーカーとしてワイン醸造を行う。ワインは2021年より(株)都光を輸入元として全国で販売されている。現在ネイピア在住。

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エスクヴァレー ワイナリーとは

エスクヴァレー・ワイナリーホークス・ベイ地区で4番目に古いワイナリーで1933年に設立されました。1986年にヴィラ・マリア社の所有となっています。設立当初からホークス・ベイ地区でこだわりのワインを造り続けており、現ワインメーカーのゴードン・ラッセル氏は30年以上にわたりエスクヴァレーのみならず、ホークス・ベイ地区のワイン生産の生き字引のような存在です。収穫、醸造の期間はパンチングダウン、樽の移動など今でも最前線で働いています。

強い信念をもってワイン造りに向き合う姿勢は、一緒に仕事をしていてとても魅力的で参考になります。

混醸で造られる“テラス”はぶどう畑の立地も特別で、醸造方法も独特でコンクリート・タンクを使って造ります。ふくよかで深みがある素晴らしい味わいのワインです。

 

ワインメーカーへのインタビュー

2020年はとても素晴らしいヴィンテージとなりました。感想をお願いします。
ゴードンさん(以下G):私の30年以上の経験の中でも、とても特別で早い収穫の年となりました。また、赤白すべてのブドウ品種が良くできた珍しい年でもあります。

2020年ヴィンテージの特徴はどのようなものでしょうか?
G:収穫を通して腐敗果が全くなかったため、ワインがとてもクリーンでピュアであること。そして2013年のように良い酸味があり、それがワインをエレガントでリフレッシュなものにしている。これらのことは赤白両方に言えます。

今年の収穫はコロナ禍のロックダウンのさなかに行われました。影響はありましたか?

G:私自身は、ワイナリーに設置したモーターホームで収穫中は暮らしました。3人のワインメーカーが8時間ずつ交代で勤務し、1人がコロナに感染しても2人でカバーできるようシフトしました。例年収穫中は12時間以上働くので奇妙な経験でした。ただ、天候が良かったため余った時間に歩いたり、軽い運動ができたので、体調は良かったです。もし天候不順でモーターホームで本ばかり読むようなことになっていたら大変だったと思います。

ニュージーランドワインは、特にヨーロッパやオーストラリアと比べてどのような特徴がありますか?

G:ニュージーランドのワインは、ヨーロッパのワインと比べてよりフルーツの感じが強く感じられると思います。土壌自体が若いこと、ぶどうが若いこと、オゾン層の影響、醸造方法がモダンなことなどが考えられますが、よくわかりません。いずれにしてもニュージーランドのワインはその品種の個性がより強調されていて、ヨーロッパのワインはぶどうが育っている環境の影響を強く受けていると感じます。
オーストラリアのワインはニュージーランドよりも暖かい地域でブドウを栽培しているので、よりリッチでアルコール感があります。また、オークの感じも強いものが多くあります。

ニュージーランドはソーヴィニヨン・ブランが有名ですが、ホークス・ベイでお勧めの品種を教えてください。

G:ホークス・ベイはニュージーランドで最も古く、様々な品種が植えられている地域です。その中でも、シャルドネシラーボルド―系の品種があげられます。

なぜワインメーカーになったのですか?

G:初めてワインを造った時からその魅力に取りつかれました。そして、この楽しみを人生を通して続けるしかないと考えたからです。

ワイン造りの哲学を教えてください。

G:まずは最高の品質のぶどうを栽培すること。そして自然が私のワイン造りを支えてくれます。これはとてもナチュラルな考え方で、できるだけ手を加えずに醸造し、毎年同じものを造ろうとしないことです。自然がワインを造ってくれます。

ゴードンさんは常にニュージーランドワイン産業の中心にいますが、変わったこと、変わらないことは何ですか?

G:天候だけは毎年必ず変わります。ブドウ品種の多様性、ソーヴィニヨン・ブランはニュージーランドをワールドクラスに持ち上げました。ワイパラセントラル・オタゴといった新しい産地、醸造学を学ぶ環境、ワインツーリズムなどワイン産業の発展には目を見張るものがあります。
ワインメーカー同士の友情やアイデアをシェアする仲間意識は変わりません。いろいろなコストが上がる中、ワインの価格も30年間ほとんど変わっていません。

 

今、日本でも多くのワイナリーが建設され、また国際的な評価も得てきています。日本のワインメーカーにアドバイスをお願いします。

G:自らの畑、アイデア、情熱を注ぎこんだ自分だけのワインを造るよう心掛けること。自分の好きなワインやワインメーカーのコピーをしないこと。これらはインスピレーションを得るだけにしましょう。どの品種が自らの畑に最適か分かるのにはとても時間がかかります。しっかりと時間をかけて、世界に発信できる品種を選びましょう。

 

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