NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第230回コラム(Jun/2023)
命、受け継ぎ、ワインと出会い
Text: 和田咲子/Sakiko Wada
著者紹介
和田咲子
Sakiko Wada
日本に住んでいた頃からヨーロッパワインは飲んでいたものの、1994年の渡航以来、先ずはニュージーランドワインの安くて美味しい事に魅せられ、その後再度オールドワールドやニューワールドワインに拡大してワインをappreciateしている。ただ消費するだけに終わらない様に必死にwine drinking culture の質を高めようと努力する毎日である。
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皆さま、こんにちは。
日本の多くの地域と比べても比較的温暖なオークランドですが、随分寒くなってきました。とは言っても、6月22日にショーテスト・デー(冬至)を迎えましたが、それでも朝の室内温度が12度ですから大したことはないですね。
皆さまは、夜寝る時と朝起きた時に何を考えておられますか? 何か決めた行動をとるなどされていますでしょうか? 実は昨年、私の父方の叔父が100歳を迎え、岸田総理からの表彰状をいただきました。それで集まった従兄弟や従姉妹たちが聞いた長寿の秘訣をここでシェアしたいと思います。
いかがですか?夜寝る前にニッと笑ってから寝る、というのは随分以前から行ってはいましたが、おへそがご先祖様と繋がっていたところ、という部分には少なからず衝撃を受けました。
というのも昨年からこの半年の間に88歳の友人、89歳の母、73歳の友人、中学高校の同級生、そして大切なワイン友達でもあった68歳のKiwiの男性、と5人もの近い人たちを見送ったからでもあると思います。人の魂は永遠であり、輪廻転生は繰り返されている、と私は思っています。又この世で触れ合う人たちは、前世や前々前世でも何らかの形でかなり近い場所で袖触れ合ってきた魂が宿っている人たちなのだ、とも信じることができています。ですから人の縁、横のつながり、縦の繋がり、命の脈、そういったことがとても大事に思えています。自分の力や意思では決して変える事のない大きな流れの中に行かされている、と思うと、そこには自然に感謝が生まれてくる気もします。
おっと、又前置きが長くなってしまいましたが、上記の様な想いを胸に秘めていると【出会い】もとても大切にしたくなってきます。人との出会い、そして趣味との出会いも。
今回は、ワインが出合わせてくれて、でも私より一足だけ先にあちら側の世界へ一旦戻っていったワイン友達のピーターの事を書きたいと思います。
ピーターとの出会いは、オークランドはウェスト・リン(West Lynn)というエリアにあったWine Vaultと言うワインショップの2階で始まったワイン・クラブで、2011年頃でした。別のワイン友達に連れて行ってもらったのですが、10人ほど集まっていてその多くがワイン業界で働いているメンバーの中で、気軽に沢山私にも話しかけてくれ、その場に自然に馴染ませてくれました。ワインが好きで好きでたまらない、という雰囲気が溢れていて喋りだしたら止まらない場面もありました。
毎月メンバーの自宅持ち回りかレストランでテーマに沿ったワインを持ち寄ってテイスティングをしていますが、このワインクラブはコロナの前に10周年を迎え、その時には創設者であり今はクライストチャーチへ移住していったヒュー&ニコールというカップルもオークランドまで来てくれました。
3人目となるクラブのセラー・マスターであるピーターは、細かなところまで気を使い、また、彼の自宅で開催するときには本当にホスピタリティーにあふれた、その月のテーマのワインにマッチングしたフードを本格的に作ってくれていました。お庭にも野菜を植えて新鮮な食材で皆を歓待してくれました。
そんなピーターは皆から慕われていて、私達はピートと呼んでいましたが、毎月のミーティングのお知らせメールが別のメンバーから2度回った後、彼の肉体は彼の魂と離れてしまいました。本当に急で皆、唖然としました。私は母のお通夜やお葬式での一時帰国からオークランドに戻ってすぐでしたがお葬式にも駆けつけました。こちらのお葬式の良いところは故人の生前のエピソードなどを面白おかしく紹介してくれるので重い気持ちから解放されます。
丁度その時に彼が丹精込めて育てたカラフルなトマトが採れたそうでバスケットに並べられていたのも印象的でした。その場でメンバーの皆と話してすぐに彼の好きだったワインや彼と一緒に飲みたかった特別なボトルを持ち寄って偲ぶ会をしよう、という話になり、奥様や息子さんにも来て頂ける日が決まりました。
ワイン愛好家のほとんどは、それぞれのワインの中に好みのエリアや銘柄(ラベル単位で)があるので、ピーターの好きなワインも幅は広いのですが、何と言ってもニュージーで造られているトップクラスのボルドー・ブレンドが彼のお気に入りであることは、彼と少し話せば誰でも感じるほどでした。ですので当日にもそういったワインがたくさん集まりました。
ドンペリのヴィンテージ2008年、ニュ―ジーランドはホークス・ベイにあるクラギー・レンジ(Craggy Range)のメルロー18年もの、同じくホークス・ベイのテ・マタ(Te Mata)のColeraineこそはピーターの口から何度も出ていたワインなので、二人が持ち寄り1998年と2013年の2本の垂直試飲が出来ました。
ワイヘキ島のディステニー・ベイ(Destiny Bay)のマグナ プラミア(Magna Praemia) 2008、それにマタカナのGillman Vineyard のカベルネ・フラン主体のボルドー・ブレンドはメンバーでもあるワインメーカー持参のものです。
私はマタカナの プロヴィダンス(Providence)の2013年の シラーにしました。10年ものでまだ若かったですが、皆の評判も上々で、リファインされつつあるタンニンが心地よい味わいでした。デキャンタしたのでお昼寝から目覚めてくれた感じですね。
ピーターも喜んでくれていた事でしょう。
様々な想いが心の中に渦巻きながら、この世に生まれてきて様々な人たちと出会い、又次に再開するときには覚えていなくても魂が引き寄せ合ってくれるのではないか、そんな気持ちで母やピーターを始め、あちら側の世界へ一旦戻っていった人たちの事を考えます。ワインにここまで傾倒させてくれたのはそんな誰かの魂の力もあったのかな、とも考えたりして。
自分が楽しめて更に仲間が広がるワイン・アプリシエーションという趣味と出会えてよかったな、と思っています。ワインにも有難う、周りに居てくれる人たちにも、ありがとう!
このコラムを読んでくださった皆さまが、今この瞬間を更に充実させて、良い仲間と良いワインを楽しみながら人生のひと時をエンジョイして頂ければ嬉しいなあと思っています。
Tuesday 27 June 2023 執筆