NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
広まれ!ニュージーワイン
第227回コラム(Dec/2022)
広まれ!ニュージーワイン
Text: 岩須直紀/Naoki Iwasu
岩須直紀

著者紹介

岩須直紀
Naoki Iwasu

愛知県出身、名古屋市在住。ニュージーランドワインとフュージョン料理の店「ボクモ」オーナーソムリエ。ニュージーランドワイン専門通販店「ボクモワイン」を運営。 ラジオ番組のディレクターを経て現職。現在も構成作家としてラジオ番組の制作に関わっている。飲食業界に入ったのも、ニュージーランドワインに出会ったのも30歳を過ぎてから。遅れてきた男である自分と、ワインの歴史に遅れてやってきて旋風を巻き起こしつつあるニュージーランドワインを勝手に重ね合わせ、「ともに頑張ろう」などと思っている。

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岩須直紀と申します。
僕は、名古屋でニュージーランドワイン+多国籍料理の飲食店「ボクモ」をやっています。

去年からニュージーランドワイン専門のオンラインショップ「ボクモワイン」もはじめました。https://wine.bokumo.jp/

ただ、僕は、現地での経験はあまり豊富ではありません。というか、ワイナリー巡りをしたことがあるのは、南島だけ。

よし、北島もまわるぞ、と思っていたところでコロナ禍になり、お預けを食らっている状態です。
なので、ここにコラムを寄せている皆さんのような、生産現場のお話や現地での生の情報は、ほとんど紹介できません。
皆さんのコラムを拝見してふむふむと勉強させているまだ丁稚の身分です。

しかし、このたび、主宰の齋藤慎さんよりご指名を頂き、コラムを担当することになりました。

うーむ、何を書こうか。

そうだ。

僕ができるのはやっぱり「消費の現場の話」かな。

名古屋でワインバーをはじめて今年で13年が経ちます。

開業の時、クライストチャーチに住む従兄弟から送ってもらったのがニュージーランドワインとの出会いでした。

ソーヴィニヨン・ブランのあの香りと味わい、まだそれほどワインに詳しくなかった僕には衝撃的でした。

そして、店は「ニュージーランドワインもある洋風居酒屋」としてスタート。ワインを学べば学ぶほどニュージーランドワインが好きになり、今では「ワインはニュージーランド産しかないワインバー」になりました。

毎日、ニュージーランドワインの説明をお客さんにし、グラスに注ぎ、毎日オンラインショップの売れ行きをチェックしています。

そんな中で、僕が感じたこと。

ニュージーランドワインが日本で今、どのような楽しまれ方をしているのか。そして、今後どうなっていったらより楽しいか。

そのあたりのお話をしていけたらと思います。

さて、おそらくこのサイトをご覧の方は、僕を含めニュージーランドワインが好きな方ばかりだと思います。

特に、ニュージーランドにお住まいの方にとっては、日常の飲み物になっていることでしょう。その素晴らしさを毎日のように感じていらっしゃると思います。

しかし日本においては、好きとか嫌いの前に「まだ知られていない存在」です。

僕の店に初めていらっしゃる方は、「ニュージーランド産なんて珍しいですね、初めて飲みました。」という方が多いです。

そして、多くの場合、「わ!美味しい!こんな味のワイン、初めて飲みました!」となります(特にマールボロソーヴィニヨン・ブランの若いヴィンテージ)。

そのたびに、よし、伝わったぞと嬉しくなるのと同時に、やはり、好きなものがあまり知られていないなと、すこし寂しい気分にもなります。

そして、どうしたらもっとこの良さが広まるんだろうと、考えます。なかなか答えは出ませんが。

そうそう、データで見てみても、世界のワイン産業に大きな影響を及ぼす「ワイン評価国」として知られるイギリスや、大量にワインを輸入している国アメリカでは、すでにニュージーランド産は一定の評価を受け、売れています(輸入国の国別ランキングではともにTOP3入り)。

一方で日本では、ニュージーランドワインの輸入量は、2021年の国別ランキングで11位。
やはり、僕の店頭での実感と近いです。

今年、日本ソムリエ協会のワインエキスパート試験でニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランが出題されたりして、「ワインを勉強している人にとっては外せないワイン」になっているとは思います。が、実際のワイン界の中ではまだサブキャラ的位置づけなのです。

もちろん日本は、世界からワインが集まる国ですし、そもそもワイン以外の飲料がとても種類が多いので、ユーザーの選択がばらけるのは当然のことです。

でも、それは、イギリスやアメリカで売れているのに、日本ではあまり売れていないことの説明としては、足りません。

やはり大きな問題は価格にあるでしょう。

長い間、日本はデフレです。
余暇を楽しむための相棒であるワインも、それほどお金をかけられないという人が多いのが、今の日本だと思います。

チリワインが日本における輸入ワインの主役に躍り出てからしばらく経ちますが、ニュージーランドは、どうひっくり返っても価格ではチリには勝てません。

フランス、イタリア、スペイン。それに隣国オーストラリアも、安いゾーンのワインがちゃんと揃っています。

日本におけるニュージーランドワインのボリュームゾーンは、1500円から2000円の価格帯です。そして、1500円未満のワインが極端に少ないのが他の国との大きな違いです。

どのライバルも1500円未満の価格帯のワインがたくさんあり、そこが販売量のボリューム・ゾーンになっています。つまりニュージーランドは全然安くない。

理由は、ニュージーランドがブティック・ワイナリーだらけの国であることが大きいと思います。

規模が小さいワイナリーでは、価格を下げるのには限界があります。大規模ワイナリーでしか実現できない低価格帯のワイン、いわゆる水よりも安い部類のワインが、ニュージーランドにはほとんどありません。

やはり「安くて美味しいのが飲みたい」という日本のマーケットのニーズには、今のところ、なかなか応えることが難しいのがニュージーランドワインの現状だと思います(もちろんピノ・ノワールは他の国と比べるとお値打ちだと思えるものも多いですが、価格はほとんどが2500円以上です)。

じゃあ、ニュージーランドワインがもっと日本で広まるのはどうしたら良いのか。

僕が現段階で思いつく方法は、2つあります。

1)バルクワイン(大容量ワイン)をもっと増やす

2)ストーリーをもっときちんと語る

1)のバルクワインを増やすというのは、価格問題に真っ向から挑むやり方。

やはり、瓶詰めされたワインよりも、大容量の容器に入れたワインの方が、輸送コストはぐんと抑えられます。当然、小売価格も安めに設定できます。

たとえば、セブンイレブンのPB商品「Kapuka」や、ファミリーマートの「Moana Bay」は、メルシャンが大容量の容器で輸入し、藤沢工場で瓶詰めされ、全国に流通しているワインです。

これら銘柄などの伸びによって、これまではありえなかった「500円〜1000円」のゾーンのワインが出現しています(2021年はおよそ2万ケース。全体の17%)。

以前、メルシャン藤沢工場に見学に行ったことがありますが、いろいろな最新の設備の中で、バルクワインの瓶詰のプラントは圧巻でした。非常に緻密な技術を持っていると感じました。素晴らしきかな日本のものづくり。

ドデカい容器に入ったワインを輸入して日本の技術でうまく小分けにする。日本の食卓に安価に届けるためには、有効なやり方だと思います。
特に、Moana Bayは、日本人にとって飲みきりやすい500ml瓶に入れて、価格は900円弱と、絶妙に手に取りやすいところをついていると思います。

肝心の味わいは・・・僕がお客さんにヒアリングした限りですが、「じゅうぶん美味しい」「ありでしょう」という方もいれば、「ちょっと薄いかなあ」という意見もありました。

個人的には(今の僕の店には置くつもりはないですが)、ニュージーランドワインの世界へのゲートウェイとしては、必要な存在だと思っています。

品質をさらに向上させたバルクワインが増えれば、裾野が広がることは間違いないです。

2)のストーリーをもっときちんと語る、というのは、価格戦略をいったん置いておいて、今、生産されているワインをの価値をどうやって伝えるかについてフォーカスしたやり方です。

地道ですが、小さな存在である僕はこちらをやらねばと思っています。

ワインを楽しむというのはもちろん異国の食文化です。信長の時代にやってきて、長い時間をかけて日本の中に入り込みました。

僕たちの世代だと、まだ「ワインはおしゃれな飲み物」という感覚があると思いますが、僕の店にいらっしゃる若い方からお話をうかがっていると、「小さな頃から食卓にあるお酒」という家庭も少なくないようです。

そういう話を聞くと、ワインもようやく日本人の日常に溶け込んできたんだなと思います。

そして、言わずもがなですが、ニュージーランドワインは、他の国にはない魅力があります。特にソーヴィニヨン・ブランの傑出した風味は他の国にはまずない。ピノ・ノワールも他の国に負けない品質のものが数多くあります。

しかし。

味が美味しいから。ニュージーランドにしかない味だから。それだけで勝手に売れるわけではないと、僕は思います。

ニュージーランドワインが、なぜ魅力があるのか。そこをもっとしっかりと伝えることが必要だと思います。

例えば、今、日本ではブームを通り越し、現代日本人の当たり前の選択肢として定着しつつある「南インド料理」。

聞くところによると、この食文化の定着に大きな寄与をしたのが、今から20年ほど前に書かれた南インド料理の専門書だったそうです。

医食同源の考えをもとに、食材やスパイスを選択している。油は少なめで、野菜や豆をふんだんに使う。スパイスの刺激はあるものの、胃にはもたれにくい。欧米化が進みすぎた日本の食にとって、今、取り入れるべき料理である。

そういった、「なぜ南インド料理がそんなに我々にとって魅力的なのか」をきちんと説明した先人がいたわけです。

文化の背景を知った上で、南インドのカレーを食べると、その魅力が腹に落ちます。そしてその体験を、誰かに紹介したくなります。こうして広がり、やがて日常に定着していったのだと南インド文化inジャパンの界隈では言われています。

つまり「価値を言語化すること」。

それが、飲食業界が成熟しまくっている現代日本において、異文化が入り込む上での基礎的な要件となっているかもしれない。そう僕は思います。

翻って、ニュージーランドワイン。

「なぜ他の国のワインでなくて、ニュージーランドワインが良いのか。」
このテーマで、魅力をきちんと語ることができる人は、今はたぶんあまりいないように思います。かく言う僕もまだ模索中です。

本が良いのか、イベントが良いのか、メディアでの拡散が良いのか。いろいろ方法はあると思います。

とにかく、ニュージーランドワインにどハマりしている人が、日本にニュージーランドワインが定着するべき理由を語る。

そして次にハマった人が、またその理由を語る。その繰り返しによって、多くの人を魅了していく。そんなサイクルが必要なのではないかなと感じています。

今後もこのコラムを通じて、ニュージーランドワインが広まる方法、考えていきたいと思います。

もし、名古屋にいらっしゃる機会があれば、ボクモでそんなお話ができたら嬉しいです。
あ、もっと気楽に「やっぱりソーヴィニヨン・ブラン美味しいよね」とか「あのワイナリー行ったら良かったよ」みたいなお話の方が盛り上がるかな。

だいたい毎日カウンターにいますので(たまに不在のときもあります、すみません)、よかったらお立ち寄りください。

(ボクモの最新情報はこちら

(当サイト上でのボクモワイン情報はこちら

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