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「プロフェッショナル・ワイン・ドリンカー」と口の悪い友人に呼ばれたりすることもあるが、それは、ワイン消費量がプロ級と言う意味だと思う。それだけ一生懸命消費していても、知っているワインより知らないワインの方が当然多い。「デシベル」も、初耳。だからか、「デシベル、と言うワインのテースティングに行きませんか?」と誘われた時、最初はお断りしたものの、軌道修正し、きわめてプライベートなテースティングに「かばん持ち」で参加させて頂いた。どうして参加したか、というとワイン・メーカーのダニエル・ブレナン氏のプロフィールと写真を見て、ストーリー性があり、猪突猛進しそうなワイルドのイメージだったからだ。
なかなか多趣味・多芸で、デシベル・ワインズのホームページのみかけは質素だが、フェイスブック、ポッドキャストを通じ、その多面性の一部を披露している。自己をジャーニーマンと称している通り、生まれ故郷のフィラデルフィアを皮切りに、アメリカ各地、ヨーロッパで数年過ごし、ロックバンドのツアーマネージャーの経験もあるとか。中でも面白いのはベルギーのブリュッセルにあるヨーロッパ議会でインターンを経験。彼のポッドキャストからは、インタビュースキルもさることながら、通常は饒舌でないような人から面白い話を引き出す技量を持っている。しかも、声がとても素晴らしい。ワイン片手に彼の経験を聞くだけでも、ボトル数本が空になりそうである。
ワインとのかかわりは、産まれる前からあった。シシリー出身の祖父はワイン造りの家系で、アメリカに移民後、フィラデルフィアでレストランを始めた。現在も家族で運営しているこのレストランでニュージーランドワインを扱っていて、ダニエルは若い頃からその味に可能性を見出していた。アメリカ国内(ナパを含め)ヨーロッパ各地でワイン修行。その中で、自分の作りたいワインが作れる魔法の場所を探し求め、最終的にニュージーランドにやってきたのは2001年。ホークス・ベイの国立高等専門学校EITでワイン醸造研究 と葡萄栽培法を習得後、テ・アワ、ヴァイダル・エステート、ユニソン・ヴィンヤード等幾つかワイナリーでワイン造りに関わってきた。2009年に初めて自分のワインを作り始め、翌年に立ち上げたのが名前のイニシャルを取り名づけたデシベル・ワインdB(デシベル:音量を示す符号)。
どうしてニュージーランドだったのかとの質問に、「ここは若い国だから、自分のやりたいことをいろいろできる可能性がある。これまで違う国でワイン造りを経験してきたので、今度は試したかったことを実際に自分の手で、理想のワインを造れるところがここだった」と答えてくれた。
「その集大成としてのワインが完成した時は『悟り』に似た境地。今は、やっと探し求めていたものが見つかった安堵感がある。ずっとワイン造りは続けていきたいね。」
まず頂いたのがホークス・ベイ ソーヴィニヨン・ブラン(2013年)。口にすっきりするやや甘みのあるワイン。
次は、私の個人的お気に入りとなったアンプリファイド・ホワイト(2014)。これはホークス・ベイのシャルドネとダートモア・ヴィオニエを9対1でブレンドしたもので、その崇高な味とアロマが『増幅』されているのが売り。どうやら4つのステンレスタンクで、4種類のイーストを使って発酵されたらしい。「これってワイン?」という一瞬何を飲んでいるのかわからない味が口いっぱいに広がった。その他に頂いたワインは、ホークス・ベイ・ソーヴィニヨン・ブラン(2013)、マーティンボロー・ピノ・ノワール(2011、2013)歴然として味の違いがあり、まるで異なるワイナリーで作られたワインのようであった。
量より質で、年間生産量は1500-2000ケースのみ。と、いうとワイン・メーカーの思いこみだけのようだが、自分の目標とするワインに手間をかけ作り上げ、現在の販売網は自社ホームページと幾つかのディーラーを通じてのみか、あるいは限定レストランに直接販売をしている。「日本の皆さんに僕のワインを紹介するのは夢のひとつ。日本文化にはとても興味があり、是非とも訪れてみたい。そして、日本のワイナリーも見学させて頂きたい」と答えてくれた。
オークランドでのテースティングの直後、アメリカでのテースティング・ツアーに出発したダニエルは、故郷のフィラデルフィの地元紙に『ニュージーランドでワイン造りをする、土地っ子のワイン紹介ツアー』という凱旋記事が出ているほどの名士。作るワインの量は非常に少なく、大規模な販売計画を持たず、自分の足で切り開いた店とオンラインでの販売で、まさに「芸術的な」手細工のワインを丹念に広めて行く、マジカル・ミステリーツアーだ。