NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第59回コラム(Nov/2007)
10周年を迎えた祭典~ニュージーランド・ワイン・ショー(後編)
Text: 堀内茂一郎/Moichirou Horiuchi
堀内茂一郎

著者紹介

堀内茂一郎
Moichirou Horiuchi

山梨県出身、NZ在住。大学卒業後、進路を一変して辻調理専門カレッジにてフランス・イタリア料理を学ぶ。初めて勤めた東京のフレンチレストランで、サービスの魅力に惹かれてワインの勉強を始める。その後、北海道に移り、某高級ホテルのレストランで、サービス・ソムリエを勤める最中、数々の素晴らしい景観に心を奪われる。新たな大自然との出会いを求めてNZ滞在中。WSET Advanced Sertificate、JSAソムリエ資格を保持。現在はオークランドのTriBeCaレストランでNZワインとの出会いを楽しみながらいつか自分のお店を持ちたいと考えている。

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Decanter誌7月号では、ニューワールドのピノ・グリが取り上げられていました。その中でもニュージーランド産のものが数多く紹介され、世界のトップランナーとして注目され始めています。潜在糖度の高いピノ・グリは、暖かい気候の中では重たく切れ味の悪いワインに仕上がってしまいます。涼しい気候がワインに適度な酸とミネラルをもたらし、飽きのこないフレッシュ感を補うので、特にセントラル・オタゴ産ピノ・グリに期待が集まっているようです。

同誌で5つ星のDecanter Awardを受賞したAstrolabe Pinot Gris 2006は、試飲会場に2007年のものが展示されていました。残糖7.5g/l、ゲヴュルツトラミネールやリースリングも少しずつ加えられたこのワインは、白桃や洋ナシの香りとエキゾチックなスパイシーさが際立ち、やさしい甘みと長い余韻が楽しめました。

イギリスの2006-International Wine ChallengeでGold Medalを獲得したMt. Difficulty Pinot Gris '05は、やはりニュー・ヴィンテージが展示されていて、セントラル・オタゴ産らしいフレッシュ感が特徴です。青りんごやライムの香り、アルコールと酸のバランスがとても良いと感じました。同ワインの2006年は、Decanter誌でも4つ星を獲得しています。

その他、Terrace Heights EstateのPinot Grisも印象深いワインでしたが、何といっても一番のお気に入りはCracraft Chase "Wood's Edge" Pinot Gris 2005です。オーナーのLaryn夫妻はイタリアからの移民で、5haの畑からピノ・グリだけを生産しています。イタリア出身なのに、なぜラベルにピノ・グリージョを名乗らないのか尋ねたところ、「飲んでみればわかるよ。」と人懐こい笑顔で一言。そのワインの香りからは熟れた洋ナシ・梅の花・スモモを感じ、たっぷりの酸を湛えながら、口中に広がるまろやかなクリーミーさがありました。オフ・ドライでミネラル溢れる味わい。余韻は長く、酸と果実味のバランスが抜群です。彼の笑顔の意味がわかりました。彼が作ろうとしているワインは、爽やかでライトなイタリア品種のピノ・グリージョではなく、年月と共に複雑味を増す、偉大な品種としてのピノ・グリなのです。

実は今、このワインの2004年が冷えるのを待ちながら、このコラムを書いています。ワインを購入した近所のワインショップのおじさんも、このワインを絶賛していました。大多数のニュージーランド産ピノ・グリは発売後1~2年が飲み頃ですが、これは少なくとも3年以上は熟成すると思います。

試飲したピノ・ノワールの中では、Clos Henri(クロ・アンリ)Pinot Noir 2006やClos Marguerite(クロ・マルグリット)2006のような、エレガントな作りのものが心地よく感じました。どちらも強いインパクトはありませんが、サンセールやメルキュレイのような、繊細で優しく、滋味溢れるワインです。こういったワインは、山羊乳チーズやサーモン・ソテーなどと一緒に、食事中に楽しむのが理想だと思います。

今回の試飲会では、来場者の投票を募って、参加ワイナリーの中からベスト・ワイナリーとベスト・ワインメーカーを選ぶという催しも行われました。最後にその結果を以下に報告したいと思います。

<Buyers Choice Winery Award>Amor-Bendall Wines/アモール-ベンダール・ワインズ

<Buyers Choice Winemaker Award>John Forrest(Forrest Estate Winery/フォレスト・エステート・ワイナリー)

余談ではありますが、当日いい気分でレストランに戻った僕に、ワインの神様から思いがけないプレゼントがありました。その日は来客の少ない静かな夜でしたが、遅い時間に近くにお住まいの常連のお客様が、友達のギタリストと共にご来店になりました。何かのお祝いだったらしくお二人はかなりの上機嫌で、なんとChateau d'Yquem'89のマグナムボトルをご注文いただきました。閉店間際だったため、我々スタッフにもグラスが配られ、その恩恵を授かる運びに。エチオピア人であるマネージャーのYeshiから、ギタリストにボブ・マーリーのリクエストがあり、その瞬間からレストランはミニライブ会場へと姿を変えました。彼の歌声は18年熟成のYquemと素晴らしく調和していて、僕は初めて、音楽とワインのコラボレーションを体験しました。こんなワインの合わせ方もあるのですね。そう、だからワインって面白い。

そろそろ冷やしていたワインも良い加減になってきたと思います。さて今夜はこのピノ・グリに何を合わせましょうか?

2007年11月掲載
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