NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
ニュージーランドワイン試飲商談会に行ってきました
第231回コラム(Aug/2023)
ニュージーランドワイン試飲商談会に行ってきました
Text: 岩須直紀/Naoki Iwasu
岩須直紀

著者紹介

岩須直紀
Naoki Iwasu

愛知県出身、名古屋市在住。ニュージーランドワインとフュージョン料理の店「ボクモ」オーナーソムリエ。ニュージーランドワイン専門通販店「ボクモワイン」を運営。
ラジオ番組のディレクターを経て現職。現在も構成作家としてラジオ番組の制作に関わっている。
飲食業界に入ったのも、ニュージーランドワインに出会ったのも30歳を過ぎてから。遅れてきた男である自分と、ワインの歴史に遅れてやってきて旋風を巻き起こしつつあるニュージーランドワインを勝手に重ね合わせ、「ともに頑張ろう」などと思っている。

ボクモワインの販売ワインはこちらから

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今年も行って参りました。
我らニュージーランドワイン好き(の業務関係者)の祭典へ。
場所は東京・六本木のリッツ・カールトンです。イベント名は「ニュージーランドワイン試飲・商談会」。
このサイトの主催である齋藤慎さんが年に1度開催しているイベントで、今年で10数年目。コロナでの中断がありましたが、去年から復活しました。

ニュージーランドワインの最新情報が集まるイベントは日本でこれだけ。僕にとってはとても貴重な場です。会場がまだ新宿のヒルトンだったときから、おそらく通算6回くらい参加していると思います。

最初は名古屋からおっかなびっくり参加していましたが、徐々に出展されているインポーターさんの顔もわかるようになり、今では顔なじみの方と再会するのも楽しみになってきました。

今年は出展社が29社。280種類ほどのワインが出品されるということ。その中からボクモ&ボクモワインで、できれば10~20銘柄くらい新規採用できたらなと思い、張り切って挑みました。

・・・と、その前に。
その試飲会より少し前の時間帯に、別室でプロ向けの「ニュージーランドワイン・マスタークラス」の講義が開催されるということで、まずはこちらへ。
講師はコンラッド東京のソムリエ、森本美雪さん。ニュージーランドのレストランでの勤務経験もあり、知識も豊富で、おそらく今、ニュージーランドワインについていちばん詳しい日本のソムリエだと思います。
今回はみっちり90分で9種類のテイスティングです。

まずは、マールボロソーヴィニヨン・ブランの飲み比べです。サブリージョンに分けて、その特徴を探るというものでした。
今やマールボロは世界有数のソーヴィニヨン・ブラン産地。栽培面積ではフランスを抜いています。実際にマールボロ訪れたときには、整然と並んだぶどうの木が、広大な丘の上に緑のストライプの布をかけたように見えました。その広さに驚きました。

そして、僕が自分の店で扱うマールボロソーヴィニヨン・ブランは、レギュラーで数種類、準レギュラーを入れると十数種類あります。それぞれのワインは、「パッションフルーツ強め」とか「ハーブ強め」「ミネラル感しっかり」などの個性があるなと常々思っていました。
が、どのエリアのぶどうがどんな味になるのか。それを体系的に知ることは、実際はなかなか難しいのです。なぜなら、マールボロソーヴィニヨン・ブランは、いくつかの離れた畑のぶどうをブレンドしてバランスを取っていることが多いから。サブリージョンの味がどうであるかを、ブレンドされた後のワインから想像するのは難しいのです。

でも、今回、単一サブリージョンのワインをテイスティングすることができ、その個性がはっきりとわかりました。
石が多いワイラウヴァレーは石の輻射熱の影響で、ぶどうが熟しやすくふくよかになりやすい。冷涼なアワテレヴァレーは明るいハーブのニュアンスが出やすい。粘土質のサザンヴァレーはしっかりとした腰がある。そんなふうに森本さんは説明されていました。
なるほどな。
ニュージーランドワインが好き、マールボロソーヴィニヨン・ブランが好き、というお客さまが、次の一歩を進みたいとき。
今後そんな機会があれば、引き出しから、サブリージョンによる風味の違いの話を取り出してみようかなと思います。

続いては、今後のニュージーランドワインのトレンドについての話。
オレンジワインは流行ではなく、すでにワインの1ジャンルとして定着してきている。そして、「ペット・ナット(ペティヤン・ナチュレル)」も市民権を得つつあり、次のトレンドは「チルド・レッド」つまり冷やして飲むためにつくられた薄め赤ワインだ、とのこと。

実際にその新ジャンルのチルド・レッドをテイスティングしましたが、なるほど、これはうまいです。

夏の暑い日に、お肉料理やエスニック料理とあわせてさらっと飲むのにはぴったりだと思いました。
ただ、日本にはまだほとんど入ってきていないようなので、本格的に日本のファンに紹介できるのはもうちょっと先になりそうです。価格面でももうちょっとこなれてくるとなおよいと思いました。

 

さて、90分の講義が終わり、いよいよ試飲・商談会の会場へ。

去年は、コロナ禍からの復活第一弾ということで、かなりの数の方が押しかけていました。正直、なかなかインポーターさんと突っ込んだお話がしづらいほどぎゅうぎゅうでした。

しかし今回は、参加人数をしっかり調整したということで、去年に比べるとスムーズに試飲ブースを廻ることができ、初めてお会いする方とも色々お話ができました。

全体を見渡して、気になったのはやはり価格面。円安などの影響で各社の希望小売価格は上がっていました。これはニュージーランドだけに限ったことではなく輸入物すべてが今は上がっているので、上がり幅的にはまあ妥当なのかな、という印象です。

物価も賃金も上がらないニッポンの中にいると、どうしても昨今の輸入品の値上がりはかなりキツいと感じます。が、そもそも先進国の中でこんなに物価が上がってこなかった国は日本くらいなので、今は、他国との物価上昇のギャップが浮き彫りになってきている時期なのでしょう。
「美味しいワインを安く手に入れたい」
「いや、美味しいワインならある程度支払う必要がある」
僕らは、この相反する気持ちを持っています。もし、今後も輸入品の価格が上がっていくならば、その気持ちの行ったり来たりの振れ幅がさらに大きくなるんだろうなと予測します。

さて、ここからは、その日、僕が個人的に「これはいいぞ」と思ったものを、勝手につくった部門別ご紹介します。

 

やっと出た部門

  • マヒ ピノ・ノワール ロゼ 2022

僕が大好きなワイナリー、マヒのピノロゼがようやく日本上陸です。待ってました、いいぞいいぞ。
8年前にマヒを訪れたとき、ちょうどロゼの仕込みをやっていて、オーナーのブライアン・ビックネルさんは、タンクの中の色づき具合をしきりにチェックしていました。セニエじゃなくて、ちゃんとロゼ用に仕込んでいるんだ、きっと美味くなるよ、と言っていましたが、その時は試飲できず(発酵前のピノノワールのジュースは試飲させて頂きました。たまらん旨さでした)。
現地ではリリースしていたと思いますが、ずっと日本へは入ってきていませんでした。そして、8年越しに出会ったマヒ ピノロゼ。
ああ、こうだったのか。明るいベリーの風味で、あのマールボロの青い空、なだらかな緑の丘、強く吹く風がぶわっと蘇りました。

ゴージャス部門

  • ノヴム マールボロ シャルドネ 2021

ニュージーランドのシャルドネは北島の方が旨いと思っていましたが、見事に覆されました。大産地マールボロでもこんなに豊かな風味のシャルドネがつくられるんですね。樽の使い方もたいへんエレガント。これはいいぞ。
もともとはクラウディーベイなどにぶどうを供給する農家だったファミリーが、自社ブランドでブルゴーニュスタイルを追求したのがこのノヴムです。ピノも秀逸でした。
ちなみに、このワインは会が終わってからインポーターさんとの会食をしたときに、改めていただきました。マヌカハニーとパイナップルソースのサーモンカルパッチョにあわせたところ、完璧、至福でございました。

 

応援しなきゃ部門

  • MUTU 睦 メルロー / カベルネ・フラン 2021
  • MUTU 睦 シャルドネ 2021
  • M by Shinobu マールボロ ソーヴィニヨン・ブラン[/tippy] 2022

日本人醸造家の方がホークス・ベイ来日されていました。こちらのサイトのコラムでもお馴染みの寺口信生(てらぐちしのぶ)さんです。自らのブランド「MUTU 睦」をひっさげてブースで自ら立ってワインを注いでいました。
お話をするのは初めて。僕は今年のホークス・ベイの水害についてうかがいました。
「実は、ひどかったんです。今もどうしたものか、頭を抱えています。」
そう言ってスマホの写真を見せていただきました。
そこは信じられない光景が・・・。泥に埋まったぶどう畑。なぎ倒された大きなステンレスタンク。僕は唖然としてしまいました。
これからどうされるんですか?と聞いたところ「頑張って再建したいですが、まだ目処は立っていないです」とおっしゃっていました。
・・・そうなんだ。寺口さんはどんな気持ちでここに立っているんだろう。
「あの、寺口さんのブランドのワインを買うと、少しは再建費用の足しになりますか?」
「はい、MUTU 睦はもう在庫があまりないのですが、マールボロのM by Shinobuは、たくさんあります。よかったらそちらを買ってください。」

華やかなホテルの中、わいわいと盛り上がる試飲会場と、困難に直面しながら、静かに立っている寺口さんがなんだか対照的で、ちょっと切ない気分になりました。
今年ニュージーランドに大規模な水害があり、被害に遭った生産者の方がいることを気にしている様子の人は、あの賑やかな会場の中で、あまりいないように見えました。ちょっとモヤモヤ。
僕は僕でできること。まずはM by Shinobuを買わせて頂くことで、少しでもご支援できればと思います。
もちろんしっかり試飲をさせていただきました。マールボロらしさがはっきりと出た、キャッチーな味わいだと感じました。素直に旨い。通販でも、飲食店でも人気が出そうです。

寺口さん、どうかお元気で。

さて、年に1度の会を経て、手元には大量のワインの資料があります。
この中から、どれを紹介していこうか。僕を含め、参加した人はそれぞれに考えていることでしょう。

僕のテーマは「他の国のワインと比べて秀でている点を、きちっと自分が説明できること」です。
この基準で、ワインバーのボクモ / 通販のボクモワインで、魅力的な新アイテム、ご紹介したいと思っています。

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