NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
一切の妥協を許さないこだわりのワイナリー、タンタラス
第173回コラム(Dec/2016)
一切の妥協を許さないこだわりのワイナリー、タンタラス
Text: 山口真也/Masaya Yamaguchi
山口真也

著者紹介

山口真也
Masaya Yamaguchi

今後10年でワイン生産が最も成長する国はどこかと思い、妻を説得し夫婦でニュージーランドへワーホリに。都会育ちゆえ山も畑もほとんど見たことがなく、初めての大自然での生活に悪戦苦闘しながらも、ワイナリーで働く充実した日々。前職ではワインショップ、レストランの立ち上げ、運営する会社に勤めていたので、作り手側と飲み手側、売り手側と買い手側双方の視点からニュージーランドのワインを学び楽しむことを目標にしています。

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オークランドからフェリーで35分 人気のリゾート地、ワイヘケ島に新しいワイナリーがオープンしました。

9月29日、春の息吹を感じるその日にオープンした「Tantalus Estate / タンタラス・エステート」(以下タンタラス)は営業開始から2ヶ月過ぎようとしている今も連日訪れる人たちでにぎわい、今ワイヘケ島で最も人気のスポットとなっています。ワイナリー、ブリュワリー、レストランという3つの顔を持つタンタラスを今回はご紹介したいと思います。

タンタラスのオーナーであるキャンベルとキャリー夫妻は実業家としてカナダでのレストラン、ツアー・ビジネスなどで成功を収めていました。

そんな夫妻は念願であったワイナリーを始めようとキャンベルの故郷であるニュージーランドで国中を探しまわり、ワイヘキ島のこの場所にワイナリーがたまたま売りに出ていたのを買い取ったところから始まります。

この聞き慣れないタンタラスという名前は、由来のひとつにギリシャ神話に登場する神タンタロスからきています。その逸話が謂わんとする、欲しい物が目の前にあるのに手が届かない状態と、英語の動詞 ”tantalize”の「見せびらかしてじらす」という意味をかけているそうです。誰しもが羨むようなワインを造りたいという意気込みがそこには込められています。

ワイン産地の激戦区ワイヘキ島の中でも特にプレミアムなワインを生み出すオネタンギ・ヴァレーに位置するタンタラスは、隣接する高価格帯のワイナリーと同じようにほとんどすべての仕事を手作業で行っています。特に収穫期においてはBrixと言われる糖度として用いられる物理量が(ちなみにオーナー夫妻の愛犬、ワイナリー・ドッグの名前もブリックスちゃん)狙った数値にまで上がるまでは、どんなに収穫量が減っても決して収穫をせず島内の26あるワイナリーの中で最も遅く収穫が終わるというこだわりよう。生産量を確保する為の品質の妥協は許されないのです。

例えば今年の収穫期では果実が熟すのを待ったため、ピノ・グリなど島内の他のワイナリーよりも1ヶ月以上後に収穫しています。

それだけに品質最優先で造られるワインの生産本数は少なく2015年はたったの2万本。2016年においては雨で難しい年となったワイヘケ島、約1.8万本を見込んでいるそうです。しかし、タンタラスのプロジェクトスタート時よりこの3年で3,500本を植え替えており、今後の生産量の増加には期待できそうです。

さて肝心のワインですが?voque(エヴォーク)、?cluse(エクルーズ)という二つのボルドー・ブレンドの赤ワインにVoil?(ヴォイル)というシラー主体の赤の3本がEstate Reserve/エステート・リザーヴと呼ばれるトップレンジ。

他にもEstate/エステートというレンジのワイヘケ島で造られたシャルドネやピノ・グリ、ロゼ、ボルドー右岸スタイルの赤や、ホークス・ベイで手がけるスパークリングワインやシャルドネ、マールボロ産のソーヴィニヨン・ブランなどバラエティ豊かなラインナップになっています。

そんなタンタラスのワインは早くもボブ・キャンベルMWやレイモンド・チャンなどの有名テイスターからも高い評価を獲得しています。

個人的におすすめしたいのがCachette Reserve/カシェット・リザーヴと名付けられたシャルドネです。このシャルドネはレストランの目の前の畑で育っています。2015年の収穫量は1.5tのみで生産量1,300本。新世界のシャルドネでありがちな、造りでごまかしたあつぼったい感じはなく、ピュアでありながらもしっかり芯の通った味わいで、オイリーすぎず、樽香が強すぎず、ワインだけでも食事と合わせても楽しめるバランス感に優れたワインでした。Cachetteというフランス語の名前(隠し場所、見えそうで見えないと言う意味)が暗示するとおりどこかに隠して大事にしまっておきたい一本です。

セラードアでも一番の人気だそうで、販売は一人一本限定とのこと。この記事を読んでいただいてすぐにニュージーランドに飛べばまだ間に合うかもしれません。

レストランから吹き抜けで階下に見える大きなタンクはブリュワリー(ビール醸造所)になっています。「ALIBI / アリバイ」と名付けられたそのブリュワリーでは現在、ピルスナー、ペールエール、IPA、レッドエールの四種類を提供していました。

出来上がったビールは摂氏2℃の冷蔵室にてタンクを管理し、その大きなタンクからレストランへ直結のパイプラインにてビールを注いでいます。日本では飲食店などで「樽生」という言葉を良く聞きますが、これ以上の樽生はないのではないかと思うほど階下の生産場所からダイレクトにタップに注がれます。

また、地下にはビア・バーがオープン予定で、完成間近の店内を内見させてもらいましたが、ニューヨークやロンドンのアンダーグラウンドをイメージした大人な雰囲気は時間を忘れてビールやワインを楽しめる造りとなっていました。

現在は店頭でしか飲むことが出来ませんが、今後は瓶や缶などでの販売も検討しているとのことなので自宅やパーティなどでもアリバイのクラフトビールを楽しめる日が近いうちに訪れるようです。

アリバイ・ブリュワリーはまだまだ進化の途中で、現在のビールのラインナップ意外にもニュージーランドワインを代表する品種ソーヴィニヨン・ブランや、自家栽培のグレープフルーツを使用したフレーバービアなども投入していくそうで楽しみですね。

いまワイヘケ島でも最も予約の取りづらくなっているタンタラスのレストランは、ミシュランの星付きレストランで腕を磨いたアメリカ人のシェフ、ジョーが腕を振るっています。島内の契約農家からの新鮮な野菜や、魚介、肉などを目にも鮮やかな色合いで仕上げる彼の料理は、言うまでもなくタンタラスのワインとの相性が計算され尽くされており、豪華で優美なランチタイムを演出してくれます。

このレストランにはプライベートルームも用意されておりタンタラスという名前の由来の一つでもあるアンティークのクリスタルなどが並べられ、より一層の高級感を演出してくれます。

「ワイン、ビール、料理、サービス、空間、すべてにおいてこだわりつくし、パーフェクトなパフォーマンスが出来る状態にならない限り提供しない」と今回取材に対応して下さったヴィンヤードマネージャーのクリスさんが言うとおり、レストランのテーブルについても、畑を歩き見回してみても、ありとあらゆるところにそのこだわりを感じることが出来ました。

現在、そのプレミアムなワインはレストランでの提供とセラードアでの販売・試飲のみでしか味わうことが出来ません。是非あなたも、ロゴのモチーフになっている鍵に込められた「届きそうで届かない、手に入れたい憧れ」に似た、こだわり尽くされた上質な時間を過ごしにタンタラスへ行ってみませんか。

このワイナリーに行くツアーがこのサイト(ニュージーランド-Wines.co.ニュージーランド)限定で参加可能です。現時点では週7日でレストランがオープンしていますので、このレストランにてランチをお取りいただく事も可能です。

2017年1月掲載
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