NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
コロナと共存、ワインでしなやかに逞しく
第226回コラム(Nov/2022)
コロナと共存、ワインでしなやかに逞しく
Text: 和田咲子/Sakiko Wada
和田咲子

著者紹介

和田咲子
Sakiko Wada

日本に住んでいた頃からヨーロッパワインは飲んでいたものの、1994年の渡航以来、先ずはニュージーランドワインの安くて美味しい事に魅せられ、その後再度オールドワールドやニューワールドワインに拡大してワインをappreciateしている。ただ消費するだけに終わらない様に必死にwine drinking culture の質を高めようと努力する毎日である。

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皆さん、こんにちは。
新型コロナウイルス、もうこの言葉は聞き飽きましたよね。でもまだこの小さな生き物はこの地球上にたくさん存在している様です。万物諸行無常の教え通りにその姿や性質をどんどん変えながら、そこここに。それならもう共存してゆくしかない!きっと皆さんもそう思っていらっしゃるのではないでしょうか。

ニュージーランドでもこの微生物の為に、国境閉鎖、ロックダウン、バブル、警戒レベル4・3・2・1、信号機システムのレッド・オレンジ・グリーン(状況を見乍ら政府見解で飛び越したものもありますが)そして段階的国境オープン、と様々な言葉や行動規制などが生まれてそれに振り回されてきた感があります。

けれども、人々の日常は今も変わらずにずっと続いており、2020年も2021年も、そして今年もお誕生日やお祝い事はやってきてそれなりにお祝いをしているわけです。以前にもこのコラムで書きましたが、人には不意にやって来た状況にもちゃんと対応してフレキシブルに順応してゆける力が備わっているんですよね。でなければ状況が変わる度にポキッと折れてしまう事になってしまいます。

歴史上の大事件の真っただ中にあった人達もきっと小さな日常の楽しみを見つけながらその瞬間をたくましく生き抜いてきたのでしょう。今の私達にも必要なのは、そう言ったしなやかさなのだろうな、と近年特に強く思っています。

そして、その為には物事の渦中に在っても少しステップ・バックして全体を見る様にしてみれば、客観的にとらえられる事により肩の力も抜けますね。

もう一つ大事なのは自分の楽しみを見つけておくことと、人との繋がりを広げておくことだろうと思っています。ここ数年で精神の健康の大切さが更に大きく取り上げられています。みんなが自分の周りの誰かに手を伸ばしてゆけば、集合体の輪がどんどん広がってゆき、全面をカバーできる、そんな風にイメージしています。

さて、本題。では私にとっての楽しみ、心が踊る事、命の洗濯(母の言葉)とは何なのか?と考えると、矢張り家族や友人を含めて人との繋がりタイムだろうと思います。そしてそこには多くの場合、ワインが存在します。類は友を呼ぶ?

今年に入ってオミクロン株が増え、日本でもニュージーランドでも周りで感染者が出る様になりましたが、9月13日からの信号機システム(行動規制)撤廃と共に増々レストランやカフェにも人が出る様になりました。マスクの着用者もぐんと減りました。やっぱり人々は楽しいことを求めて変わりますね。

それではまだまだコロナに気をつけて生活してきた私のこの数か月間のワイン・モーメントをご紹介します。

今年の3月後半、まだ信号機システムのレッドの更にPhase3と言う段階だったころですので、晩秋の気候の元、幾つかのワイン・テイスティングも規制事項を考慮して屋外での開催となりました。それでも、感染を恐れて参加者は少なめでした。テーマはアルザスです。

 

 

ゲヴュルツトラミネールもピノ・グリも、多くのニュー・ワールドのものと比べてやっぱりミネラルや旨味をアンダーラインに感じる、いわゆる日本人には『美味しい』と思える味でした。
そんなに高価ではなくともその地域の特徴を表していて、屋外でのテイスティングにぴったりの一本で、ブラインド・テイスティングでも当てやすい味と言いましょうか。ニュージーランドは今夏に向かっていますが、これからの季節のパーティーにぴったりです。

アン・ロールのゲヴェルツトラミネールはブドウ品種の特徴でもあるハニーやライチーは勿論のこと、軽い苦みが心地よく、まったりとレイヤーを感じる舌への乗り具合。子供の頃にはこの苦みと言う味は嫌なものでしたが、大人になると苦みを楽しむ食材のなんと多い事かと改めて感じたことがあります。そして、『苦みがストレス解消や気分爽快に貢献し解毒作用もある』と何かで読んだ後では、甘味や塩味・酸味と共に、ほぼ平等に私の舌の上で歓迎されています。勿論なんでも行き過ぎはよくありませんので中庸が大切ですが。

お次は飲茶レストランでのワイン持ち寄りの集まろう会。この時は何故かフランスのワインとお隣のオーストラリアの赤が主となった、全員のチョイスでした。どこかへワインを持ってゆく、或いは自宅で出すために選定する時の決め手になる理由は色々あります。その時に集まる人々の顔ぶれや好みと気候によって、或いはテイスティング目的の集まりであればテーマに沿った1本を選ぶのは勿論ですが、結構あるのが『これ、もう飲まなきゃいけないだろうなあ』とか『怖いけれどコレ、このメンバーで開けてみたいな』と言う理由です。

セラーリングの適正期間は大体は分かっても、熟成期間はたとえセラーに入れておいても気候やボトル・バリエーションもあり異なってきますので、いつもドキドキします。仲の良いワイン仲間の場合は、その人のセラーも知っていますので、理由が分かったりして面白いですね。

例えばフランスのブルゴーニュピノ・ノワール)が大半を占める人や、シャルドネだけは嫌いな女性、海外に滞在していたりワイン・ショップで働いていた一定の期間のワインがとても多い人などです。
年齢が上がってくると、もう消費モードになって新しいワインはあまり購入しなくなる人も居ます。魂は永遠であったとしても、セラーを抱えてはあちら側の世界へ行けませんので、今この瞬間を大事にして楽しむ、という事ですね。気心が知れてくると、相手の考えていることが分かり、それが又楽しくなってくるモーメントです。

次は合同誕生パーティーの日です。なんと4人分のお誕生日の合計年齢が316歳。皆、日々ワインをじっくり味わいつつそこに至上の喜びを見出すことのできる面々で、心身ともに健康に年を重ねていっている大切なワイン友達なのです。
普段からいつも楽しく、ブラインド・テイスティングをゲーム感覚で一緒に楽しむ仲間なのですが、今回は何も隠さずにボトルが最初から登場。でも、それを持ってきた人からの説明を聞きながら味わいました。

この日のワインで1本コメントしてみたいのがあります。Nero D'Avolaをご存じですか?
イタリア人のワイン・フレンドから、かなり前に僕のお勧めイタリアブドウ品種として聞いて以来、私も結構気に入っています。プリミティーボ(アメリカではジンファンデル)と同じくいかにも南イタリア、と言う味のしっかりした太陽を感じる赤です。プリミティーボはプーリア州ですがネロ・ダヴォーラはシシリー産です。

デザートの手作りケーキはソーテルヌと、娘の家にたわわに実っていたレモンで作ったリモンチェロ。冷凍庫に入れておけて、少しシャリシャリしている状態でリキュールグラスに注いで飲めます。私を除いてあまりケーキを日常食べない人たちなので、誕生日~と言うスペシャルなモーメントを強く感じてくれた様でした。満足満足。

最後に選んだワイン・モーメントは、今年の9月のこと。まだ信号機システムのオレンジ(黄色のこと)下でのランチとディナーです。ちょっとした旅行の筈がコロナの蔓延による渡航制限で、オーストラリアに1年半も滞在してしまったワイン友達がやっと帰ってきたので、何度もキャッチアップをしています。

あちらでしこたまオージー・ワインを飲んできた彼にはやっぱりニュージーワインを、と持って行ったのが、マーティンボローの日本人ワインメーカー、クスダ・ワインズのリースリングです。ピノ・ノワールが大好きで最高のピノを造るためにブドウ栽培に適したニュージーランドの土地に移住されたそうですが、ピノ・ノワールだけではなく、シラーやリースリングもとっても良いです。

このリースリングはブラインドでこれだけのワイン通のメンバーが集まっても『う~ん、産地は何処だろう……』と唸るほどにシャープさが丸くなっていてニューワールドらしくない、と言うか旨味の醸し出された美味しさを持つワインです。アルコール度12%、残留糖度1.9g/L、ホールバンチプレスでベントナイト(濁りを取る為の粘土)を入れて48時間、その後ステンレススティールのタンクで3週間の発酵にてボトリングされているそうです。是非お試しあれ!

別の機会に持参したのはオークランド郊外のクレブドンにあるプリリ・ヒルズ(Puriri Hills)のエステート2004。
2015年の7月頃に友人とワイナリーを訪問してセラードアにて購入してあったものです。これはボルドー・ブレンドでかなり沢山のブドウ品種が入っていますが、メルローが一番多いブレンドです。18年モノなので良い具合に熟成しており、皆大満足の1本でした。まだ数年はセラーリングできそうなタンニンで、グラスの中のワインをよ~く回してゆっくりと味わいました。

こんな感じのリラックス・モーメントを予定の中にパラパラ入れていると、息抜きをしながら仕事やすべき事を片付けてゆける気がします。あ~今日は遊んじゃったから又明日は頑張ろう!なんて思えるんですね。皆さんもゴムの伸び縮みのように自分をリリースする時間、モノを見つけて心がいつまでも元気でいられるようにしてください。心が健康なら身体も健康になります。

そしてその対象がワインであればこのブログを読んでさらに共感して頂ける部分が増えるのではないかな、と思います。

ハッピー・ワイン・モーメント! Cheers!

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