NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第131回コラム(Jun/2013)
2013ヴィンテージ実況レポート1
Text: 小山浩平/Kohei Koyama
小山浩平

著者紹介

小山浩平
Kohei Koyama

青森県出身。大学卒業後、東京、ロンドンなどで国際資本市場業務に従事。もともと母方の実家が日本酒の杜氏の家系ということもあり、醸造への思いが強かったことに加え、ロンドン在住時にワインの奥深さに魅了される。東日本大震災をきっかけとして、長年の夢を実現すべくNZへ渡航。リンカーン大学でブドウ栽培・ワイン醸造学を修める。2012年11月より、ワイパラでワイナリーに勤務。NZでのヴィンテージを経験した後、2013年夏は、米国カリフォルニアのソノマで修行予定。

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2013年のニュージーランドワインのヴィンテージは、葡萄生育期間中に観測史上最も日照が多かったこともあり、ワイン醸造家の間では、「人生に一度のヴィンテージ」とも言われています。大学を卒業し、初めてのヴィンテージをそのような非常に恵まれた環境で迎えることができました。

わたしが現在働いているワイナリーはGreystone/Muddy water (http://www.greystonewines.co.ニュージーランド/)という2つのヴィンヤード(計50ヘクタール)を持った年間生産量300トンほどのニュージーランドでは、中規模のワイナリーです。オーガニックワインにも注力しており、ピノ・ノワール、シャルドネ、リースリングに定評があります。

今年の収穫第一弾は、3月27日のピノ・ノワールから始まりました。赤ワインの場合、色の主成分であるアントシアニンの抽出のため葡萄の皮ごと発酵させます(赤ブドウを搾ってジュースだけを発酵させれば、赤ブドウから白ワインを作ることも可能です)。収穫された葡萄は、計量された後、「Sorting Table」と呼ばれる選果台を通過します。選果台では、ベルトコンベアーに乗ってゆっくり通過する葡萄を経験者の目で、完熟していないもの、病気にかかっているものなどをより分けていきます。発酵に用いられる葡萄はこの過程で決定しますので、非常に重要な過程です。(適正な選果でワインのアルコール度数を1%あげることができるとも言われます)。その後、房から果実だけを取り分ける「Destem」という処理をします。葡萄の実を潰さず、茎だけを取り除く工程です(日本では除梗と言います)。

除梗後、赤ワインの場合、上部が開いた「Open Fermenter」に入れられます。これは、発酵中「Punchdown」(フランスではピザージュ、日本では櫂入れ)と呼ばれる作業をして、酵母に酸素を供給して、発酵をスムーズにするためです。Plungerと呼ばれる棒で上から突くことが大半ですが、発酵が進んでくると、発酵中に発生する二酸化炭素が葡萄の皮を上に押し上げて非常に硬くなるので(Cap formationと言われます)、足で踏み込むこともしばしばあります(上部写真)。

発酵期間中は、毎日Brixとよばれる糖度を測る指標と、pH(酸度)及び温度を計測し、発酵状況を確認します。ということで、ヴィンテージ期間中はほぼワイナリーに泊まりこんでの作業となります。

発酵の最終段階まで来ると、葡萄の皮もワインに溶け込んでしまって(fully maceratedと言います)、ほぼ液体だけになってしまうこともあります。ここからが醸造責任者のセンスが問われるところ、どのタイミングで搾汁するか(発酵を終了させるか)の決断を迫られます。毎日計測している指標も参考としますが、最終的にはテイスティングしてタイミングを決定します。このワイナリーではワインメーカーとアシスタントワインメーカーが、主に「mouthfeel」(口当たりや渋み)について議論しながら決定します。

搾汁のタイミングが決定されると、これからが力仕事。まずは「Free run」と呼ばれる、絞らなくても出てくるワインを集めます。その後、発酵樽に残った皮や種を手分けして掬い出します。

二酸化炭素に注意しつつも、素足で発酵樽の中に飛び込み、ワインまみれになって発酵した皮などを掬い出します。重労働ですが、一年の中で今の時期しかできないこの仕事をチームメンバーみんな楽しんで行います。

その後、1気圧以下という、非常に繊細な圧力でのプレス工程を経て、一晩落ち着かせた後で、オーク樽に詰められます(Barrel downと呼ばれます)。ここまで来ると醸造責任者は一安心。オーク樽の中で1年から1年半程度熟成されてから瓶詰め→出荷となります。

今年のヴィンテージは総じて非常にスムーズなものでした。赤ワインに関して言うと、発酵が滞ったものもなく、全て自然発酵。まさに健全な葡萄が良質なワインに変化していく過程を目の当たりにしました。当然、葡萄をそのまま放置しておけば、ワインになるわけでなく(ビネガーになってしまいます…)葡萄の収穫のタイミングに始まり、ワインづくりは、適切なタイミングでの「意思決定の連続」だということも肌で感じることができました。そういう意味でワインづくりは「Hand off」なく「Hand on」であると言えます。

このワイナリーでは毎年新しい試みも行われています。今年行われた取り組みは、ヴィンヤードでの自然発酵。一般の自然発酵というとワイナリーでの自然発酵を指します。確かに収穫された葡萄に何ら培養酵母を添加しなくても発酵が始まるのですが、ワイナリーには長年のワインづくり(&清掃)の中で生き残った生命力の強いワイナリー酵母が空気中を漂っているので、培養酵母もあわせて使用するワイナリーでの発酵は、天然酵母というよりは「培養酵母無添加」といったほうが正しい場合もあります。

このワイナリーでは、収穫された葡萄を一度もワイナリーの中には運び入れず、ヴィンヤードで発酵が終了するまで待つという試みがなされました。結果は非常に興味深いものに、オーガニック栽培の葡萄と慣行栽培の葡萄での発酵立ち上がりまでの時間差、湿気の多いワイナリーと比較してより乾燥したヴィンヤードでは、発酵中に糖度が上がるという珍現象も。もっとも興味深かったのは、発酵の終わったワインからヴィンヤードと同じ香りのニュアンスが現れたこと。具体的にはヴィンヤードの周りに植えられているオリーブやユーカリなどの香りは強く感じられたことです。ワイナリー酵母は主に「saccharomyces cerevisiae」 という酵母の種族なのですが、きっと異なる種族も発酵に活躍したのだろうともワイナリーで議論されました。

ワイン産業は、わたしが以前いた金融産業と同じくグローバル産業なのだということもよくわかりました。ただ、金融産業がグローバル「都会」産業であるのに対し、ワインはグローバル「田舎」産業…。今回のヴィンテージにも米国カリフォルニアから3名インターンがニュージーランドのワインづくりを学ぶため、はるばる南半球まで来ています。かく言うわたしもこの夏にはカリフォルニアのソノマにワインづくりに行く予定です。ワイン産業では、「どんな田舎のワイン産地に行っても、必ずいままで働いたことのある人の知り合いが一人はいる」と言われる所以です。

少し話が硬くなりましたが、最後にチーム写真をご紹介します。9名のメンバーで300トンの葡萄をプロセスしました。危険が伴う作業も少なくなく、各人がプロフェッショナルであり、かつお互いの信頼関係なしには3ヶ月もの長丁場を怪我なく過ごすのは、大変難しいものだと感じました。わたしが働いているワイナリーのワインは日本未上陸ではありますが、いつか日本の皆様のお手元に届けられる日がくればと思っております。

次回は、白ワインのプロセス及びヴィンテージ期間中のワイナリーでの暮らしについてレポートしたいと思います。

2013年7月掲載
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