NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第77回コラム(Mar/2009)
ニュージーランドワインとオーストラリアワイン
Text: ディクソンあき/Aki Dickson
ディクソンあき

著者紹介

ディクソンあき
Aki Dickson

三重県出身、神奈川県育ち、NZ在住。日本では、栄養士の国家資格を持ち、保育園、大手食品会社にて勤務。ワイン好きが高じてギズボーンの学校に在籍しワイン醸造学とぶどう栽培学を修学。オークランドにあるNZワイン専門店で2年間勤務。週末にはワイナリーでワイン造りにも携わる。2006年より約2年間、ワイナリーのセラードアーで勤務。現在はウェリントンのワインショップで、ワイン・コンサルタント兼NZワイン・バイヤーとして勤める。ワインに関する執筆活動も行っている。趣味はビーチでのワインとチーズのピクニック。

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ダウン・アンダーという言葉を聞いたことがありますか?北半球から見ると地球の下のそのまた下の方にあるということから、南半球にあるニュージーランドとオーストラリアは、ダウン・アンダー(Down Under)という愛称でよく呼ばれています。

「ロード・オブ・ザ・リング」や「ラスト・サムライ」などの映画のおかげで、今でこそニュージーランドが絶景を誇るひとつの国だということが周知となっていますが、以前までは、ニュージーランドがオーストラリアの一部だと思っていた人は、少なからずいたわけです。両国の国旗はそっくりですし、サンタクロースはソリの代わりにサーフィンでやって来ますし、英語のナマリも似ていますから、仕方がないことなのでしょう。

ワインに至っては、同じようなワインを造っていると誤解している人は今も多いようです。例えば日本のワイン屋さんの「新世界ワイン」のコーナーには、必ずと言って良いほどオーストラリアとニュージーランドが隣り合わせに陳列されています。「ああ、南半球のあの辺のワインね、どれも同じでしょ」なんてお考えではないでしょうか。違うことは分かっているけど、何がどう違うのかって聞かれると返答に悩んでしまう、そんな皆さんに、今回はニュージーランドワインとオーストラリアワインの違いをご紹介したいと思います。

ニュージーランドの代表的ブドウ品種と言えば、白のソーヴィニヨン・ブランと赤のピノ・ノワール。この二種類のブドウは冷涼気候を好みます。特に朝と夜で一日の気温の寒暖差が大きいニュージーランドの気候のもとでその高い芳香成分がきれいに形成されるのです。ピノ・ノワールは特にデリケートなブドウで、機械作業で手荒く扱うことができません。剪定と収穫はもちろん手作業ですし、収穫後も丁寧に醸造作業が行われなくてはいけません。このほかに、シャルドネやメルロー、ピノ・グリなどが多く造られています。

一方、オーストラリアはと言うと、赤のシラーズ(Shiraz)が代表選手です。フランスのローヌ地方から初めて輸入されたとき、シラー(Syrah)という名前だったこのブドウに、シラーズというニックネームをつけ、オーストラリアらしいスタイルに変えました。果皮の厚いこのブドウが完熟するには、オーストラリアのような温暖気候が必要です。フランスでは日の目を見なかったシラーですが、現在ではオーストラリアワインの代名詞としてとても有名になっています。シラーズ以外にも、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローとこれらのブレンド赤ワイン、そしてシャルドネやリースリングなどの白も多く造られています。

赤ワイン用品種としてニュージーランドワイン代表のピノ・ノワールは、サクランボやプラムなどのデリケートな果実の香りが特徴的で渋みがソフト。ライトボディからミディアムボディに仕上がっているものが主流です。相性の良い料理の幅はとても広く、ラム肉料理や豚肉料理、牛肉料理に加えて、うなぎの蒲焼、豚の角煮などといった和食にもよく合います。赤ワインですが、濃い味付けにしたものなら、魚料理にだって合うツワモノ。繊細な日本人の口にはやっぱりピノ・ノワール!と思ってしまうのは私だけではないと思います。ソーヴィニヨン・ブランは、パッションフルーツやグーズベリーなどのフルーティーな香りが特徴の辛口白。「ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランを飲んで、ワインの美味しさに目覚めた」という日本の方はかなりいるんですよ。お寿司や魚介類、卵料理など、私たちが普段食べなれているお料理と合うのも、理由のひとつかもしれませんね。

オーストラリアワインの代名詞シラーズは概して、ブラックベリーやブラックチェリーなどの果実香やブラックペッパーなどのスパイス香が特徴的。芳醇でソフト、濃厚でフルボディのものが多いです。渋みはピノ・ノワールより強く、酸味はピノ・ノワールより弱いです。濃厚なビーフシチューやチリ・コン・カーン、焼肉などのお供に。オーストラリアのシャルドネは、新樽でしっかり熟成させたフルボディ、辛口の白が主流です。クリームソース系のパスタや鶏肉料理、えびグラタンやタルタルソースをかけた鯵のフライなどと合わせてみて下さい。

ワインの価格といっても、ピンからキリまであります。最高級ワインに関して言うと、例えば、オーストラリアのペンフォールド・グランジェ(400ドル~)と比べて、ニュージーランドのストーニーリッジ・ラローズ(200ドル~)は入手しやすい価格です。でもここでは、私たちにとってもっと身近な、普段気軽に飲むデイリーワインに関してお話したいと思います。

お手ごろ価格のワインと言えば、オーストラリアのシラーズとニュージーランドのソーヴィニヨン・ブラン。どちらも、ヘクタール辺りの収穫量が高く、機械収穫にも耐えうる厚い果皮を持っているので、品種の違いはありますが、この二つを例に挙げたいと思います。オーストラリアのシラーズ(9ドル程度~)は、ニュージーランドワインのソーヴィニヨン・ブラン(12ドル程度~)よりも若干安く入手できます。両方とも大量生産できるのに、なぜニュージーランドの方が高くなるのか。それは、規模の違いがまず理由として挙げられます。オーストラリアの小規模ワイナリーは、ニュージーランドの大型ワイナリーと同じくらいか、それより大きいのです(国の大きさを比べても、一目瞭然ですよね)。ニュージーランドのワイナリーの数十倍、数百倍のキャパシティーをもつ巨大な醸造所を誇るオーストラリアには、どうしてもコストの面で勝てるわけがないのです。また、ボトルやコルクなどのマテリアルを輸入しなくてはいけないことも、コストを高める原因となっています。このように機械的に量産されるお手頃ワインはシンプルな味わいのものが多く、値段を気にせず気軽に楽しめるので、大勢が集まる屋外のバーベキューなど、カジュアルなシーンにぴったりではないでしょうか。

一方、ニュージーランドの代表的赤ワイン用品種であるピノ・ノワールに関して言うと、ブドウの種類の欄でも記したように、とてもデリケートなブドウなので、「収穫も剪定もトラクターで一気にパパッと」なんてことができません。しようものなら、水っぽく、下品な味わいのワインに仕上がってしまうからです。ピノ・ノワールの高い品質を保つためには、手作りしなくてはならない上に、ヘクタール辺りの収穫量も低いので、どうしても値が張ります。一番安いものでも30ドル前後、平均的な値段は40~60ドルです。

また、ピノ・ノワールほど繊細でないほかのブドウ品種に至っても、ニュージーランドの全ワイナリーの9割以上が家族経営の小規模生産なので、機械化することができず、手作業に徹するわけです。

少しお値段は高いですが、丁寧に手作りされたワインは複雑な香りと味でやっぱり美味しく、同じ価格帯の旧世界ワインと比べて質は上であることも多々あります。「こんな味わいもあるね、あんな料理と合うね」なんて会話を楽しみながら美味しく飲むには、ニュージーランドワインがおあつらえ向き。

似ているようでやっぱり似ていない、ニュージーランドとオーストラリアのワインの違いが伝わったでしょうか。その日の気分やお料理、ご予算に合わせて、ニュージーランドワインとオーストラリアワインを是非飲み比べてみてください。

2009年3月掲載
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