NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第138回コラム(Jan/2014)
クラッシー・ニュージー・バブリー
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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去る昨年9月17日、ソーヴィニヨンの聖地マールボロにおいて新たな動きがありました。といっても、かなりひっ~そりと、ですが。それがメトード・マールボロ/M?THODE MARLBOROUGHです。なんのこっちゃという感じですが、メソッドでなくわざわざ「メトード」と書くとまぁ、ワイン好きにはピンとくるかもしれません。

これはその名のとおりマールボロにおけるスパークリングワインのグループで、その規約は以下のとおりです。

ニュージーランドの誇る稀有な冷涼気候は、常々スパークリングワインの生産に向いていると言われてきました。自身のNautilus/ノーティラス訪問時、そのスティルワインよりはるかに強い印象を受けたスパークリングが昨年11月、Air New Zealand Wine AwardのChampion Wine of the Show Trophyを受賞したことも記憶に新しいでしょう。つまり数ある金賞、そしてコンペの全カテゴリーひっくるめてもそのトップに輝いたのです。新年久しぶりにこのワインをいただきましたが、以前の複・「雑!」というようなピノのアグレッシブさが影を潜め、一体感と洗練性が増したように思われました。またトロフィーに輝いたのは数量限定の特別キュヴェではなく、今でも購入可能な一般に流通しているものですので、このことも全体の品質が向上していることの証左であるといえるでしょう。そうした追い風を受ける中、現在は以下11つのワイナリーが参加しています(アルファベット順)。

Allan Scott(アラン・スコット)

Cloudy Bay(クラウディ・ベイ)

Daniel Le Brun(ダニエル・ル・ブラン)

Deutz(デューツ)

Hunter's(ハンターズ)

Johanneshof(ジョハネスホフ)

Nautilus Estate(ノーティラス・エステート)

No 1 Family Estate(ナンバーワン・ファミリー・エステート)

Spy Valley(スパイ・ヴァレー)

Summerhouse Wine(サマーハウス・ワイン)

Tohu Wines(トフ・ワインズ)

ソーヴィニヨン以外は大して売れないんだろうから、どーせ売れ残った品種のワインで造ってんだろ、などと懐疑的な見方をされる方もいらっしゃるかもしれません。しかし素晴らしいスパークリングワインを生むためには、原料段階からスティルワインと明確に線引きをする必要があります。例えばノーティラスではピノについては、より重量感と果実味とが要求されるスティル用にはディジョン系クローンを中心に斜面に植え、スパークリング用は主に谷あいの平地で栽培し且つ、酸がしっかりと残る10/5クローンを選択しています。また、思いつきで簡単に方向転換できるほど、スパークリングワインの生産にかかる諸経費は安いものではありません。ルミアージュ(動瓶)やデゴルジュマン(瓶口を凍らせて行う澱引き)の特殊機材、太いコルク&ミュズレ(ワイヤーフード)&スカートの長いキャップシュール&なんて呼ぶかわからない輪っかラベルのための専用設備、数多のリザーヴワイン、途方もない熟成期間etc. etc.…元々非発泡性のワイン自体、収穫まで3年、出荷に1年程度かかるという、スムーズなキャッシュ・フローとは無縁の存在ですが、それが輪をかけて悪化するわけですから、最初からそれなりの覚悟がなければおいそれとは手出しが出来ないのです。

失礼ながらノーティラス・エステートに、世界中に泡ものワインが溢れるこの時代にあって、日本にほとんど輸入されてもいないマールボロ産スパークリングの強みとはなんでしょう、と問いかけてみました。返ってきた答えは、骨格となる酸味を生む冷涼さはもちろんのこと、非常に乾燥した生育期の気候のおかげで病害のない完璧なブドウが生まれ、これがワインのフィネスに寄与するのではないかということでした。確かにここは、比類のないソーヴィニヨンを生む大地。シャルドネやピノといった、世界のその他産地と全く同じブドウやクローンを使っていても、一際個性的なスパークリングとなる素養は十二分にあります。

しかし私は正直、メトード・マールボロの参加メンバーを見てある種の不安にかられました。名を連ねる全ワイナリーが相当前からスパークリングを造っており、まるで目新しさがなかったからです。もちろん各社のスパークリングワインのアイテム数は前より増えていますし、昔から顔ぶれが一緒ということはそれだけ伝統があるということの裏返しだということも理解できます。皆の実力がついてきた今だからこそ、こうして結束できたのかもしれません。事務局によれば現在生産を検討しているところもあるといいますが、しかしまだ、わんさと新顔が現れるようなエキサイティングなカテゴリーとは言い難いのではないでしょうか。マールボロのスパークリング・シーン自体、今回のこの枠には参加できないソーヴィニヨン・ブランのスパークリングが数年前に登場したくらいしか、取り立てて変化がありません。

そういえば最近、マルサンヌとプティ・マンサンという品種が、ニュージーランドワインに新たな1ページを付け加えてくれました。メトード・マールボロの許可品種は前述のように新世界としてはお堅いもので、シャンパーニュで許可されているピノ・ブランやピノ・グリも、もちろんプティ・メリエやアルバンヌも含まれていません。繰り返しになりますが、多様性という言葉は珍しい品種どうこうにとどまるわけではなく、他と一線を画すスタイルであり、他のワインでは決して満たされることのない独自性でもあります。とはいえ、ニュージーランドのスパークリングがこれから押し広げていける未開の土地は、一体どれくらい残されているのでしょうか。

目下最大勢力であるマールボロが、まずはその口火を切りました。概ねシャンパーニュを踏襲したその規則から、果たしてそのグループ名に恥じないような、世界が目を見張るほどの「マールボロ方式」は生まれ出るのか。

さあ、ここからです。

2014年2月掲載
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