NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第56回コラム(Sep/2007)
10周年を迎えた祭典~ニュージーランド・ワイン・ショー(前編)
Text: 堀内茂一郎/Moichirou Horiuchi
堀内茂一郎

著者紹介

堀内茂一郎
Moichirou Horiuchi

山梨県出身、NZ在住。大学卒業後、進路を一変して辻調理専門カレッジにてフランス・イタリア料理を学ぶ。初めて勤めた東京のフレンチレストランで、サービスの魅力に惹かれてワインの勉強を始める。その後、北海道に移り、某高級ホテルのレストランで、サービス・ソムリエを勤める最中、数々の素晴らしい景観に心を奪われる。新たな大自然との出会いを求めてNZ滞在中。WSET Advanced Sertificate、JSAソムリエ資格を保持。現在はオークランドのTriBeCaレストランでNZワインとの出会いを楽しみながらいつか自分のお店を持ちたいと考えている。

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昼前から降り始めた細かい雨も今はやみ、雲の隙間から青空が顔をのぞかせています。ニュージーランドもようやく春らしくなってきました。街には様々な花が咲き始め、ジョギング途中に見るモクレンは、しばし足を止めて息を整えるのに丁度いい場所に咲いています。

10月ごろからクリスマス前まで、わがTriBeCaレストランは一年で一番忙しい時期を迎えます。その繁盛期を前にして、われわれスタッフは順番に長期休暇を取り、旅行やら里帰りやら、それぞれ個々に心と体を休めています。

今はオーナー夫妻が6週間のバカンスをとり、フランス周遊旅行に出かけています。先日シャンパーニュ地方のエペルネから、VIPとして招かれたモエ・エ・シャンドンを賞賛するメールが届きました。ちょうどその日、レストランでは50名様を越す大きなバースデー・パーティーが行われ、朝から夜中までほとんど休み無く働いていたので、そのメールを見たときには思わず羨望の溜め息が漏れました。心の中では密かに、お土産のドン・ペリニヨンを期待しているのですが、果たしてこの思いは海の向こうに届くでしょうか?まぁ何はともあれ、休暇を大事に考え、仕事とプライベートのOn/Offをしっかり区別できるのは、ニュージーランドで働く利点であることに間違いありません。

さて、オーナーが旅行に出かける直前の、9月2日から4日の3日間、ここオークランドで「Hospitality ニュージーランド」という業者向けのイベントが開かれました。会場はいくつかのパートに分けられ、料理のコンペティションや、コーヒー・バーなどのデモンストレーション、調理器具の展示、食材・飲料のテイスティング、そして各種セミナーがスケジュールに沿って行われました。観光産業が大きな外貨収入源であるニュージーランドでは、観光客誘致のためにも高いホスピタリティが要求されるので、こういったイベントには多くの関係者が集まります。

わがレストランのシェフElliot Warneは、その中の一イベント「ニュージーランド Culinary Fare」にて彼の得意料理を披露しました。ニュージーランド各地のレストランからシェフが集い、前菜・魚料理・肉料理・デザートのコースを構成するという企画のなかで、彼の担当は前菜料理。現在TriBeCaでもお楽しみいただけるその料理を紹介します。

■Kelp Crusted Yellow Fin Tuna

(ケルプの粉末をまぶしたキハダマグロ)

Golden Raisin, Cumin and Aubergine Purée,

(ゴールデンレーズンのソース、クミンと米ナスのピュレ)

Smoked Maldon Sea Salt

(スモークしたマルドンの海塩とともに)

ケルプは、成長ホルモンの分泌を助けるヨウ素を多く含む海草の一種で、強い味や香りは無いものの独特な風味を味わえます。キハダマグロは外側を焙り、中心は生のまま。いわゆるたたきの状態です。ナスのピュレはクミンを加えることで軽くスパイシーな味わいに仕上がっています。マルドンとは、イギリス東南部の町の名前で、高品質な塩を生産することで有名です。

スモーキーなこの料理に合わせるワインは、トーストやビスケットの香りのあるスパーリングワイン、中でもピノ・ノワールの比率が高いものなどいかがでしょう。あるいは、春の花々を眺めながら、ドライで強めのロゼワインなども今の季節にぴったりです。

さて、我々サービススタッフの目的は、やはりワインです。イベントのひとつである「Wine New Zealand」は、ニュージーランド国内最大規模の試飲会で、毎年各生産地から多くのワイナリーが集まります。今年で十周年を迎えるその会場には、170を越すワイナリーが参加し、それぞれ自慢のワインを紹介していました。このイベントは、多くのワインを試飲できる機会であるというだけでなく、新興ブティックワイナリーがその存在を関係者へアピールする場としても、ニュージーランドワイン産業に欠かせない存在となっています。そして、多くのワイナリーが一堂に会するので、ニュージーランドワイン業界全体の現状と傾向を肌で感じられる場でもあるように思います。

今年の実感としては、名の知れた大きなワイナリーが信頼の置ける一定品質を保っているのに対し、小さなブティック・ワイナリーがそのこだわりをワインに反映させて、それぞれの個性を十分に発揮しているような印象を受けました。何か新しいものを求める、我々のようなレストラン関係者に与えるインパクトという面では、彼らのワインは大型ワイナリーの先を一歩リードしていたように思います。

限られた時間と、自身のアルコール許容範囲を考慮し、今回はピノ・グリとピノ・ノワールに焦点を絞って試飲を行いました。その理由は、やはりお客様の需要にあります。わがレストランにて注文いただくワインの傾向として、赤ワインの中では言うまでも無く、ピノ・ノワールに圧倒的な人気があります。白ワインは、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランとともに、最近はピノ・グリをお選びいただくケースが多くなりました。香りの主張が強すぎず、適度なスパイシーさとミネラル感をもつこの品種は、パシフィック・リムと呼ばれるような、スパイスを比較的多く使用し、様々な国の食材をアレンジする料理との相性がいいのかもしれません。ほんのり甘みを感じるものも多く、女性のお客様からの支持が多いのも特徴です。

当店では、オタゴ産のものではNevis Bluff、その他、BilanciaやKumeu Riverなどがコンスタントに注文されます。これからMt.Michael、TakatuVineyardもオンリストされる予定です。

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2007年10月掲載
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