NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第4回コラム(Aug/2004)
安物じゃないのよ、スクリューキャップ
Text: ディクソンあき/Aki Dickson
ディクソンあき

著者紹介

ディクソンあき
Aki Dickson

三重県出身、神奈川県育ち、NZ在住。日本では、栄養士の国家資格を持ち、保育園、大手食品会社にて勤務。ワイン好きが高じてギズボーンの学校に在籍しワイン醸造学とぶどう栽培学を修学。オークランドにあるNZワイン専門店で2年間勤務。週末にはワイナリーでワイン造りにも携わる。2006年より約2年間、ワイナリーのセラードアーで勤務。現在はウェリントンのワインショップで、ワイン・コンサルタント兼NZワイン・バイヤーとして勤める。ワインに関する執筆活動も行っている。趣味はビーチでのワインとチーズのピクニック。

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ワインの栓に用いられる素材と言えば、コルク。この当たり前の概念が覆されつつある。

現在、ニュージーランドとオーストラリアを中心として、高品質ワインの栓にスクリューキャップを使用するワイナリーが増えている。そう、安物ワインのイメージがある、あのスクリューキャップ(以下ステルビン;スクリューキャップの正式名称)を、である。

1997年には、米国、ナパのあるワイナリーが、1本$135の高級ワインにステルビンを用い始めたし、豪州、クレア・ヴァレーでは、2000年からステルビンの使用が徐々に増えてきている。このように、この動きはアメリカやヨーロッパにも拡大している。これに呼応したのがニュージーランド。2001年8月には「ニュージーランド・スクリューキャップ・ワイン・シール・イニシアティブ(ニュージーランドSWSI)」が結成され、現在、あの有名なクラウディ・ベイ(7月号参照)、ニュージーランドで2番目に大きいワイナリーで、数々の賞を獲得しているヴィラマリアなど45のワイナリーが参加している。そうは言っても、ステルビンに対する安いイメージは拭い切れていない。なぜステルビンを使うことが“素晴らしい”のかご説明しよう。世界全体のワイン生産量が増え続けているのに反して、コルクの生産が追いついていないという現状ある。需要に対応するため、十分に成長していないコルク樫の木の皮を使うと、目の詰まっていない不良コルクが生まれ、ワインの酸化を引き起こす。また、コルクは製造過程で漂白されるが、その薬品が残留して、さらにコルクの乾燥が不十分だとカビが発生し、コルク汚染をもたらす。現在コルクを使用しているワインの2~5%(ある調査では5~8%)、つまり、多いときには12本に1本の割合でコルク汚染されていると言われている。丹念に造った自慢のワインが不良コルクのために台無しになってしまうことに、醸造家たちは大きな憤りを感じている。コルク汚染と分かればまだ良いほうで、コルク汚染されたワインが飲まれ、それがそのワインの品質だと勘違いされてしまうことが、ワイナリーにとって最大のダメージになるのだ。コルク汚染されたワインは、カビや湿った古いダンボール、マニキュアの除光液などの不快臭を持つ。軽度のコルク汚染の場合、フレッシュな香りや豊かな果実味が失われ、味気のないワインになってしまう。ステルビンを用いたワインの利点は、1,コルク汚染の問題が解消され、2,オープナーやテクニックが不要、3,ボトルを立てたまま保管できるので場所をとらない、などである。反面、欠点は、キャプスル(瓶の口についた薄い金属)を切りはがし、コルクを抜くというあのロマンチックで優雅な儀式と、抜く瞬間のポンッという気持ちのいい音がなくなってしまうこと。よだれを抑えながら、ゆっくりとコルクを開けるのが、私は好きだし、ロマンチックだと思う。とは言うものの、実は個人的に、ステルビンのワインにとても前向きだ。例えば、ニュージーランドからはるばる日本へ送ったワインがかび臭かったら、泣くに泣けない。醸造家の思い入れや心意気も一緒に届けることが出来るのがステルビンなのだ。私はこう考える。ワインのコルクがロマンチックなのではなく、ワインそのものがロマンチックなのだと。

2004年9月掲載
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