NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第5回コラム(Sep/2004)
日本にはまだ届かないニュージーランドワイン
Text: ディクソンあき/Aki Dickson
ディクソンあき

著者紹介

ディクソンあき
Aki Dickson

三重県出身、神奈川県育ち、NZ在住。日本では、栄養士の国家資格を持ち、保育園、大手食品会社にて勤務。ワイン好きが高じてギズボーンの学校に在籍しワイン醸造学とぶどう栽培学を修学。オークランドにあるNZワイン専門店で2年間勤務。週末にはワイナリーでワイン造りにも携わる。2006年より約2年間、ワイナリーのセラードアーで勤務。現在はウェリントンのワインショップで、ワイン・コンサルタント兼NZワイン・バイヤーとして勤める。ワインに関する執筆活動も行っている。趣味はビーチでのワインとチーズのピクニック。

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ニュージーランドには、「クイズィーン・ワイン・カントリー(Cuisine Wine Country)」という国内のワイナリーを紹介する年刊誌がある。地域紹介や、一般の客に対するオープン時期など、詳細なデータを豊富な写真とともに記載している。この雑誌は出版時に存在するニュージーランド国内のワイナリーを全て網羅し、その数が表紙に大きく書かれるのだが、それによると、2003年のものには360件、2004年のものは420件と明記されている。なんと、たった1年で60件もワイナリーが増えた!しかし、驚きはこれだけではない。

ニュージーランドのワイン産業は、特に過去10年で目覚しい急成長を遂げ、今もその勢いは伸び続けている。ワイナリーの数は190件から466件(今年8月現在)へと、ここ10年で276件も増加している。ブドウ畑の敷地面積でいうと、約6,000ヘクタールから、16,000ヘクタールへと2.7倍の伸びを記録。昨年400万人を突破したばかりのニュージーランドの人口よりも、ブドウの木のほうが多いのは言うまでもない。それに反して、国内のワイン消費量は飽和状態になっている。造るは良いが、飲みきれない。つまり、どうしても輸出をしなければならない状況がニュージーランドワイン産業には起きているのだ。輸出の売上高が、過去10年で6倍の増加数になっている現状には、こんな背景がある。しかし、まだまだ日本のワインショップやスーパーマーケットでニュージーランド産のワインを見かける機会は少ない。輸出量が6倍になっているとはいえ、世界全体のワインの生産量に対する、ニュージーランドワインのシェアはたったの0.3%程度しかない。そのなかでもニュージーランドのワイン輸出先は、英国、米国、豪州の3カ国で82%を占めており、日本への輸出は、たったの2%。これではただでさえ生産量の少ないニュージーランドのワインを日本で手に入れるのは至難の業である。だからといって、単純に生産量を増やせば良いというものでもない。491件のうち91%(447件)は、家族経営の小さなワイナリーで、年間20万リットル(約22,000ケース)以下しか生産していない。ワイン醸造家たちは、こだわりやポリシーを持って、ワイン造りに情熱を傾ける。まだおぼつかないブドウの苗木を丁寧に育て、春には若芽を愛で、害虫や病気に立ち向かい、真摯な態度でブドウと向き合う。手積みの果実をヘタから丁寧に取り、タンクや樽に耳を傾け酵母の発酵を見守り、手塩にかけたワインを瓶詰めする。ひとつひとつのワイナリーは小さいけれど、ワイン造りに向ける思い入れは大きい。資金繰りの問題を常に抱えながらも、ワイン造りに情熱を持ち、常に最高のワインを造っている醸造家を、私は何人も知っている。彼らは、シェアを広げるための大量生産よりも、少なくてもいいから、質の良いワイン造りの道を選んでいる。ニュージーランドワインはだんだん世界の注目を集めてきているが、世界中にそのワインが行き届くようになるには、先に述べたように、体質的とも言えるやや難しい問題を含んでいる。少数精鋭とも言えるニュージーランドワインは、そのブランド名だけで判断して購入されるよりも、現地を訪れて、ワインそのものの味を理解し、丁寧にその価値を吟味する。日本のワインショップにニュージーランドワインが所狭しと並ぶのは、もう少し時間がかかりそうだ。

2004年10月掲載
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