NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
広まれ!ニュージーワイン その2
第229回コラム(May/2023)
広まれ!ニュージーワイン その2
Text: 岩須直紀/Naoki Iwasu
岩須直紀

著者紹介

岩須直紀
Naoki Iwasu

愛知県出身、名古屋市在住。ニュージーランドワインとフュージョン料理の店「ボクモ」オーナーソムリエ。ニュージーランドワイン専門通販店「ボクモワイン」を運営。
ラジオ番組のディレクターを経て現職。現在も構成作家としてラジオ番組の制作に関わっている。
飲食業界に入ったのも、ニュージーランドワインに出会ったのも30歳を過ぎてから。遅れてきた男である自分と、ワインの歴史に遅れてやってきて旋風を巻き起こしつつあるニュージーランドワインを勝手に重ね合わせ、「ともに頑張ろう」などと思っている。

ボクモワインの販売ワインはこちらから

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こんにちは。

気温がぐんぐん上がっている5月の名古屋よりお送りします。

こちらはこれから梅雨。そして、灼熱の夏を迎えます。

名古屋の夏は湿度が高めで、近年は気温が体温以上になるときも。蒸し暑いという言葉では足りないくらいのサウナ・シティーになります。

「夏はテラス席でキリッと冷やしたソーヴィニヨン・ブランでも楽しみましょう」なんて悠長なことは、こちらでは言っていられません。

なので、アウトドアでワインを(特にアウトドアにぴったりなニュージーランドワインを)楽しむなら、夏がやってくる前のこの季節がちょうど良いかもしれません。

ああ、人に優しい夏を持つニュージーランドが羨ましいです。

さて、私岩須は、名古屋でニュージーランドワイン+多国籍料理の飲食店「ボクモ」と、ニュージーランドワインの通販店「ボクモワイン」を営んでいます。

こちらの連載では、ニュージーランドワインが日本でもっと人気が出るにはどうしたら良いか、皆さんといっしょに考えていけたらと思っております。

そう、前回も書きましたが、日本でのニュージーランドワインの知名度はまだまだ低いのが現状。店内でお客さまから「ニュージーランドワイン専門なんて珍しいですね」と一度も言われない週はありません。

先日、2022年の貿易の統計が出て、日本の輸入ワインの国別ランキングでニュージーランドはまたもや11位でした。ここ数年ずっと11位。

うぬぬ。「珍しいですね」の声に「でもランキングではトップ10に入っているんですよ!」って言いたいのに。十傑の壁は厚いです(ちなみに10位はポルトガル)。

僕自身は、ニュージーランドワインが大好きで、この魅力をひとりでも多くの方に伝えたいなと思って店をやっていますが、なかなか人気が出ない。正直、ちょっともどかしさを感じています。

日々、どうやったら興味を持ってもらえるんだろうなと考えながら、今日も、さきほどオンラインショップの発送作業をせっせとやってきました。そして、発送先の名簿を見ながら、愛しのワイン達をダンボールに梱包をしているうちに、ふと、さっきひとつひらめきました。

「あ、パレートの法則かも!」

どういうことかと言いますと・・・

まずニュージーランドワインみたいな、割とニッチで、生活必需品ではない商品を購入する方って、「強い動機を持ったグループ」と「それほど動機が強くないグループ」に分かれると思います。

強い動機を持ったグループは、例えば、

  • ニュージーランドに住んだことがある人
  • ニュージーランドに旅行に行ったことがある人
  • ニュージーランドをお土産/プレゼントとして贈りたい人
  • ワインを知る/学ぶうちに、ニュージーランド産の魅力に気付いた人

こんな属性。

対して、それほど動機が強くないグループは、

  • ニュージーランド産なんて珍しいと思った人
  • 店でたまたまラベルが目についていいなと思った人
  • 知り合いに勧められた人

こんな感じかな、と思います。

ざっくり分けると、強いグループにはニュージーランドに行ったことがある人が多く、そうでなくてもしっかり興味を持っている人が多い。

実際に、オンラインショップでリピートしてくださる方の中には、ニュージーランド滞在歴がある方がかなりいらっしゃいます(何度かやり取りするうちにお客さまからそう教えて頂くことが多いです)。

ニュージーランドでワインを楽しんだ経験があり、あの素晴らしさを日本でも味わいたいと思っている。あるいは、ニュージーランド愛に溢れているので、日常の中にニュージーランドの製品を置いておきたい、どうせワインを飲むならニュージーランド産がいい。

あるいは、なんらかのきっかけでニュージーランドワインが大好きになり、もうワインはニュージーランド一択でいいや、となる。そういうニュージーランドへの熱量が高めの方のリピート率は高いのです。

それほど強くないグループは、なんとなく、です。当然、こちらの方が圧倒的にパイは大きいです。

最近、バルクワイン(大容量で輸入され、日本で瓶詰めされたワイン)が増えてきて、一部のコンビニで他の国のワインの隣にニュージーランドワインが並ぶようになりました。ロジスティクスの進化のおかげで、動機弱めの大グループにもリーチできるようになってきているわけです。

ただ、競争が激しい輸入ワイン界隈では、その大グループの方々をニュージーランドのリピーターにするのはなかなか難易度が高いです。他のワイン産国だって、魅力はいっぱいあるわけですし。

そこで「パレートの法則」です。

「結果の80%は、全体の20%の要素によって生み出されている」というあれです。

ビジネスでいうと、8割の売り上げは2割の優良顧客がつくる、となります。まさに、これがニュージーランドワインを取り巻く環境にも当てはまるのではないかと、発送伝票を見て思ったのです。

あくまでも肌感覚なのですが、確かに、うちのオンラインショップでは2割くらいの強い動機を持った方、熱量高めのファンのみなさまによって、全体の8割くらいの出荷量を支えて頂いていると感じます。

だとすれば、これからニュージーランドワインが伸びるためには、2割の方に目を向けた方がいいんじゃないか。「好きな人にもっと好きになってもらう」仕組みが必要なのではないか。興味の薄い人を振り向かせるよりも、興味のある方の興味をブーストする方が早い。そう思うわけです。

方法としては、やはりイベントでしょう。

ニュージーランドフェア、あるいはオセアニアフェア、もうちょっと広げて南半球フェアなどでも良いでしょう。商業施設の催事や屋外フェスティバルなどの企画で、ニュージーランドに関心がある方を集めて、そこでニュージーランドワインの魅力をしっかりと知っていただく機会を設ける。ニュージーランドワインの魅力を伝えるセミナーをやる。

ようやくリアルな対面イベントができるようになった今、イベントに行きたくてウズウズしている方も多いと思います。ニュージーランドに好感を持っている人、きっと集まると思います。

おそらくニュージーランド経験者の中には、日本ではニュージーランドワインを飲める機会が少ないので、遠ざかっている人もいるでしょう。イベントは、そういう方にまた火をつけるチャンスになります。

そして、動機が強くないグループの人も、ふと訪れたイベントの内容が刺さったら、強いグループに移る可能性もあると思います。

ちなみに僕は今年から、ニュージーランドワインの試飲イベントを開催しています。まだほんの小さな規模ですが、このイベントを育てていって、やがては大きな会場でニュージーランドワインを注ぎまくることができたらな、と思っています。

写真は先日、ピノノワールの飲み比べイベントをやったときのもの

 

それから、もうひとつ、好きな人にさらに好きになってもらう装置として大事なのが「ニュージーランドワインが飲める飲食店」です。

ニュージーランド経験者が飲食店でニュージーランドワインを口にする。そのときその方は、一緒にいる仲間に「前回ニュージーランドに行ったのは5年前でね」「セラードアで飲んだワイン美味しかったなあ」「また行きたいな」なんていう話をするはずです。

そう、ニュージーランドワインは、ニュージーランドのことを話すきっかけになるのです。日常の中でニュージーランドを思い出すスイッチなのです。思い出と現在が繋がれば、その人が持っているニュージー愛は復活します。そして、そのスイッチの役割をしてくれるニュージーワインがまた好きになるはずなのです。

だから、ニュージーワインが飲める店、とても大事なのです。

僕の店ボクモでも、スイッチオンからのニュージーランドにまつわるトーク、頻繁に目にします。みなさん、とても生き生きとした表情でお話しになっています。素晴らしきかな、ワインの役割。

ただ実際のところは、まだニュージーワインが飲める店は、残念ながらそれほど多くないのが現状です。東京だと専門に扱う飲食店は僕が知る限り10店舗くらい。関西は数店舗。名古屋はたぶん僕のところだけかなあ。

ですが、ここでひとつ朗報です。特に名古屋近郊の方には良い情報です。

今月、中区の人情屋台・科学館通り店に「獬(シエ)」というお店がオープンしました。ジビエや煮魚の料理を得意とするお店で、カウンターのみ全9席です。基本的には日本酒がメインなのですが、ワインはニュージーランド産!

なぜだろうと思って、自分の店が終わってから獬さんにうかがい(深夜までやっててありがたいです)、店主の酒井さんに理由を尋ねてみました。すると。

「実は以前、あっちに住んでいたんですよ。だから自分の店のワインはニュージーランド推しにしたくて。」

やっぱり。熱量のある店主は、熱量のあるお客さんを呼ぶはずです。よーし、スイッチがひとつ増えました。いいぞ!

獬さんの和食とニュージーワイン、あわせてみて相性がよいなあと思いました。やっぱり日本人の味覚にフィットするなあと再確認ができてよかったです。

いっしょに熱の連鎖、起こせそうだ。そんな気になった夜でした。

ミルトンのシュナンブランとポテサラ、とても良いペアでした

 

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