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さて、翌日向かったのはマヒで一緒だったヴィンテージ・クルー、ビン(カタカナにするとベンなのかもしれませんが、キウィ(ニュージーランド人)はペン(pen)も“ピィン”になる人が多いです…)の故郷、オマルという町。事の発端は、彼の「ティマルのワイナリーに行くんだって?俺は近くのオマルの出身なんだ。俺のところもブルー・ペンギンが有名な事以外、たいして何もないとこだけど、確か最近はワイナリーもあるみたいだぜ?」という言葉。
アクセル踏むだけの田舎道ということなので、今回は自分の運転です。ティマルから車を飛ばして1時間くらいでしょうか、オマルの中心街にたどり着きました。車を止めたインフォメーション・センターの周りには、古きよき港町のような建物が連なっており、小洒落たベーカリーや彫刻、アートのお店などがありました。ひとまず買い物を楽しんだ後、インフォメーション・センターでワイナリーの名前と場所をチェック。どうやら、先ほどこちらへ来る際に渡ってきた鮮やかな瑪瑙色のワイタキ川を、50キロほど川上に上ったあたりだということ。来た道を戻ることになりました。
クロウ/Kurowという町を目指し、川の手前を左折。ぼけーっとしてると簡単に150キロになってしまうような真っ直ぐな道の途中、ふと化石を掘り出しているような穴だらけの岩肌が目に入りました。なるほど、ワイタキ川のあの色はこの石灰のせいなんだなぁと思うと同時に、石灰岩かぁ、とワインへの期待が膨らみます。
とうとう、人の気配のする建物を見つけてブレーキを踏み、車を降ります。あたりを見渡すとKurow Winery/クロウ・ワイナリーの建物の裏手には、川岸に沿ってブドウ畑と、ワイナリー設備がありました。晴れてればさぞかし絶景なんだろうな~と、惜しみながら中に入ると、意外にも若い女性でごった返していました。
ここはオタゴの中でも比較的新しいリージョンである、Waitaki Valley/ワイタキ・ヴァレーに属しています。短髪でちょっとファンキーなダイアナさんからひとしきりワイナリーをつくった経緯などの話を聞いた後、このワイタキ・ヴァレーのブドウでつくられるワインを中心にいただきました。クロウと、少し上級のPasquale/パスクアーリの2レンジをつくっており、ピノ・グリはここでもまたなかなか。パスクアーリ・レンジでは残糖を16g残したその名もRiesling 16と、さらにドライなRieslingの2タイプをつくっており、ドライ・リースリングは張り詰めた感のあるパツパツのピチピチ・タイプで、しっかり産地個性が現れています。ピノ・ノワールはというと、オタゴの中心地のものにくらべ香りはとてもフレッシュで良いものの、若干味わいがまとまっていない感じでした。
ワイタキ川を渡りティマルへと帰る道中、ガソリン補給に何とはなしに寄った小さな町Waimate/ワイマテで、この辺りにもワイナリーがあるという情報を聞きつけました。時間もありますし、行かない理由はありません。いただいたパンフレットどおりにno exitの道を進むと、ふとブドウ畑が視界に現れ、その脇にはPoint Bush Estates/ポイント・ブッシュ・エステイツ、セラードアと書かれた木製の味のある看板が。
「あなたみたいな方は、やはりロゼなんかは飲まないの?」少し寂しそうなアンの笑顔から、きっと本当はちゃんとした赤ワインにしたかったんだろうな、という言葉を飲み込みました。では、と口にすると、なんとも香り高く、多様なニュアンスに富んだすばらしい出来映え。結局自社畑からできたワインの中で一番良かったのは、この愛犬スキャンプの名を冠したロゼでした。
「ワイナリーも良かったら見ていくかい?」道を挟んだ小屋に案内してくれました。醸造設備をまだ持っていないワイタキのワイナリーのワイン醸造も引き受けているということですが、しかしまあ、趣味のような小さなサイズで、プレス機も実験用のような小ささ。樽もいくつか並んでいましたが、自社畑からとれたピノはたった1樽とのこと。「今はこうして他からブドウを買ったりしているが、年を追うごとにブドウもだんだん強くなってきている。向こうっ側にレストランも建てて、いいシェフ見つけて、セラードアも大きくするつもりなんだ。残念ながらまだこのあたりにはそういう場所がまだないからね。あっちに野鳥保護のために植樹した林からは、CO2を売って、ワイナリーから排出するCO2を相殺することだってできる。土地はいっぱいあるんだ。その分、やりたいこともまたいっぱいあるけどね。」
ノース・オタゴとサウス・カンタベリー。ワイタキ・リヴァーを挟んで、そのどちらにもいい出会いと、いいワインがありました。これからの未来に思いを馳せながら、雨に打たれるブドウ畑を後にしたのでした。