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ハートがシンボルマークとなっているコラソン・ワインズ(corazonはスペイン語で心)は地元ヘンダーソンのワイン・メーカー。これまでとは一味違うワイン造りのDVDを作成していると聞いたのは随分前のことですが、どうもこちらの人は、予定と未定は同義語として使うことが多いようです。完成したら見よう、と何度かチェックしても、案の定「まだだよ」という回答が続いていました。今年になりDVDが既に発売してされていることをホームページで知り、早速入手。
ワイン造りの説明はワイナリー見学に行くたびに聞いてはいますが、いつもうっすらと記憶に残る程度。きっと「それより、早くワイン・テイスティングしたいから、説明切り上げて!」と切望しながら聞いていたからでしょう。そういう私が理解できるものが完成したのでしょうか。
「情熱と忍耐」(Passion and Patience)という、幾分根性もののスポーツ漫画を彷彿させるタイトルのこのDVDは、ワインのプロ向けではなく、消費者のためのワイン造り解説が目的です。製作者、解説者、ワイナリーのオーナ、そして主役でもあるシャイン・コックス氏(Mr. Shayne Cox)のワイナリーの名前は時折見え隠れはするものの、宣伝臭はなく、ブドウの苗がワインになるまでの四季を育成、手入れ、ブドウ収穫といったワイン造りの工程や、ワインの違いをわかりやすい言葉で説明してくれます。軽快なカントリー・ウェスタン調の音楽で始まるオープニングから何か面白いことが始まるのでは、という気分にさせる、インディ風の仕上がり作品です。
<予告編>
案内役のコックス氏に芸歴があるかどうかはわかりませんが、カメラの前での自然体での説明に、あたかも目の前で全てのプロセスが間断なく進行しているようです。一本一本のブドウ苗、枝の成長を観察し、それを吟味、剪定し、畑全体にネットをかけて鳥や虫の襲撃を避け、選別しての収穫。その後のワイン造りの工程、さらにはタンクの掃除まで。それぞれが手作業で経験と勘と技術の集結。タイトルの意味することが次第に納得できる作業。愛嬌かDVDの中では終始同じTシャツでの登場でしているため、見ている人にはDVDの速度でワイン造りが進行している気がしてしまいます。こうやってワインが造られるんだ、とじっくり見入ってしまう作品に仕上がっていました。映画好きな私にも満足感が得られるものでした。
いくら最新の設備と技術を持ってしても、天候や自然に、非常に左右されるワイン造り。それを経験と技術で、舵取りをしながらの作業。ワインの奥深さ、というものを垣間見た気がします。また、時折画像に入る地元の見知った景色に、ヘンダーソンも「なかなか見栄えがいい土地」に映っています。ちなみにこのDVDで使われている曲はオークランドをベースにするグループの音楽が使われているとのことですが、それも新しい発見でした。日本からDVD購入希望があった場合は、送ってくれるそうです。
そのご当人コックス氏にお話を伺いました。実際のDVD企画・撮影には数年以上かかったとのことです。現在のワイン醸造施設建設準備から、ワインが完成し、テースティング・ルームのお披露目のパーティーまでがドキュメンタリー・タッチで描かれています。しかも「当初は予算が全くなく、監督のベン・ネダーと、安いビデオカメラで、プロセスの一つ一つを写していったんだ。だんだん僕の髪に白髪が混じっていくのがわかっただろう?」と髪の毛をかき上げながら答えていました。
彼は1974年からヘンダーソン在住の「土着民」で、この土地をこよなく愛しておいでとのこと。原料のブドウを人脈、知識、経験を駆使し、それぞれの地域で最良のブドウ栽培業者から購入し、彼はワイン作りに専念しています。彼のポリシーは単一ブドウ畑からのワイン造り。若い頃から、ヨーロッパでのブドウ収穫・造りを27回経験している彼に、「コラソン・ワインズの特徴は?」という問いに、「新大陸ワインと称されている、フルーティさを売りものにしたものより、ヨーロッパ的なものを目指しています。フランスではワインはあくまでも料理と場を引き立てるものであるので、それを乱さない調和とバランスを感じさせるワインを作っています」。
ラベルでも判るように、ハート型のコルク抜きがここのコラソン・ワインズのロゴマーク(ちなみに18世紀のコルク抜きだそうです)に使われています。ニュージーランドで味わった殆どのワインがスクリューキャップで、まるで炭酸飲料を開けるように簡単(私には味気なく思えますが)で、感覚的にはあまり好みではありません。コックス氏曰く、「最近では、ワイン抜きを置いていないレストランもあるようです。コルクだからといって、ワインを購入しない消費者もいるくらいですしね。でも、僕は、赤ワインは酸素が入ることで成熟するので、コルクの幹から作ったダイアム・コルクを使用しています。ま、ロゴマークに使ってしまった、ということもあり、そのこだわりもありますがね」とも茶目っ気たっぷりで語ってくれました。
コルクへのこだわりもしかり、自分のポリシーに基づいた手作りでのワイン造り。しかもワイン収穫時期を除いて年間の大半はコックス氏ともう一人の従業員だけと言う、極めて小規模でのビジネスに自然とワインの生産量も限られています。「輸出計画は?」との問いに、「そうなると、余分な税金がいろいろ発生し、今の単価の半分ぐらいの価格で、2倍の量を売らなくてはならなくなるので、今のところはあまり積極的に考えていない」とのこと。確かに、オーストラリア、ヨーロッパ、中国、インドはNZの企業には大きな市場で、何かと言うと「NZの市場は小さいから」という彼らにとって、輸出は最高のビジネス拡大のチャンスです。しかし、コックス氏の目下の目的は、ビジネス拡大より、ご本人のこだわりのワイン造りにあるように見受けました。
インタビューの終盤に、お客さんが登場、と思いきや彼の高校時代の同級生。「この前買ったワインが美味しかったから、今晩飲むワインを買いに来た」とのこと。同級生が気軽に買いに来られる価格で、数あるワイナリーからここを選ぶ、というのはやはり友情を超えた愛情( )があるのでしょうか?