NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第121回コラム(Sep/2012)
6 Years’ Time“Picking Olives. Call 021××××××”
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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閉ざされたセラードアの入り口には、殴り書きで張り紙がしてありました。電話してしばらくすると、狼ほどに大きい、しかし利口そうな犬を連れてオリーヴ畑からのそのそと歩いてきた、さらに大きいデイヴィッドの姿が見えました。が、その姿に私は、どこか違和感を覚えました。

こんにちは、こないだ来たのは3、4年前だからもちろん覚えてないでしょうけど…、と挨拶してふと、カフェがなくなっているのに気がつきました。「まだテイスティング・カウンターの裏手にカフェがあったときに来たってか?あっちにレストランを建てて…そっちにカフェが移ったのが2006年の…11月、ああ、間違いなく11月だったからそりゃ、来たのはそれ以前ってことになるな。」無理もありません。久しぶりに見たデイヴィットはなんとなく違って見えましたが、知らぬ間にそれだけの、6年もの歳月がたっていたのでした。

サンジョヴェーゼとドルチェットだけをつくるつくり手として以前紹介したHeron's Flight/ヘロンズ・フライト(以前のコラムはこちら)は、セラードア自体もかなり様変わりしたように見えました。最近件のレストランも他人に売り、ワインに専念するようになったのだとか。

「まぁでも、多少サンジョヴェーゼに興味を持ってくれるワインメーカーや消費者が増えたとは思うが、マーケットのほうはあれから何も変わっちゃあいないよ。それで、これをつくったのさ」

注がれたのは、Unplugged/アンプラグドという、新しくつくったレンジのドルチェット。イタリア・ピエモンテ州でネッビオーロ、そしてバルベーラの次に、一番恵まれないところに植えられる運命がほとんどのこの赤品種は、持ち味のきれいな酸もきつすぎず、おやっと思うほど飲み口よく仕上がっていました。「あえて見慣れたスクリュー・キャップにして、初めてこの品種を飲む人のために味わいもよりソフトにしてある。いわばドルチェットのエントリー・レベル版さ。ただし。ラベルにドルチェットと大きく書くことは忘れちゃあいない」そう言ってにやっと笑顔を見せた彼は、上のレンジも注いでくれました。見慣れたボトルに入ったそのサンジョヴェーゼと半々のブレンドは、シルキーなまとまりがあり、お、コレ買って帰ろうと即思わせる出来でした。

続けて、サンジョヴェーゼらしさを失わないままソフトに作られたUnpluggedのサンジョヴェーゼと、ついこないだニュージー(の何だか)で7本の赤ワインのうちの1本に選ばれたという、リリース前の若々しいサンジョヴェーゼ・リザーヴブレンドのトップ・キュヴェを飲ませてくれました。二つの比較を楽しんでいると、安っぽそうなグラスがどこからかさっと出され、見慣れない透明なボトルからそこに注がれたのは――異常に紫の強い、サンジョヴェーゼのジュースでした。飲んでみると、日本のスーパーにも売っているいわゆる“グレープジュース”ではなく、色はさておきなんというか、ワインづくりに携わっている人間にはすごく安心する味わいでした。ワイン用ブドウの果汁は、甘みも、酸味もしっかりしていてコクがあるのです。「どうやってここまで色を出すかだって?くっくっく、実にワインメーカー的な質問だな。実はお前さんが考えるより意外と手がかかっているのさ。」高温で加熱殺菌しながら抽出、プレス、さらにホットボトリングするそうで、自分のところではできないから、オークランドで唯一そうした設備のあるところに頼んでいるだとか。

売れ行きはどうなんです?と聞くと、生産量が全く足りないくらいだそう。曰く、ニュージーでは食用ブドウからつくられたブドウジュース自体がもともとあまりポピュラーじゃないこと、さらにサンジョヴェーゼ以外にもメルロやソーヴィニヨンなど、多少聞きなれたワイン用ブドウの名前を冠しているジュースもあること、さらには高温処理により一切他のものが添加されていないというのがその好調の理由ではないかとのこと。(ただし、買いブドウでつくられるスパークリング・ソーヴィニヨン・ブランのジュースには、保存料としてビタミンCが少量入っています)ただやはり、昨年サンジョヴェーゼの25%をもジュースつぎ込んだと聞くと、少し寂しくはなりました。「ドライバーにも、飲み手にも、たくさんの選択があったほうがいいと前から思っていてね。それに、”サンジョヴェーゼ”のジュースだからこそ、ウチにとっては意味があるのさ。」

一応最後にワイナリーも見ていくか?、と案内してくれたワイナリーと呼ばれている少し埃っぽい納屋。そこには、25年以上使い続けているウィルメスのプレスや、温度管理機能すらついていないタンクが、6年前の訪問時と何も変わらずに並んでいました。

変わりゆくもの。変わらないもの。未だ彼の根底にあったのは、サンジョヴェーゼとドルチェットへの変わらぬ愛でした。そして、ライヤ(リラ)式に仕立てられた樹齢を重ね続けるふたつのブドウとデイヴィッドとの歴史の厚みは確かに、明らかにワインに表れていました。

「じゃあ、もろもろ幸運を祈るよ。また、今度な」

じゃあまぁ、また6年後かな?、そう答えた僕の背中を、大きなデイヴィットが笑いながら手で叩きましたが、年のせいかやはり、前よりも少し細くなった気もしたのでした。

2012年10月掲載
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