NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第133回コラム(Aug/2013)
シンデレラよ、何処へ行く?
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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「ニュージーランドワインが日本において知名度を確立するにあたり、大きな功績を残したワインといえば?」

この問いで名前が上がる銘柄は「○○・ベイ」をはじめいくつかあるでしょうが、その筆頭格のひとつといえるのが、Providence/プロヴィダンスではないでしょうか。高価格帯の赤ワインながらも、その独自性ゆえ1993年の初リリース時から高い評価を受け、ニュージーランド国内ではそれほどその名を知られてはいないものの、海外では非常に高い知名度を誇っています。かれこれ15年ほど前、私が日本で初めて飲んだニュージーランドワインは、ペガサスのほうの「ベイ」の白ワインだったのですが、その会の同じ席でいただいたのがこのプロヴィダンス。つまり、個人的にも記念すべき初ニュージーランド赤ワインだったりします。

さて、今からさかのぼること約2年前。ミーハー熱が去ったのか、最近話題に出ないなぁ・・・と思っていた折り、勢い余って実際に訪問までしてしまった大ファンの友人に、久々にプロヴィダンスを飲ませていただく機会がありました。1996年だったのですが、亜硫酸無添加のおかげですでに相当退色しており、香りも味わいも色から連想される以上の軽やかさ。いや、よりかっこよくアエリアンな、とでも言うべきものだったでしょうか。そこで、ふ~む、亜硫酸無添加のワインの熟成を小刻みに見てみたい、と思い立ち、ワインスクールの授業にしてみました。近年あまりワイン自体をつくってさえいないと聞いていたのですが、その割にはいつのまにか、ヴィンテージ詳細やキレイな写真を散りばめた洒落たホームページも完備していたり。初めてワイナリーを訪れた頃には、ホームページはおろか電話番号の記載すらどこにもなく、弁護士事務所にファックスして行ったのに…と、「どうした?プロヴィダンス」、という気持ちが少なからずあったこともあります(実際には、授業を行ったのと時を同じくして色々なメディアに登場し、大分ほっとしましたけども)。

用意したのは1999年、2002年、2004年、2006年、2008年の5アイテム。1999と2002はプロヴィダンス、残りはプライヴェート・リザーヴ(プロヴィダンスはもともとメルロ主体でしたが、途中からカベルネ・フラン主体のワインを作り、それをプライヴェート・リザーヴと名付けています)。どうも「南半球のル・パン」という言葉が一人歩きしすぎているきらいがありますが、現在は実際メルローとカベルネ・フランの作付け面積はどっこいどっこい。一番好きなワインも、目指すワインもカベルネ・フラン主体のシュヴァル・ブランであることを本人の口からも伺っているのにも関わらず、未だに多くの誤解を受けています。また、亜硫酸を添加しない、というのもそればかり取り上げられますが、味わいや香りに調和を生む大きな影響はもちろんあるのでしょうが、別にそれが最終目的でないことなど、見事な状態にあるこのワインを一度でも飲んだことがある方であればご存じでしょう。

オーナーであるジェームス・ヴルティッチさんに伺ったところ、このラインナップで一番好きなヴィンテージは円熟に達した2002年だそうで、確かに別格でした。暖色を帯びた色調を呈し、香りは野趣的な感じがあって、シャルキュトリーやスモーク、スパイスなどに始まり、徐々に熟成のニュアンスと、どこか北イタリアの赤ワインのような感じも。ラインナップ中一番しっかりとしたストラクチャーを備えた味わいには、品格と力強さが同居していて長く尾をひく余韻を誇り、まさに、という味わいでした。ジェームスさんが他と比べるとそんないい年ではないけども、と断りつつその次点にあげたのが1999年。明らかにオレンジがかっていて、コアも淡い朱色、香りにはフランボワーズやドライフラワー、どこかピノを思わせる感じも。暖かみと熟成感、みずみずしさがあり、鼻の奥をくすぐる独特の酸化的なタッチ。味わいにもひっかかりも何もなく、エレガンスの極み、といった体でした。私には口中で消えゆく感じが、多少ピークの後半にある感じがいたしましたが、ジムさん曰く、過去3年でまた美しいワインへと発展したとのこと。

さて、この1999年のワイン、日本にも深く関わりのあるヴィンテージなんですが、なんだかお分かりになりますでしょうか?実は、現在の日本のワインづくりに大きな影響を与えた、故浅井昭吾(麻井宇介)氏がプロヴィダンスを訪れたヴィンテージなのです。プロヴィダンスを訪ねた麻井氏は、あまり気候的に恵まれているとは思えないマタカナで亜硫酸を添加せずワインを仕込んでいることなどに感銘を受け、その後の思想にも影響を与えたといいます。氏を慕う日本のワイン関係者もとても多く、なかでも有名なのがウスケ・ボーイズを名乗る若手の人気醸造家の方々でしょうか。麻井先生を最後に囲んだ会で供されたワインの中にも、プロヴィダンスがあったといいます。こうして考えると、実に、実に日本と密接なつながりのあるワイナリーといえるのではないでしょうか。

ちなみにジェームスさんのドリーム・ヴィンテージは、初年度の1993を除くと2010だそうで、エレガントなパワフルさに加え、実に素晴らしいフレーヴァーと複雑性があるとのこと。私と同じように、しばらく飲んでないなぁ、という方は、この2010年ものをいくらか買いためてみてはいかがでしょう。授業後レストランで2010年のロゼもいただきましたが、出色の出来映えでした。この年のロゼのラベルは、全世界共通でプロヴィダンスの大ファンで親交も厚い、元読売ジャイアンツの桑田選手のサインと背番号入り(ただロゼは副産物としてつくっているわけではなく、むしろいい年にしかつくらないので、値段は少々…です(笑))。また、畑に試しに白を植える予定でいるようですので、今後「白プロヴィ」が登場する日がくるかもしれません。

とりあえず今回の一連の試飲をとおし、私のおせっかいな心配は吹き飛びました。やはり名を残すワインとは、試行錯誤はしても、その芯がブレないことが重要なのでしょう。その変わらない美しさに敬意を、そしてこれまで、またこれからも遠い日本の地にニュージーワイン・ファンを増やしてくれるであろうことに、改めて感謝を。

2013年9月掲載
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