NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第156回コラム(Jul/2015)
ブティック・ワイナリーの宝庫、ニュージーランド
Text: 細田裕二/Yuji Hosoda
細田裕二

著者紹介

細田裕二
Yuji Hosoda

JSA認定“ソムリエ”、SSI認定“国際唎酒師”。2014年から4年間オークランドに居住。シェフとして働くかたわら、北から南まで数々のワイナリーを訪れ、ニュージーランドワインに存分に浸る。帰国後は東京にて複数店舗を展開する飲食企業に勤務。和食とワインのお店を切り盛りするかたわら、社内のワイン講師やワイン関連のプロモーションを任される。 ヨーロッパからの自社輸入ワインのみを扱うお店にて、お客様にニュージーランドワインの魅力をささやく毎日である。

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みなさんこんにちは。日本を含め北半球にあるワイナリーでは、ブドウの実が色づき始め(ヴェレゾン期)、間もなく始まる収穫、そしてワインの醸造に向けてあわただしくなるころでしょうか。こちら南半球のニュージーランドで暮らすブドウの樹たちは、ただいまグッスリと眠りこけています。作業的には新しいヴィンテージに向け、良いワイン用のブドウをつくるため、冬季剪定(プルーニング)が進行中です。

先日ニュージーランド来て初めてワインの試飲会に行ってきました。日本では店を経営していたこともあって、業者向けの試飲会やセミナーなどの案内がほぼ毎月のようにあり、勉強がてら暇を見つけては足しげく通ったものです。

こちらニュージーランドで試飲会というものがどのくらいのあるのかわかりませんが、業者向け試飲会はもちろん、収穫祭など一般のワイン愛好家に向けてのイベントなどもたびたび開催されているようです。

今回お邪魔してきたのは“New Zealand Boutique Wine Festival 2015”と題されたイベント。会場はダウンタウンの裏通りにある小洒落たレストランでした。

ブティック・ワインってなに?と思われた方もいらっしゃるでしょうか。ブティックというくらいだから、ちょっとおしゃれなラベルのワインとか?まさかワイナリーで服も売っているのではないかなんて。ブティックといえば通常はいわゆる洋服屋さんですよね。

俗にいう“ブティック・ワイナリー”というのはすなわち、経営規模の比較的小さい、時によっては家族で営んでいるようなワイナリーのことを指します。このイベントはそのような小規模経営のワイナリーを集め、彼らのワインを紹介するイベントです。

この国のブティック・ワイナリーについてもう少し書きましょう。

もともと人の少ないニュージーランド、人口は東京都の約3分の1ほどです。現在ではニュージーランド産のワインも人気・知名度ともに国際的にスターダムにのし上がった感もありますが、生産量で言うと全世界の1%をつくっているにすぎません。

国内には現在700社近くのワイン製造業者が存在しています。大手メーカーももちろんありますが、ニュージーランド・ワイン業界を支えているのは年間生産量20万リットル未満の小規模ワイナリー、いわゆる“ブティック・ワイナリー”で、全製造業者の9割ほどを占めているといわれています。そして、そのカテゴリーのワイナリー数は今も年々増え続けているということです。

彼らは自分たちの思いを込めて作り上げた高品質なワインを、ワイナリーのセラードアーやオンライン販売などで直売しています。もちろん街中のリカーショップでも入手できます。

そういったワイナリーを訪ねると、きちんとしたセラードアーを構えているところも数多くありますが、中には自宅兼ワイナリーみたいなところも多く、訪ねていくと当主の自宅の応接間に通され、そこでゆっくり造り手の思いを聞きながらテイスティングなんていうところもあります。楽しいですよ。

さて、イベントの話に戻りましょう。

このイベントはどちらかといえば一般の愛好家向けのもので、$39のエントリー・フィーを払って入場します。この入場料にはイベントガイド、テイスティング・グラス、そして一杯だけのフリー・テイスティングが含まれています。そうなんです、それ以外は2ドルを払って会場内でトークンを買い、それぞれのワイナリーのブースでテイスティングします(ワインによっては4ドル)。

この日はニュージーランド全土から24のワイナリーが集まりました。

会場を入ってすぐのところにこの日のお目当て、セントラル・オタゴのワイナリー“Lowburn Ferry(ローバーン・フェリー)”のブースがあったので早速試飲。

こちらは高品質なピノ・ノワールの造り手で、数々の受賞歴を誇る家族経営のワイナリー。畑に植えられているのもすべてピノ・ノワールだそうです。

オーナー夫人のジーン・ギブソンさんがお相手をしてくれました。

こちらの3レンジあるピノ・ノワールを安い方からすべて試飲。安いと言っても一本45ドルです。ミドル・レンジの“Home Block 2013”が一番まとまりの良い感じがしましたね。こちらのすべてのレンジに共通して感じるのはエレガンス。シルキーな口当たりと奥深い余韻。繊細なタッチのワインです。

ジーンさんに他のブドウ、例えば白ブドウには興味はないのか、なぜにピノ・ノワールなのか、どうして数々の高評価を得ることができたのかなどを訪ねてみると、きっぱりと他のブドウには興味がないとのこと。我々はセントラル・オタゴという土地にもっとも適しているピノ・ノワールをシンプルに育てているだけだと。世界中にはフランス・ブルゴーニュはもとより、昨今高い評価のピノ・ノワールが数多くありますが、それらのワインに関しても追いかけるようなことはせず、あくまでセントラル・オタゴという土地が育むピノ・ノワールと、そのブドウから出来るワインを素直に表現しているだけだと言っていました。

今回は他にもブドウ作りに情熱を注ぐ造り手、カリフォルニア・ナパヴァレーで培ってきた技術を故郷ホークス・ベイに帰って実践している女流醸造家、一風変わった感じの自然派の造り手など、いろいろな生産者の方から直接お話を聞くことができました。ワインを造っている人の顔や話し方、人柄などに触れられるのはまさにブティック・ワイナリー巡りの醍醐味。

ひとしきり満足したところで会場を後にしようとすると、エントランス付近で再度ローバーン・フェリーのジーンさんが、先ほど試飲させたワインより状態がよくなっているからと、もう一度すべて試飲させてくれました。実は最初試飲したときは、確かにどれもちょっと硬いなという印象だったのですが、時間が経って輪郭に丸みを帯びたこちらのピノ・ノワールからは、見事にその実力の片鱗をうかがい知ることができました。

こんな心遣いも生産者の人柄がわかってうれしいですね。

みなさんもニュージーランドでブティック・ワイナリーを訪ねてみてはいかがですか?きっとまだ日本に紹介されていないワインにたくさん巡りあえますよ。

2015年8月掲載
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