NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
ワイナリーのAGMに潜入
第170回コラム(Sep/2016)
ワイナリーのAGMに潜入
Text: 和田咲子/Sakiko Wada
和田咲子

著者紹介

和田咲子
Sakiko Wada

日本に住んでいた頃からヨーロッパワインは飲んでいたものの、1994年の渡航以来、先ずはニュージーランドワインの安くて美味しい事に魅せられ、その後再度オールドワールドやニューワールドワインに拡大してワインをappreciateしている。ただ消費するだけに終わらない様に必死にwine drinking culture の質を高めようと努力する毎日である。

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AGM、こちらではよく聞き使う言葉ですが一体何の事でしょうか?

『Annual General Meeting』の略で通常はAGMと言っていますが、所謂『企業の年次株主総会』です。そんなところに行って面白いのでしょうか?普通は堅苦しい会議室で行われる事の多い総会ですがこのワイナリーの年次総会はちょっと違いました。

ワインのテイスティングやマッチングフードがサーヴされ、バンドも入ってとても楽しく時間を過ごす事が出来ました。ワイン系の友達と潜入してきましたので今日はその時に発見したこのワイナリーの事やそのAGMでの様子をお知らせしたいと思います。

オークランドの街中から車で約1時間、内陸都市ハミルトンの方向へ、という事は南方へ向かうと小さな村、Te Kauwhata(テ・カウファタ)という場所が有りますが、そこにこのインヴィーヴォ・ワインズ(以下インヴィーヴォ)と言うワイナリーは存在しています。

今回は2台の大型バスで送り迎え付きでした。私達はオークランドの街中からすぐ近くの歴史あるパブに午後3時に集合し、先ずはそこでインヴィーヴォのワインや軽食がふるまわれていて自由に飲めるようになっていました。そしてバスで約1時間かけて到着。

ここは学生時代の友人同士であるロブとティムの二人が組んでパッションで始めた2007年創業のまだとても新しいワイナリーです。

Rob Cameron/ロブ・キャメロン, the Crusher(醸造家の湾曲)は主にワイン・メーカーとして働き、 Tim Lightbourne/ティム・ライトボーン, the Twinkle-Toes(セールスの婉曲)は世界中を飛び回って主にマーケティングをしています。二人のモットーは『ワインの初心者にもワイン業界の通にも楽しんで飲んで貰えるような低価格のワインを提供する事』彼らの生み出すワインは世界中の数々のワイン・ショーで金メダルやトロフィーを受賞し、2009年と2010にはあのロンドンのInternational Wine & Spirit Competitionでニュージーランド・ワイン・プロデューサー・オブ・ザ・イヤー(その年一番のニュージーランドのワイン醸造家賞)のファイナリストに残るほど注目を集めています。

最初にリリースされたのは2008年のマールボロ・ソーヴィニヨン・ブラン。ニュージーランドワインの名を高めたブドウ品種ですね。フランスのロワールで作られるサンセールやピュイ・フュメと同じブドウ品種なのに、ここニュージーランドで栽培されたソーヴィニヨン・ブランから作られるワインは全く異なったアロマが感じられ、あま~いトロピカル・フルーツ、時にはパッション・フルーツの香りさえ出てきます。

その後、彼らはピノ・ノワール、ピノ・グリ、ロゼ、スパークリング、リースリング、シャルドネ、と拡大してゆき2010年には低アルコール且つ低カロリーのソーヴィニヨン・ブランのワインも出しています。

このワイナリーの大きな特徴は、ニュージーランドで初めての、一般から集めた資金で運営されているワイナリーだという事でしょう。だからこそ、これからの躍進を信じて投資してくださった株主の皆さんにお礼を兼ねて楽しんでもらおうという姿勢が満載のAGMでした。

普通とはちょっと違ったやり方で、それゆえに世間に認められてきているインヴィーヴォはもう一つ面白い事をしています。

みなさんはアイルランドのセレブリティーである Graham Norton(グラハム・ノートン)をご存知でしょうか?

コメディアンであり俳優でもあり、テレビやラジオの司会もこなす、英語圏の国ではよく知られた人気者です。彼はGraham Norton Showと言うトーク番組を担当しているのですが、もともとニュージーランドのマールボロ・ソーヴィニヨン・ブランが好きで、その中でもインヴィーヴォのソーヴィニヨン・ブランを好んで飲んでいたそうで、ついにはインヴィーヴォで自分のワインを作ってしまったのです。実際にニュージーランドのブドウを踏みつぶしたりブレンドをしてワイン・メーカーとしてもデビューした、などと紹介されていました。そしてこのグラハム・ノートン・ショーはBAFTA TV Awardの賞も数回受賞している番組なのですが、インヴィーヴォを番組ご用達のワインにまでしてしまいました!

“Norton Hemisphere” magic to our Southern Hemisphere Sauvignon Blanc grapes.

『北半球/ノーザン・ヘミスフィア=Northern Hemisphere』スペルにご注意)のノートンが南半球/サザン・ヘミスフィアのソーヴィニヨン・ブラン品種に魔法をかけた』と語呂を合わせて宣伝されているのも面白かったです。

さて、AGM会場に到着すると、小雨の降る夕方でしたが入り口には雨除けのテントも張られてさながらパーティー会場の様でした。

バーが有り、ここでもワインを選んでどれでも試飲できるようになっていたので、私たちはパブでは飲まなかった種類のワインを選んでグラスを片手に人々の群れの中に入ってゆきました。

フィンガー・フードがサーヴされ、近隣の人達と話をしてみると、多くの人達はこのワイナリーをサポートしている人たちの様でした。ある奥様は『私達は1年前に見込みが有りそうだから少し出したの。そうしたらワインを注文してもすぐにオークランドの自宅まで届けてくれるしビジネスの状況もちゃんと報告をくれるし、とっても良いわ。』と陽気に話してくれました。

その後実際のAGMが始まりましたが、報告内容の他にも今迄に各国で使われたり放映されたテレビコマーシャルやニュース番組で取り上げられたインヴィーヴォの映像が流され、まるでワインに関するドキュメンタリー映画を観ている様でそれも楽しめました。

それからワイナリー内部のツアーです。幾つかのグループに分かれてそれぞれのグループに一人の案内人が付いてくれ、ワイン造りの工程を順番に見せて貰いました。中でも一番興味深かったのは、このワイナリーの元々の建物の部分です。

実はここは、114年の歴史を持つTe Kauwhata wineryと名付けられたワイナリーで、ニュージーランド政府が最初にワイン醸造研究のために1902年にデザインをして建設したものなのです。

その面影が色濃く残る部分はとても歴史を感じ、その頃にこの事業に携わった人たちは今のニュージーランドのワイン・インダストリーの発展をどのように喜んでくれているのだろうか、と想いを馳せられました。

ツアーを終えてメイン会場の方に戻るとまだバンドが音楽を奏でていて少し踊る事も出来ました。

色々感想を話しながらの帰りのバスは、夕方の混雑時に比べると格段に速く私達をオークランドへ戻してくれて今回のAGM潜入は新たな知識や経験を私たちにくれて幕を閉じました。

2016年10月掲載
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