NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
オークランドで女性バーテンダーを目指して
第188回コラム(Mar/2018)
オークランドで女性バーテンダーを目指して
Text: 柴田花純/Kasumi Shibata
柴田花純

著者紹介

柴田花純
Kasumi Shibata

法政大学卒業。大学時代に「まちづくり」について学ぶ中、コミュニティというソフト面の重要性を痛感し、英国パブ文化に興味を持つ。卒論ではパブとコミュニティについて研究、大学4年の夏から1年間日本のブリティッシュパブ、アイリッシュパブで修行し、単身オークランドに乗り込む。現在地域に愛される女性バーテンダーとして活躍中。趣味はダンス。5歳からバレエを学び、高校でバトン、大学でチアを経験。

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私がバーテンダーを務めるパブ「QF TAV」は多種多様な人々が行き交う、活気あるクイーンストリートにあります。私がオークランドで最初に訪れたパブでもあります。QFはQueen’s Ferryの略。TAVはPUBの起源でもあるローマ時代に繁栄した街道沿いにある飲食の場、tavern(タヴァーン)のことです。

毎日夕方にはハッピーアワーとミュージックライブが開催され、音楽に耳を傾けながらリーズナブルにお酒を楽しむことができます。また、水曜日にはカラオケ・ナイト、金曜日と土曜日にはDJミュージック、シーズン中にはスポーツ観戦もでき、多くの地元民、観光客でにぎわいます。フレンドリーなスタッフ、居心地の良い空間、パブでは誰もが我が家に帰ったような気分になることができます。

私がこのパブでバーテンダーの仕事を得るのは簡単ではありませんでした。ローカルのパブには日本人はもとよりアジア系のスタッフは一人もいませんでした。私の目の前には文化の壁、言語の壁が大きく立ちはだかっていました。日本での経験も通用しない異国の地。私に残されたものはがむしゃらな情熱だけ。覚悟を決めて粘り強く挑戦し続けました。結果、3度履歴書を提出し、更に客としても通って「仕事が欲しい」と訴え、やっとトライアルのチャンスを得て、仕事を得ることができました。私の情熱が壁を越えた瞬間でした。

こうしてようやく異国の地でバーテンダーとしての道を歩み始めました。一人前のバーテンダーになるために学ぶことは山のようにあります。バーテンダーの仕事と言えばシェーカーをシャカシャカ振ってお酒を作って提供するだけと思われがちですが、最も重要なのはホストとしてお客さんがくつろぎ楽しめる雰囲気を作り出すことです。

時にはお客さん同士の喧嘩を止めたり、ルールを守らない者に毅然とした態度で忠告したり、退店を命じたりしなければなりません。争いごとの少ない日本で育った女の子には容易なことではありません。常に公正で、迅速に対処できる能力が求められます。

また、ちょっとした心遣いも大切です。パブに来る人の多くは癒しを求めています。レシートで折り鶴を作ってプレゼントするなど、ちょっとしたおもてなしをするだけでもすごく喜ばれます。

良きバーテンダーになるには、様々な人間と出会い、学び、自分自身が成長していかなければなりません。お酒の技術は誰でも時間をかければ習得することができますが、人間として成長するには、いろんな環境に飛び込み身をもって学んでいくしかありません。オークランドに来て正解でした。今ではようやくオークランドの人々にも少しは認められるバーテンダーの一人になれた気がしています。

ここでニュージーランドと日本のパブの違いについて紹介します。

パブは「パブリック・ハウス」の略で文字通り「公共の家」、言い換えれば「みんなの家」という意味です。一人で来ても楽しめるし、友達や家族、会社の同僚と来ても楽しめる場所なのです。日本の居酒屋では来店したらまずウエイトレスに人数を聞かれ、一緒に来た仲間と楽しめる席や個室に案内されます。一方こちらでは、基本的に自由席です。隣になったお客さん同士で会話を楽しむこともできれば、バーテンダーと会話を楽しむこともできます。パブではみんなが平等で愛すべき仲間なのです。人種も貧富の差も関係ありません。しかし、自由な場所であるが故、時に言い争いや喧嘩が起きてしまうのも事実です。さまざまな衝突を経て新しいものが生まれることもあるから面白いのですが。

バーやパブでは「ラウンド」というお酒の買い方がメジャーです。一緒に来た仲間の一人が全員分のお酒を買い、次に別の人が全員分のお酒を買うというように全員が平等にお金を払ってお酒を楽しむ方法です。日本では先輩が全員分おごったり、最後に割り勘をしたりなどの方法がありますが、ラウンドの何よりも素晴らしい点は一体感が生まれることにあります。互いにフェアな関係を保ちつつ、新しいお酒を手にして毎回乾杯できるからかもしれません。

ここで私のお勧めのビールを紹介します。

一つ目は私の一番好きなニュージーランドビールのMac's Gold。これは日本人に馴染み深いラガービールなのでとても飲みやすいです。日本人のお客さんが何を飲むか悩んでいる時はいつもこれをお勧めしています。さっぱりした味わいなので暑い日やスポーツ観戦の日にお勧めです。

二つ目はMac's Three Wolves。これはペールエールでフルーティーな味わいです。私は大のラグビーファンなので、スーパーラグビーのシーズン中はパブで試合を観戦することができるので、Three WolvesをSun Wolves と言い間違えてしまうほど、、、

このMac's は1981年に元オールブラックスラグビープレイヤー、農家であるTerry McCashinがネルソンで製造されたビールです。ラグビーを観戦しながらぜひ試してみてください。

パブではパイントビールのイメージが強いですが、もちろんワインも提供しています。私が働いてるQF TAVにはKOPIKO BAYというハウスワインがあります。私のおすすめはメルローです。また、一番人気なワインはソーヴィニヨン・ブランです。どちらもワインだけでも、食事と一緒でも楽しめるワインとなっています。マネージャーから聞いた話によるとこのKOPIKO BAYはニュージーランドで作られているが、ニュージーランドのスーパーマーケットやリカーショップでは買う事が出来ないとのこと。レストランやバー、パブでしか提供していないワインなので、ニュージーランドでパブに訪れた際はぜひ飲んでみてください。

2018年4月掲載
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