NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第69回コラム(Jul/2008)
お気に入りのワイン屋さん
Text: ディクソンあき/Aki Dickson
ディクソンあき

著者紹介

ディクソンあき
Aki Dickson

三重県出身、神奈川県育ち、NZ在住。日本では、栄養士の国家資格を持ち、保育園、大手食品会社にて勤務。ワイン好きが高じてギズボーンの学校に在籍しワイン醸造学とぶどう栽培学を修学。オークランドにあるNZワイン専門店で2年間勤務。週末にはワイナリーでワイン造りにも携わる。2006年より約2年間、ワイナリーのセラードアーで勤務。現在はウェリントンのワインショップで、ワイン・コンサルタント兼NZワイン・バイヤーとして勤める。ワインに関する執筆活動も行っている。趣味はビーチでのワインとチーズのピクニック。

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皆さんには、お気に入りのワイン屋さんがありますか?日本だと、酒屋さんやリカーショップ、スーパーマーケットなどの方が、手軽に立ち寄れるワインの入手先のことが多いかもしれませんね。ニュージーランドでも実は、スーパーマーケットが最も手軽なワイン小売店となっていますが、私は住む先々の町で、お気に入りのワイン屋さんを必ず見つけてきました。私にとって、また通いたくなるワイン屋さんの決め手はこの4つ。

一番大切なのは、なんと言っても雰囲気。居心地の良い雰囲気のあるワイン屋さんって、とても感じの良いものです。

さて、自称「引越しクイーン」の私が一月から住み始めたのは、首都ウェリントンです。ここでもお気に入りのワイン屋さん第一候補がすぐに現れましたが、感じるものがありません。居心地があまり良くなかったのです。そうこうしているうちに、貯金もなくなってきます。お気に入りを探している場合ではない、働かなければ。引越しして一週間目、履歴書に新しい職歴を書き込んで更新完了。いざ、久々の就職活動の始まりです。

「言っとくけれど、僕はニュージーランド・ワインが好きじゃないんだ。」

町の小さなワイン屋さん、といった雰囲気のお店のオフィスで面接中、オーナーのRは、あからさまにこう言ったのです。

「僕の舌は、ヨーロッパワインのデリケートな味に慣れているからね。」

一体どこの国出身なのかと思ったら、何てことない、ウェリントン出身者でした。自国のワインが嫌いだなんて、変なキウイ(ニュージーランド人)。でも会話が進むうちに、実はそうでもないことが分かりました。ほら、日本にもよくいますよね、旨いものしか口にしない食べ物にうるさい人。それのワインバージョン、ニュージーランド編と言ったところでしょうか。ニュージーランドワインを含むどこの国のワインでも、本当に良いものをきちんと評価する、舌の肥えたワインのプロなのです。このお店に初めて来た時、「雑然としていて面白い」「個性的」「一風変わっている」という印象を受けました。でも小ぢんまりとしていて、居心地の良いワイン屋さんですし、オーナーはワイン・ジャーナリストとワイン鑑定士の過去の顔を持つ、プロ中のプロです。そういうわけで、知識が豊富で気さくなおっちゃん風のRの元で働くことになりました。

このショップには、世界中から丁寧に選ばれた良いワインがたくさん取り揃えられています。名門ワイナリーの高級なワインの数々は、ワイン専用のキャビネットの中に、大切に寝かされていて、古いものは1970年代のものからあります。そして、店のいたるところに点在している、コスト・パフォーマンスの良いお値打ちのワインは、普段気軽に飲むワインを求めてやって来るお客さんの強い見方なのです。

首都ウェリントンの住民は国際色豊か(ちなみにお店には観光客はほとんど来ません)。そんなお客さんに合わせて、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガルはもちろん、オーストラリア、南ア、南米、米国、ギリシャやモロッコ、メキシコやブルガリアのワインさえあります。大抵のワインショップでは、棚のほとんどがニュージーランドワインで埋め尽くされ、海外からのワインは片隅に追いやられる傾向があります。自国のワインを多く取り揃えるのは、どこの国のワイン屋さんにも共通することかもしれませんね(日本のようにワイン国でない国は例外ですが)。それなので、こんなRのインターナショナルなワインショップは、ニュージーランドではとても珍しいのです。

ここまで来ると、ニュージーランドワインはどうなの?と、編集者に叱られそうです。実は、ニュージーランドワインのコーナーも、人の目を引くものがあります。それは、大手のワイナリーのワインが全く見当たらないと言うことです(これもまた、普通のニュージーランドのワイン屋さんと違うところ)。その代わりに、小さな、あるいは新しいブティックワイナリーのレアで質の良いワインだけを、厳選しているのです。特にニュージーランドワインをほぼ毎日飲んで、ニュージーランドワインを知り尽くしていると思っているキウイにとっては、新しいニュージーランドワインへの好奇心が掻き立てられます。

Rのお店がワインを選ぶときの重要なポイントは、1.質と値段が見合っているワインを選ぶ。 2.珍しい又は無名のワイナリーなのに、丁寧なワイン造りをしているワインを選ぶ。 3.金賞受賞のワインでも、試飲してスタッフ全員が「美味しくない、受賞ワインの質ではない」と思ったワインは置かない。などです(実際そんなワインがたまにあるんです)。

例えば、ワインを取り寄せる前に、スタッフがブラインド・テイスティングをして、そのワインを買いたいと思う大体の値段を提案します。実際の値段と比較して、あまりにも高すぎたら、そのワインは取り寄せません。スタッフもお客さん同様、コスト・パフォーマンスの良いワインが好きなのです。

Rのワインショップは今では、私のお気に入りのワイン屋さんです。そしてそんなユニークなニュージーランドワインのコーナーを維持するのが、私の仕事です。見覚えのないラベルが見つからないと、「スーパーマーケットの方がましなセレクションがある」と、不平をこぼすお客さんも中にはいますが、そういう方には、最寄のスーパーマーケットの場所を教えてあげています。そして、こんなRのお店には、不平を言う人よりも、もっとたくさんのお得意さんがいるのです。

皆さんの、お気に入りのワイン屋さんの決めては何ですか?ニュージーランドワインの品揃えが良いお店?それとも気さくなスタッフがいるお店?いろいろなワイン屋さんに立ち寄って、お気に入りのお店を見つけてみてはいかがでしょうか。

2008年8月掲載
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