NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第87回コラム(Dec/2009)
タウポ湖畔のオアシス Scenic Cellars/シーニック・セラーズ
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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日本国民が寒さに震える中、ニュージーランドは夏本番。そして夏のニュージーランドといえば、アウトドア。多様な地形からなる豊かな自然が保たれ、まさに国全体がアウドドア・スポットといっても過言ではありません。こうした環境で小さい頃から当たり前のようにアウトドアに親しんできたキウィは一億総火の玉ならず、一億総アウトドア・ラヴァーなのです。まあ実際には、ニュージーランドの人口は、億はおろか420万人くらいしかいませんけどね…。

とりわけ有名なのが、この国最大面積を誇る湖、レイク・タウポです。有名なトラウト・フィッシングをはじめ、ジェットボートにラフティング、ゴルフ、ハイキングにウィンタースキーと、水もの・山ものも一年中通して楽しめるので、北島に住むキウィからは、ホリデーの保養地定番として愛されています。また北島のど真ん中にあるため、オークランドからだけでなく地方都市からも国内線や高速バス、車でアクセスがしやすく、常に観光客で賑わっています。

そんなタウポの数あるアクティビティの中で名物ともいえるのが、“空もの”のスカイ・ダイビング。数社がサービスを競っており、ニュージーランド国内でも1、2を争うくらい安くできると評判です。それを目当てに自分がタウポに到着したものの、当日あいにくの嵐…ひょっとしたら晴れるかも、という万が一のチャンスに備えてカフェをはしごしてモカチーノを飲み続けるものの、微かな希望は次第にしぼんでいきました。結局、この日最後のフライト時間に「今回は無理です」との電話が入りました…。大舞台で吐いたらあかん、と昼食も我慢してすでに、午後3時。わかってはいましたが、空腹とコーヒーの飲みすぎで胃がきりきりするたびに、無念さがこみ上げてきます。

そんな自分を救ってくれたのは、湖を真向かいに臨む道沿いにお店を構える1件のワインショップでした。シーニック・セラーズには、近年ニュージーランド国内でも増えてきている、カードを購入して少量のサンプルを試飲できるエノマティック・システムを導入しており、ニュージーランドや世界の著名銘柄を楽しむことができます。そしてこの店の一番のウリは、最大の湖タウポに負けじと、国内最大面積という地下のワイン・セラー。洒落たディスプレイを眼下に、店内中央の吹き抜けの階段を下りたところにあり、ちょうど近くに住むご夫婦が、ジョギングのついでにワインを買いにきていました。少しお話を伺うと、もともとこのお店の前身の酒屋は80年代からはじまったらしく、ワインがメインのブティックとなった現在も、地元の方々に親しまれているということでした。

せっかくなのでカードを買って、ちょこちょことエノマティックでテイスティングをしながらグラス片手に店内のワインを見回していたところ、目についたのがご当地もの、タウポ地区のワインでした。実はこの、冬には雪の降る火山性土壌で真摯にブドウをつくろうとしている生産者がいることを、数年前雑誌の記事で見かけたことがありました。

ここでワインがつくれれば、観光客も多いしさぞ売れるだろう。俗物な自分はついついそっちに考えがおよんでしまいます。しかし、タウポに大々的にワイナリーを構えてるところでもブドウが近くのホークス・ベイ産であったり、タウポ産でもラインナップがピノ・グリやピノ・ノワールのブラッシュ・ワインだったりするところをみると、なかなか果実の熟度があがりにくいのであろうことは容易に想像できました。

そんな苦労に敬意を表し全種類買ってあげたいのはやまやまでしたが、荷物に余裕もなかったので、フロア・アシスタントのマーガレットに赤白1本づつ選んでもらいました。

白はMartin Watt Pukawa Vineyard Riesling 2008。オーストラリアからNZにきてワイナリーを立ち上げたというアンドリューがつくるリースリングは、リンゴ酸ばっちばちのかなり辛口でバランスをとった、シトラス系が前面にでているワイン。正直試飲時はまだ若くかなりつんつんしていたので、もう少々時間がたって丸くなってから飲んでみたほうがもっとおもしろいんじゃないかと思いました。ラベルのセンターにもこの地域の火山活動でできた軽石を選んでいるあたり、タウポへのこだわりが感じられ、応援したくなったワイナリーです。

赤は、Lake Taupo Vineyard Pinot Noir。タウポのレストラン・スタッフが副業でやりだしたという、リーズナブルな値段のピノ・ノワール。2008年と若いことに加え樽熟成を経ていないことで、個性はやや乏しいものの、より果実味を残したチャーミングで飲みやすいワインに仕上がっていました。

まだまだ歴史も浅く、畑もちりぢりのタウポのワイン産地の特徴を語るには時期尚早ですが、両者に感じられたことは、どちらも観光地用のワインではなく、タウポのブドウでワインをつくっていこうという姿勢でした。今回は残念ながらワイナリーを訪問する時間がとれませんでしたが、今後ぜひ動向を見守っていきたい産地です。

タウポにはもちろん、天候に恵まれなくても楽しめるアクティビティもたくさんありますし、こうして気持ちよいスタッフのいるワイン・ショップもありました。シーニック・セラーズでは定期的にテーマを決めた試飲など、様々なイベントも随時行っているということなので、ぜひタウポに来た際には立ち寄ってみてください。日中遊びつかれたあなたの体が求めるワインが、必ずこのショップでみつかるはずです。次こそは自分も、リベンジに成功したスカイ・ダイビングの話を肴に、美味いワインを飲みたいものです。

2010年1月掲載
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