NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第210回コラム(Jul/2020)
ロックダウンとワインの関係
Text: 和田咲子/Sakiko Wada
著者紹介
和田咲子
Sakiko Wada
日本に住んでいた頃からヨーロッパワインは飲んでいたものの、1994年の渡航以来、先ずはニュージーランドワインの安くて美味しい事に魅せられ、その後再度オールドワールドやニューワールドワインに拡大してワインをappreciateしている。ただ消費するだけに終わらない様に必死にwine drinking culture の質を高めようと努力する毎日である。
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皆さん、こんにちは。このワインコラムはニュージーランド在住の方だけではなく日本で読んでくださる方もいらっしゃるでしょうし、その他の国で目にされる方も多いかと思います。現在、世界的にはまだまだ新型コロナウイルスによる感染拡大が続いていて、一体いつに成れば収束に向かうのか、第二波到来に苦しむ国も多く、本当に先が見えませんね。
そんな中でここニュージーランドでは33日間のロックダウン(新型コロナウイルス感染拡大防止のために定められたニュージーランドの警戒レベル4段階中の最高レベル4)を経て順調に警戒レベルも低くなり、遂に6月9日からは警戒レベルが1に落ち、国境閉鎖以外のすべての国内活動に制限がなくなりました。思えば3月28日にニュージーランドで最初の感染者が報告された頃の不安な日々を経て、生活がかなり制約されていたロックダウン中を含む約2か月半の間、私の生活はやっぱりワインとは切っても切り離せない日々だったな、と振り返っています。
ニュージーランドの国民の祝日は、実は一年の前半に集中しています。クリスマスは勿論12月ですし、10月にもレイバー・デーと言う勤労感謝の日に相当する祝日がありますが、それ以外の祝日は6月までなのです。その為に年の後半に祝日を追加しようとする動きも今までにはありましたが、ロックダウン中から6月始めまでの間には幾つかの国民の祝日があり、今年は例年とは異なる祝い方を余儀なくされたわけです。
4月12日のイースター・サンデーを挿むイースター連休には、コロナ禍の真っ最中ではあっても首相の粋な計らいでイースターバニーがちゃんと子供達を楽しませてくれました。お父さんとお母さん達などの大人はホリデーですからやっぱりワインを楽しみます。4月25日のANZAC DAYには、通常はニュージーランドのあちこちで記念式典が有り、我が家でもファミリー・トラディションとしてドメインと呼ばれている大きな広場での夜明けの式典に毎年参加しているのですが、今年は人が集まる事は出来なかったので、これまた政府の粋な計らいでSTAND AT DAWNと称して自宅のドライブウェイやベランダでの式典参加が推奨されました。
近所の人達と共にカー・ラジオや携帯電話で聞く式典の進行を、ビデオコールでオークランド内にいる家族と共有しました。例年このアンザック・デーの午前中はどんな職業に就いていても、式典参加や戦没者への慰霊の念を捧げる為にお休みになりますので、この機会に家族が集まる習慣にしているKiwi達も多いのです。
そんな時にもやっぱりワインはつきものですね。4月27日で実質3月26日から33日間続いたロックダウンが終わり16日間のレベル3に入りましたが、その期間には面白い事に5月5日の World Hand Hygiene Day / 世界手指衛生の日(この日は International Midwive’s Day / 国際助産婦の日でもあるそうです)や、5月12日の International Nurse Day / 国際看護師の日 などが含まれていて、まさに時の英雄達である医療従事者の方々への感謝を表すのにぴったりでした。
警戒レベルが5月14日からレベル2に落ち、生活面での制限がかなり緩和されましたが、今年はイギリス女王のクイーン・エリザベスIIもパレードを行わずにひっそりと誕生日をお祝いされましたよね。ニュージーランドでは Queen’s Birthday は6月第1月曜日、と定められていますので今年は6月1日でしたが、本当の誕生日は4月21日で、今年で94歳になられたそうです。ニュージーランドはコモンウェルス・オブ・ネイションズ(Commonwealth of Nations:旧イギリス連邦)の一国ですので、女王陛下の誕生日もちゃんと休日になります。凛とした存在感を今でも放っておられるお姿はいつ見ても素敵だなぁと思います。まだまだ長生きしてほしいです。
そんなこんなで異例の祝日が過ぎて行き、個人的にも家族の誕生日を合同で祝うオンライン・バースデーを企画したり、ワイン仲間との毎週水曜日のオンライン・テイスティング情報交換、それからZOOMでのオンライン飲み会を主催したりもしました。
オンライン・バースデー・パーティーではミートローフとマッシュポテトで作ったケーキにろうそくを立てて画面の向こう側から吹き消してもらう様に見せかけつつ自分で火を消してカットし、カメラの前での乾杯(音はグラス2つで出して)。楽しくみんなでお喋りをしながら、開けたワインは一人で飲むしかないのでグラスに軽く注いだ2杯分もセイヴォリー(甘くなくて塩味の食べ物の総称)のケーキと共に私一人の胃の中へ。それでも味わいながら画面の向こう側に居るカンパニー(仲間)をエンジョイしつつ飲めるワインは最高でした。
オンライン飲み会もなかなか楽しいですね。おつまみを見せ合ったりそれぞれのワインの紹介をして運転のプレッシャーなくお喋りに興じられる。でもやっぱりお味見やテイスティングをし合えないのはちょっと寂しかったかな。
外へ行って仲間や家族と集まれなかった時間を今から振り返ると、それなりに楽しむ方法を見つけていたし、私の場合そこには彩を添えるワインがいつも登場していました。ワインの力で自分も周りもハッピーになれるから。人間は従来不意にやって来た状況にもちゃんと対応すべくフレキシブルに順応してゆく力を持っているとは思いますが、それが何かの加減で失われないようにして柔軟な考えや生活様式を普段から心がけておかなければならないな、と今年のこの前代未聞の事態に直面して強く感じています。
自分の心を豊かにしてくれて、世界を少~し高い位置から、或いはちょっと離れて見渡してみる事の出来る気持ちの余裕を与えてくれる何かを、常日頃から持っていると人は少し強くなれるのではないか、なんて思っています。
今迄のこのワインコラムにも何度か書いてきましたが、普段からワインは人と人をつなげる、と言う『ワインマジック』の恩恵に、私はとてもあやかっていると思います。ワインが人との出会いや繋がりを広げてくれました。でも今回はワインの存在そのものがこんなにも心をリラックスさせてくれるのだと気が付きました。生活に色を添える、その瞬間を特別な時間にしてくれる、そんな力がワインにある事に気が付けて本当に良かったな、と思います。きっとどんな趣味でも少しのめりこみ始めて初めて本当に楽しくなる、と言われているのと同じだろうと感じていますが、このワインコラムを読んでくれているあなたはきっとワイン好き、だからこんな思いもシェアできると信じています。
これからの時代はますます何が起こるかわからないですし、毎日を楽しみながら生活してゆける様に何かの趣味や人とのつながりを持っていることの大切さをロックダウンを通して強く感じました。ワインを見つけておいてよかったな、と心から思っている次第です。(あ、それとセラーが有って良かったな!も)
まだ滞在国によっても異なる今のコロナ事情ですから、きっと皆さまの中にも不安な日常生活の中で出来るだけ小さな喜びや楽しみを見つけて、家族の健康と笑顔の為に生活を続けておられる方がいらっしゃるのだろうな、と思います。ワインが好きなら是非、ワインで生活を今よりもっと明るくしてほしいなと思います。
最後にニュージーランドに来て出会った英語の言い回しで好きな表現があるのでご紹介したいです。
Get the most out of it!
どんな状況や環境に置かれていても、その状態でのベストを自分に取り込もう、という姿勢、良いと思いませんか?
二つ目は
Move on!
前を向いて次の事に取り組もう!
もう一つ良い言葉がありますがこれは母譲り。
Que sera sera.(ケ・セラ・セラ)
『なるようになりますよ、明日は決してそれほど遠いものではありません、未来が来るにまかせましょう、生きていればわかりますよ、What will be will be!』この歌詞をご存知の方は多いと思いますが、今年87に成る母が昔から大好きだったドリス・デイの歌うこの文句、歳を重ねるごとに私の中で重みを増して来ています。
どんな状況になっても、自分に与えられた時間を最大限に生かさなければ、と思っている方は結構多いのではないかな、と思います。きっと今迄の歴史上の大事件の真っただ中で生活していた人たちも、今の私達の様にその渦中に居る時には結構平常を楽しんでいたのかもしれないな、とも思ったりしています。
さあ、毎日を大切に、ひと時ひと時をいつくしんで、そのグラスに注ぐ一杯をゆっくりと味わいながら色々な事に思いをはせて楽しみましょう!