NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
ロックダウン中の生活とワインの楽しみ方
第208回コラム(May/2020)
ロックダウン中の生活とワインの楽しみ方
Text: 小倉絵美/Emi Ogura
小倉絵美

著者紹介

小倉絵美
Emi Ogura

大学卒業後に就職した会社がワインのインポーターだったという偶然からワインが大好きに。以降ワインの世界にどっぷりとはまること十数年。ワーホリで行ったカナダのワイナリーで1年間働いた際にワイン造りに興味を覚える。ニュージーランドワインは以前から大好きでワイナリー巡りを目的に過去に3度来たこともあり、2014年にリンカーン大学でブドウ栽培・ワイン醸造学を修める。2015年の2月からクライストチャーチ郊外にあるワイナリーでセラー・ハンドとして勤務。趣味はワインを飲むことと美味しいものを食べること。そして旅行。

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世界中を震撼させているコロナウイルス(COVID-19)ですがニュージーランドは世界でも一早く国境を封鎖し、感染者が100人にも満たない段階でロックダウンを決定しました。そのお陰でこのコラムを書いている5月下旬現在、ニュージーランドでの死者はたったの21人、感染者の累計も1500人ほどでコロナウイルスの封じ込めにほぼ勝利したと言えます。ニュージーランド政府は3月21日にコロナウイルスに対する4段階の警戒レベル制度を導入し23日には上から2番目のレベル3を宣言、同時に48時間後の25日にはレベル4(ロックダウン)に突入することが決定しました。

レベル4になると基本的には全てのビジネスがシャットダウンし、Essential Business=スーパーや薬局など生活に必要不可欠な仕事)に従事する人以外は“Stay Home”で在宅勤務を余儀なくされました。3月と言えばちょうどどこのワイナリーも収穫の真っ最中。ワイナリーはEssential Businessと認められてワイン造りを続けられることができることが決定しましたが、一年で一番重要な時期でその時期に外国からのピッカーやヴィンテージワーカーも見込めず、Botrytisなど病害対策も人手不足で万全に出来なかったワイナリーや収穫も間に合わずブドウの状態が低下してしまったワイナリーもあり、ニュージーランドのワイナリー業界にとっては忘れられない年となりました。

その時期の生活は「外に出るな、散歩は近所だけ。散歩のときも知らない人とすれ違ったら2メートルの間隔をあけましょう。買い物は週1度。同じ家に住んでいる1人だけ代表して買い物に行くこと。」と言うアウトドアが大好きなニュージーランド人からすれば監獄に近いもの。
私の会社は冷凍生鮮品やアイスクリームを販売、海外へも輸出しているのでEssential Businessと認められ、私は輸出書類を作成しないといけない部署なので上司と合わせて3人で出勤することに。それも在宅勤務では出来ることも限られるのでその分の仕事をこなす必要があり普段の3倍以上の忙しさに(笑)。他の会社は分かりませんが、今の会社では金曜日の仕事終わり用にビールやワインが常備されてあるのですが、ワインも大手ワイナリーのスーパーで売っているようなビック・ブランドのものばかりで(もちろんそれでも会社でワインが飲めるのは有難いのですが)、上司がワイン好きで毎週金曜に私ともう1人の同僚のためにワインを持って来てくれることになりました。

 

1週目はGreystone(グレーストーン)Riesling 2017。ネルソンからワイパラは車で4時間ちょっとの距離なのですが上司はワイパラの白ワインが好きでたまに行くそうです。ワイパラはその石灰岩質の土壌があることからピノ・ノワールリースリングの良いものが出来ると言われています。個人的にですが、ワイパラリースリングはそのミネラル感からニュージーランドで1番だと思っています。少し甘酸っぱさを感じるドライタイプのリースリング。砂糖漬けのレモンのような柑橘系のリースリングらしい1本。16時半からワインを飲みながら最後の仕事の仕上げをするのですが、美味し過ぎて仕事がはかどらない(笑)

 

そして2週目。この頃になると同僚と「今日もワインあるよね?」何が出てくるのか1週間の楽しみに!上司に「ブラインドでお願いします」と挑戦したものの、さすがにニュージーランドのシュナン・ブランは分かりませんでした。。。マールボロForrest(フォレスト) シュナン・ブラン 2018。ピノ・グリと間違えたほど厚みのあるボディー。でも酸があってピノ・グリとはそこが少し違う。ピノ・グリも酸はもちろんあるのですが少しタイプの違う酸。シュナン・ブランをニュージーランドで造っているのは恐らくほとんど無く、私が美味しいと思ったのはセントラル・オタゴAmisfield(アミスフィールド)シュナン・ブラン。このForrestのシュナン・ブランとは少し違う果実味がもっとはっきりとしていた記憶があります。ここの創設者は“Dr(ドクター)”博士号を取得した神経科医だった旦那さんとGPだった奥さんが立ち上げ、その知識を生かして低アルコールワインをマールボロでも牽引してきた珍しいワイナリーです。

 

3週目は地元ネルソンGreenhough(グリーノフ) Chardonnay 2017。ここはドライ・リースリングが評価が高いのですが生産量が少なくほとんどが日本へ輸出されるそうです!実はニュージーランドに来る前に働いていた輸入会社が日本での代理店で日本でリースリングを飲んだことがあったのですが、ワイパラのリースリングとは違い果実味がも う少ししっかりとある厚みのあるリースリングです。ネルソンはあまり知られてはいませんがシャルドネも美味しいのです。上司とワインの好みが合うのか、上司も樽感のしっかりとあるシャルドネが好きではないらしく、このGreenhoughもほのかに鼻に抜ける樽香が心地よいタイプでした。

 

そして4週目。ロックダウン自体は6週間続いたのですが上司がワインを持って来てくれたのがロックダウンの2週目からだったので残念ながらこれが最後の週となりました。最後はマールボロLawson's Dry Hills(ローソンズ・ドライ・ヒルズ)Sauvignon Blanc 2018。私はここのワインは何年か前に行った時から好きなのですがソーヴィニヨン・ブランは普段飲まないので新鮮でした。いわゆるソーヴィニヨン・ブラン的な“青い”香りはここのワイナリーのはあまり無く、パッションフルーツなどの果実香の方が強めに感じます。

 

ロックダウン中は買い物に行くにしても大変だったのでオンライン・ショッピングがとても重宝され、私もワインをクライストチャーチのワイン・ショップから取り寄せました。普段は対面でサインが必要なところ、ドライバーとお客を守るため荷物はコンタクトレスで私のように仕事に出ていて不在の場合は、基本ドア近辺の安全そうなところに放置。でもオーダーした翌日に届くのはとてもありがたく、ネルソンでは買えない珍しいワインも買えるのでそれ以降オンライン・ショッピングの虜になってしまいました(笑)。

 

ロックダウン中の4月の下旬はイースター・ホリデーがあり、本来なら家族が集まる休日、こんな状況だからと会社から引き続き出勤している社員に対して冷凍ラムの配布がありました!骨付きのラムなんて料理したことないし1人だし。。。と思っていたのですがGoogle見ながらラムと格闘し何とか形に!そして合わせたワインは取り寄せたイタリアはょっと浮気してピエモンテの赤ワイン(笑)。ニュージーランドでニュージーランドのワインばかりを飲んでいるとたまにオールドワールドのワインが恋しくなるのです。。。

 

そしてこの秋が深まる時期ロックダウンに突入してしまったのは少し残念だったのですが、幸いなことに近くに小高い丘があり、ネルソンを一望出来ます。遠出できないので運動不足になる人も多く、近所なら散歩はオッケーだったので毎週末の日課になっていました。そして帰ってワインと夕日を楽しむと言う贅沢なロックダウン中の楽しみでした。

 

この日のワインはネルソンのMiddle Earth(ミドル・アース) Chardonnay。ネルソンのシャルドネは素直に果実味を楽しめるのでシャルドネ苦手な人にもおススメです。またロックダウン中は人にも会えないので時間を持て余してる人がやっていたのはBaking。私も多分に漏れず挑戦してみました。

 

そして初めて作ったパンにはワイパラのThe Boneline(ザ・ボーンライン)のChardonnayを合わせてみました。写真だと分からないのですがラベルにはワイパラ川で6億5千年前の化石が描かれていてその土地とワインを繋ぐ象徴として使われています。ここはカベルネフランが個人的にはおススメであのピーマンのような(悪い意味合いではなく)少し青っぽい香りもあり、かと言って未熟ではなく完熟した果実からくるプラムやブラックベリーの果実味も楽しめるニュージーランドでは珍しいフランだと思います。シャルドネも樽香とバターのようなミルク感がかすかに香り、香ばしいパンとは最高のマリアージュでした。

普通の生活がどれだけありがたいかを実感した6週間のロックダウン期間でしたが、ニュージーランドがとった政策は世界から賞賛されるほど迅速で効果的なもので国民が規律を守ってStay Homeを実践したので打ち勝てたのだと思います。個人的にはその間に少しでも生活を明るくしようと色々なワインを楽しめたのは不幸中の幸いと言っても過言ではない気がします。そして早くコロナウイルス問題が落ち着いてくれることを願いつつ今日も大好きなワインを楽しみたいと思います。

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