NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第105回コラム(Jun/2011)
ニュージーランドワインリサーチ
Text: 金澤睦実/Mutsumi Kanazawa
金澤睦実

著者紹介

金澤睦実
Mutsumi Kanazawa

子育て、親の介護を卒業し、目下、第2の青春を逆走暴走中。2010年9月に永住目的でNZ在住開始。ワインに関しては100パーセントの消費者です。学生としてナパ在住中は自称「ワイン愛飲学専攻」。ご招待を頂いた時以外は、高級ワインにはとんと縁はないですが、「皆勤賞」をもらえる程のワイン好き。食事とワインを片手に、友人たちとの時間を楽しむ事にかけては専門家です。ニュージーランド初心者の目で見たワインに関する発見と、ワインとKiwiの人たちの生活について、自己学習のつもりでのコラム投稿を企てています。

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つい最近まで、オークランド大学で研修生生活を送っていました。正直なところ、この歳で研修?と最初は躊躇したのですが、「年齢は障壁でない」という主人の言葉を信じ、「ダメ元」で掛けあうと「来月から来てもよろしい」と言う事になってしまいました。嬉しさと不安を抱えて研修生活を開始。日本では研修プログラムを長年運営する立場にいたので、研修生を扱う事は経験豊富でしたが、自分が研修生となり、知らない組織の中でまるきりの新米と言う立場からのスタートは、最初の数日はかなりの精神的ストレスでした。

インターンの最初の仕事とも言えるテプラや資料を製本する機械の使い方を知らないと判ると、若い同僚が、小さなため息をつきながら操作方法を教えてくれました。一見簡単に見えることが、自分でやると何故か失敗作を多量に作ってしまい、その度に冷や汗(そして、不良品はそっと自分のバックパックへ)。後でその同僚が、「自分の母親ぐらいの人に、作業を指示するのは難しい」とぼやいていました。その言葉で、こんなはずでなかった、と嘆くより、どんな仕事でも経験だから、何でも積極的に、かつ笑顔でしよう、と心を入れ替えました。そのせいか3カ月の研修生活はあっと言う間に終了しました。どうやら、あまり私の失敗が見つからなかったのか、その後、日本人の団体さんが大学に来訪するのを時にお手伝いする機会がありました。

御一行様は、日本政府の機関から派遣された農業、食糧、科学関連の研究・勉強をしている人たちでした。彼らの興味の対象に合わせたプログラム構成となり、必然的に前述の分野の見学、意見交換となりました。私にはオークランド大学が、そしてニュージーランドが国を挙げて、どういう目的で研究開発をしているかを学ぶまたとない良い機会となりました。その訪問先の一つが、理学部化学科のワイン科学専門の部門でした。ワインをカガクする、というと理数系とは仲良くする事が出来なかった私として、訪問先としての魅力をさほど感じられませんでした。しかも学内はドライ(アルコール禁止)と言うのが通常で、飲酒できる場所はスタッフ専用のレストラン、大学主催の特別な催しなど、限られています。

市内のキャンパスから30分ほどの所にある研究施設は、まるで倉庫のように味気ない建物でした。ところが、ボルテージのあまり上がらない私たちの前に出現した担当教授はまだスマートだった頃のケビン・コスナー似の人。同僚の教授たちも、アントニオ・バンデラスやラッセル・クロウを彷彿させる面々で、授業、というよりこれからパブにバイクで駆けつけそうな雰囲気の方々。想像と違うかもしれない、という期待感が高まってきました。

お国柄もあり、ニュージーランドにはワイン専攻を持っている大学、専門学校は数多く存在するようです。この大学の2003年に開設されたワイン・プログラムは科学、化学、微生物学、生物学、経営学などの多くの学問領域にわたり、ブドウ栽培、ワイン造り、ワイン成分の分析技法、ワインの輸出ビジネスに不可欠の知識など、幅広い分野を網羅しています。乳製品、肉類などに続いての大きな輸出製品でもあるワイン分野を支える人材育成には力を入れて当然とも思えます。ワイン造り、ワイン愛飲の習慣が比較的新しいニュージーランドでは、その変化のスピードはかなり速いと言われています。教授曰く、現在約640存在するワイナリーの多くは小規模で、世界市場で戦うためにはニュージーランド特有のワインの造りに力を入れる努力をしなくてはならないのこと。今回は大学の他の研究所を訪れる機会もあり、その際も現存する資源を如何に効率的に、有効利用して、より良い製品を作るという目的意識を持ち、大学が積極的にビジネスに直結する研究をしている姿を目の当たりにしました。ちなみに、この大学は、研究分野での成果をビジネスに結びつけるためのセクション(大学と関連する別会社)を持っており、そこが大学の持つ知的財産、技術・専門知識でのコンサルタント、あるいは製品化する手助けをしています。

先生方は、見かけはどうであれ、しっかりニュージーランドワイン産業の歴史、特色、将来性、大学での研究の概容等を真剣に熱っぽく語って下さいました。これまである程度書籍などでは読んではいた内容ですが、ハンサムな方々に説明されると、不思議と理解度が上がってしまうようです。教室の机の上にワインボトルが3本悩ましげに置かれているのは、ただ見せるだけ、とテイスティングは最初から諦めていました。「今夜は何のワインを飲もうか」と気もそぞろで考えていると、例のケビン・コスナー似の教授が、「では、生徒たちが作ったワインを試して下さい」と言うではありませんか。気のせいか、講義の後半から教室内にいる関係者の数が増えて来ました。

あ、ワインが注がれる!と思った瞬間、殺風景な部屋中が急にロマンチックになったようです。最初は、2010年のマールボロ産のブドウから出来たソーヴィニヨン・ブラン。次は、ワイヘキ島のフ2009年のシャルドネ。両方ともこれまでに飲んだ物で一番美味しいのでは、と思える極上の味です。教授たちは日頃ソムリエの方が言うように、「これは、グレープブルーツとパッションフルーツの香りがあり…」とその香りが次々に鼻孔に入ってくるようで、まるで催眠術にかかっているようでした。3本目は赤に移るはずでしたが、タイムキーパーの私は心を鬼にして、「申し訳ございませんが、次の約束が迫っているので、もうお暇しなくてはなりません」と水を差すと、教授陣から思わずため息が。ひょっとすると、来訪者が来ると彼がキャンパスでワイン試飲を公に出来る口実だったのかも、と思えました。(ちなみに、学生たちの作るこのワイン、”Ingenio(独創力)“は、市販されていないそうです。)

理数科系がからきしだめな私でも、こういう雰囲気で、ワインを勉強して、そして身を呈してワインの人体実験になれるなら、ワイン学を勉強してみようか、と思わず思い始めました。

その夜家に戻ると、主人が「今日何かいいことあったの?」と聞くではないですか?まだ顔にワインのほんわかした気分が残っていたのかも知れません。)

2011年7月掲載
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