NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第125回コラム(Jan/2013)
ニュージーランド人が幸せを感じる時?
Text: 金澤睦実/Mutsumi Kanazawa
金澤睦実

著者紹介

金澤睦実
Mutsumi Kanazawa

子育て、親の介護を卒業し、目下、第2の青春を逆走暴走中。2010年9月に永住目的でNZ在住開始。ワインに関しては100パーセントの消費者です。学生としてナパ在住中は自称「ワイン愛飲学専攻」。ご招待を頂いた時以外は、高級ワインにはとんと縁はないですが、「皆勤賞」をもらえる程のワイン好き。食事とワインを片手に、友人たちとの時間を楽しむ事にかけては専門家です。ニュージーランド初心者の目で見たワインに関する発見と、ワインとKiwiの人たちの生活について、自己学習のつもりでのコラム投稿を企てています。

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2012年末に発表された「生活の質」調査によると、驚くことにオークランドが堂々3位に入り、ウェリントンも15位と健闘しました。この調査はアメリカのコンサルタント会社、マーサー社が毎年行うもので、犯罪件数、政治安定度、経済力などの39の要素から割り出したランキングです。トップ25位のうち20カ国はヨーロッパ諸国が占めるなか東京は44位、神戸48位、そして横浜49位でした。こういうのが発表されると、新聞の第一面でかでかと掲載され、何日も関連記事が出て喜ぶのがニュージーランド人のような気がします。

この調査は国際企業が従業員を派遣する先としての調査なのですが、ニュージーランドでも独自の幸福度調査があり、直近の調査によると、キウィ(ニュージーランド人のこと)が幸せと感じるのは、仕事と人生の均衡がとれた時だそうです。民族・国民により何が理想的なバランスかの定義は難しいですが、少なくともキウィにとっては、出来るだけ長い休みと、出来るだけ短い労働時間、そしてお金の心配がない生活をしたい、ということのよう。これを言い返すと、残業まっぴら、週末は家族や友達と楽しむ生活。その楽しみ方はいろいろあるでしょうが、夏真っ盛りの今では、サイクリング、野外イベント、家族揃ってのピクニックやそして水辺での活動(釣り、BBQ、サーフィンなど)がポピュラーなところ(理想的には、バッチと呼ばれる、簡素な別荘が持てるとなおさらハッピーになります)。

水辺での活動では、何と言ってもボートでしょう。オークランドの別称がシティ・オブ・セールスというのはよく聞きますが(これは私の大好きなsalesではなくてsailsです)人口一人当たりでのボートの所有率が世界一で、オークランドの家庭の3戸に一戸はボート所有者とのこと。どれもこちらでは比較的簡単に出来るアクティヴィティですが、なかなか日本では難しいところですよね。残念ながら、私が参加できるのはどうやら、ワイン・テースティングと買い物ぐらいです。

そんな訳で、地元のファーマーズ・マーケットにはよく行きます。例えば、クメウ、オラティア、そしてもっとローカルな所ではラヌイなどです。ファッショナブルな市内でのマーケットと違い、西オークランドで開催されるものは、地元の人の胃袋へ直接入り込むようなものが販売されています。定番はパン、コーヒー、ピザ、野菜、カップケーキ、チーズ、ベーコン・ハム、そしてアイスクリーム。これだけ並べてみれば、こちらの人の食生活がほぼ見えてくるようです。

ある日「歴史の一ページとなるイベントに行こうよ」といつもは外には出たがらない亭主が提言をしてきました。ちょっと渋っていると「ファーマーズ・マーケットもあるから」と言われ、同行することに。目的地はホブソンビル・ポイント。ここにオークランド市内と直結するフェリーが開通すると聞き、それを見に行くのが亭主の目的だったようです。

ホブソンビルは、ヨーロッパからの移民たちが開拓に入る前は、カウリの森で覆われていた所でした。1929年に空軍の駐留地として開拓されましたが、その後大型飛行機の到来で、短い滑走路しか持たないこの基地は次第に手狭となり、徐々にさびれてきて、2012年には正式に空軍の手を離れました。167ヘクタールの広大な土地に(238のラグビー場がすっぽり入る大きさとのこと)存在した空軍基地跡地は、飛行機格納庫、修理工場やらアンテイークな宿舎などが点在して、なにやら寂しいところでした。しかもほんの数年前まではオークランドまでは高速道路を使っても一時間はかかり、回りにはこれといって観光施設もショッピングセンターもなく、私が住むヘンダーソンと比べても、眠気を誘うようなところでした。

2月4日のオープニングには対岸のビーチ・ヘーブンからVIPとメディアを載せたフェリー第一号が予定時間を大幅に遅れて到着しました。マオリのしきたりにのっとった歓迎式典が桟橋で執り行われました(ただし、回りにはLサイズの人ばかりいたので、私には歌声しか聞こえませんでした)。どうせ見えないのだからと、イベントの警備担当のハンサムな警官の坊やたちを盗み撮り。何故かこういう目立つところに出現するボーイズたちは見栄えいい人が多いようです。どこにでも顔を出す、レン・ブラウン オークランド市長が登場するとは想像していましたが、ジョン・キー首相も顔を出していました。一国の総理とはいえ、人口で比較すると日本では地方都市の知事ぐらいのボスです。こういうこと私が言うと、うちの旦那はまた嫌な顔をします。(一応このお二人の写真が、大男たちの間から奇跡的に写せたので載せます。別にいい男だから写したわけではないです)。式典は見てもつまらないので、早速ファーマーズ・マーケットへ移動しました。

マーケットに向けて歩いている人たちを見てみると、ほぼ例外なく日本だと少なくてもXLサイズの人達(逆に13歳以下の子供たちは手足が長くひょろひょろしています)。気をつけないと、このサイズになってしまう、と自分をいさめながら会場の元格納庫に入ります。ホブソンビル・ポイントのマーケットは、シェフのお料理教室、ライブ演奏、そしてヘルシーな食物もふんだんにあり、あっという間に買い物袋が一杯になってしまいました。特にお勧めなのは粒粒が沢山入ったイチゴとラズベリーのアイスクリームです。ちゃんと座ってお食事をなさりたい方には、すぐ隣のカタリナ・カフェがあります。ペット同伴も可能で、天気のいい日は外の席で道行く人を見ながら、のんびりブランチを楽しむ家族が多く見られます。

オークランドではいたるところでこのような土地開発が行なわれています。これは2040年完成を目標にする「オークランド・プラン」という経済振興、住宅供給、生活空間の開発、教育・交通機関の充実などを重点策とするオークランド市の都市計画です。その中の目玉は、今後の人口増加を見越して「手ごろな値段($30-40万ドル)」の住宅をこれからの30年間で40万戸供給すべく、これまで未開拓だった郊外、水辺地域の土地の開発などが含まれています。開発計画に含まれたのは前述の空軍基地跡地などの数箇所。この都市計画にはキウィが生活と仕事のバランスを考慮した施設がふんだんに盛り込まれているのがよくわかります。例えば、ホブソンビル・ポイントには新興住宅地、教育施設、サイクリング・ルート、散歩に適する遊歩道、多数の公園、ファーマーズ・マーケット、住人専用のボート発着用タラップなどが次々と建設され、これからも老人ホームや学校の建設が計画されています。さらに今回のフェリー就航で、最短20分で市内に行ける様になりました。

ホブソンビル・ポイントはサンフランシスコのサウサリートを彷彿させるデボンポートのような街を目標にしているとか。不思議なのですが、デボンポートには主だったワイナリーがないのに、毎年ワイン、ジャズ、食べ物のフェスティバル、マラソンなどが開催されます。ワイヘキ島も1990年にフェリーの定期便が就航され、オークランド市内まで約30分で行ける様になり、有名なワイン・フェスティバルも開催されるようになりました。私の予想では、このホブソンビル・ポイントもワイン・カントリーのクメウからもさほど遠くないため、格好のワイン・フェスティバルの地になるでしょう。

最後に以前このコラムでも紹介した地元のお気に入りワイン・メーカーのコラソン・ワインズその歴史を閉じることをご報告します。オーナーのシェインからの「丁度、土地のリースが切れるので、この機会にコラソン・ワインズ休業します。つきましてはワインとピザのお別れ会をするからおいで」とご招待がありました。長年ワイン造りに従事していたのに、ヘンダーソンに新しいワイナリーを建設したのが2010年。これまでも世界各地でワイン造りをしていたシェインの突然休業宣言には何か訳があったのかもしれません。当日は湧き出るように出されるスパークリングワインと釜焼きピザという組み合わせで、夏の夕方を楽しみました。スピーチもなく、参加者の中で一番がんがんに飲んで、主に女性のお客様と話を楽しんでいたシェイン。その場にいた彼の高校の時の同級生に「どうして、彼はワイン造り辞めるの?これからどうするの?」と聞いてみましたが「彼自身が言わない限り、僕は聞かない」とのお答え。それがキウィの男の友情なのかもしれませんが、疑問が残りました。きっとシェインは仕事と生活のバランスを求めて今回の決心をしたのかもしれません。これも私の予想ですが、あれだけワイン造りにパッションをかけていた男なので、またワイン造りをどこかで始めることでしょう。

2013年2月掲載
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