NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第151回コラム(Feb/2015)
ニュージーランドの大学でのワイン造り
Text: 小倉絵美/Emi Ogura
小倉絵美

著者紹介

小倉絵美
Emi Ogura

大学卒業後に就職した会社がワインのインポーターだったという偶然からワインが大好きに。以降ワインの世界にどっぷりとはまること十数年。ワーホリで行ったカナダのワイナリーで1年間働いた際にワイン造りに興味を覚える。ニュージーランドワインは以前から大好きでワイナリー巡りを目的に過去に3度来たこともあり、2014年にリンカーン大学でブドウ栽培・ワイン醸造学を修める。2015年の2月からクライストチャーチ郊外にあるワイナリーでセラー・ハンドとして勤務。趣味はワインを飲むことと美味しいものを食べること。そして旅行。

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ニュージーランドワインファンの皆様、はじめまして。今回初めてコラムを書かせて頂くことになりました。昨年2月からクライストチャーチにあるリンカーン大学で葡萄栽培とワイン醸造を勉強し、11月に無事に卒業、今年の2月から同じくクライストチャーチ郊外にあるワイナリーで働いています。初回の今回はそのリンカーン大学でのワイン造りについてお伝えしたいと思います!

私の取った準修士課程(Graduate Diploma)の必須科目の中に「ワイン科学の基礎」「栽培学1」という授業があるのですが、大学内にある葡萄畑の1列が学生2人に配分されて、栽培から醸造まで全てを任されるのです。楽しそう!と思う方が多いかと思うのですが(確かに楽しいのですが)、色んな課程で評価されるので内心ドキドキでした。

どの品種が与えられるかは運次第。リースリング好きな私は「リースリング、リースリング……」と思っていましたが、私ともう1人のクラスメートが与えられたのがピノ・ノワール。ご存じのとおりピノ・ノワールは黒葡萄。となるとワイン造りの工程がさらに複雑……ピノ・ノワールも好きな品種なので嬉しいような、この先のことを考えると悲しいような。

まずは自分がどんなスタイルのワインを造りたいか調査。異なった産地のピノ・ノワールを何本も飲んで、こんな感じ!と言うのを決めてどうやったらそのスタイルに近づけることが出来るか先生と相談し進めて行きます。同時に葡萄畑にも出て葡萄たちが理想の糖度になるように葡萄の周りの葉を取ったり、1本の木の房の数を減らしたり。糖度が上がるには太陽の光が重要。上の写真だと葉っぱが多すぎるので日光が葡萄の房に届かないので綺麗に除葉します。2014年は2月までは葡萄にとって最高の気候だったのですが3月からの大雨と低い気温が続き、病害(灰色カビ)が大量発生した難しい年になりました。4月半ばの収穫時には理想の糖度には到底届かず、さらにカビのついた粒を落としながら収穫すると半分くらいの量!!!

収穫した葡萄は赤ワインにするには少し糖度が低かったので一部分をロゼにすることに。

ロゼワインは圧搾してしまえば後は白ワインと同じ造り方なので、赤ワインと白ワイン、両方の造り方を経験できるという意味ではラッキーでした。ロゼは何通りか造り方があるのですが、数時間ほど丸ごと放置して程よく出たところで圧搾しました。

この時点のジュースはフルーティーで美味しい!ロゼにはロゼ用の酵母を注入。毎日残糖度、酸度を測って発酵度合をチェック。ここで実験。ロゼワインを絞った時に出た皮を赤ワインに混ぜてみることに。これを実験した大きな理由は天候が悪く十分なタンニンが抽出できるか分からなかったので余分に入れることで理想とするタンニンが得られるかも、と言うことでした。

どこまで発酵させるか、どの程度残糖分を残すか、それは好みのスタイル次第なのですが、ロゼは少し甘みを残して酸味とのバランスと取ることに。発酵途中はポコポコと炭酸ガスが出てくるのでロゼのスパークリングワインみたいで既に美味。

今!という時に発酵を止めないとどんどん発酵が進み超ドライなスタイルになります。皆さん、そこで質問です。発酵はどうやって止めると思いますか?勝手に止まる・・・そう言う場合もあります。答えは、簡単に言うと糖分が無くなって酵母が餓死してしまう場合やアルコールが上がりすぎて酵母が溺死・・・それ以外の場合は温度を下げてSO2を添加します(温度を下げるだけの場合も)。ロゼは1リットルあたり16gの糖分の時に発酵をストップ。16グラムだと半辛口、と言う程度でしょうか。でも酸もしっかりあったので良いバランスに満足。

一方の赤ワインは……苦戦しました。赤ワインは色と渋味を出すためにロゼの皮を投入してから1週間ほど漬け込んでから酵母を注入して発酵度合をチェック。

そしてさらに漬け込むことそこから約10日後に圧搾。圧力を掛けずに出てくるピュアなジュースをフリー・ラン・ジュース、その後に圧力を掛けて出てくるジュースをプレス・ジュースと呼びます。プレス・ジュースは渋味のもと、タンニンをより多く含みます。これらを別々に保存。この時点でもまだ発酵はゆっくり進んでいます。最終的に赤ワインは残糖分が殆ど無くなってから発酵をストップさせます。その時点でのワインは何度も言うように天候が悪かったので(あくまでも天候の所為にする(笑))、もともとの果実味の凝縮度が低かったので酸っぱいし、ロゼの絞った皮を入れたので苦いし……はい、良かれと思ってやった実験が裏目に出てしまったのです。と言うことで少しでもその酸味と苦味を取るように色々と試しました。その過程は少し複雑なので端折らせて頂きますが、最終的には何とか飲める状態までこぎ着け、熟成の工程。本来ならオーク樽に入れて熟成させたいところですが、そこは大学。オーク樽は高額なので代わりにオークチップを入れて熟成。そして最後に別々に熟成させていたフリー・ラン・ジュースとプレス・ジュースを好みの比率でブレンドして完成!

ワインのラベルも名前も自分たちで決めないといけなかったので悩みに悩んだのですが、ロゼは「2人の子ブタが造ったピンクのワイン」と言う意味をこめて「Pink Piggy」に。味わいとしては期待通り少し濃い目のサーモン・ピンクに少し甘みのあるアセロラやサクランボのような果実味。シャープな酸、と言うよりはじっくりと口の中に広がる豊かな酸があって甘みとのバランスが抜群!まさかここまで上手く(手前味噌ですが……)できるとは思ってもいませんでした。

ボトリング(瓶詰め)したのが9月なので、ワイン造りを始めて半年。試行錯誤、失敗しながら何とか自分たちの子供が育ってくれてホッと胸をなでおろすことが出来ました。そして今のワイナリーの仕事にも繋がる、とっても良い勉強にもなりました。

2015年3月掲載
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