NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第155回コラム(Jun/2015)
2015ヴィンテージ
Text: 小倉絵美/Emi Ogura
小倉絵美

著者紹介

小倉絵美
Emi Ogura

大学卒業後に就職した会社がワインのインポーターだったという偶然からワインが大好きに。以降ワインの世界にどっぷりとはまること十数年。ワーホリで行ったカナダのワイナリーで1年間働いた際にワイン造りに興味を覚える。ニュージーランドワインは以前から大好きでワイナリー巡りを目的に過去に3度来たこともあり、2014年にリンカーン大学でブドウ栽培・ワイン醸造学を修める。2015年の2月からクライストチャーチ郊外にあるワイナリーでセラー・ハンドとして勤務。趣味はワインを飲むことと美味しいものを食べること。そして旅行。

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2015年もあと残すところ半分。フランスやカリフォルニアなど北半球に位置するワイン産地はこれからブドウが急成長して9月頃には収穫開始!ということになりますが、ここニュージーランドは南半球に位置するので季節が逆、収穫(ヴィンテージ)も早いところでは3月に始まります。もちろん北が一番暖かい産地なのでノースランドから。南半島に位置するクライストチャーチ近郊は毎年4月初めから中ごろにかけて始まり、ワイナリーの規模にもよりますが、数週間かけて収穫します。この時期がワイナリーにとって一年で一番忙しい時期。収穫、圧搾、発酵、発酵チェック、タンクや樽への移動…などなど、ワイナリーで働いている人たちは1カ月半から2カ月ほど殆ど休みもなく、1日に12時間から14時間くらい働くことになるのです……

ちなみに、2014年はここクライストチャーチ近郊とワイパラは3月から4月にかけて大雨が降ったため、最悪なヴィンテージに。ワインメーカーの実力が試された年だと言われています。最大産地のマールボロでも4月に雨が降ったのですが、収穫の早いマールボロでは被害はそれ程でも無かったようです。2015年はワイパラ地方では春に霜がおりたため、収穫量は20%程の減少、マーティンボローも初夏にあった強風のため同じくらい収穫量が減っているそうですが、ここクライストチャーチ(カンタベリー)は春の霜の被害も無く、今年は良い年になる!と予測していました。

また、私が働いていたワイナリーでは、ヴィンヤード・クルーが収穫の直前まで除葉して日照量を増やして糖度を上げる努力をしてくれていたのと、初めてピノ・ノワールを手摘みすることにしたので、かなり品質の向上が期待出来るはず!と皆なで収穫のタイミングを待っていました。ところがもう少し糖度が欲しいな~と思っていたところに雨……そう、天候だけは人間ではどうにもできないこと。収穫のタイミングを見極めるのが難しいところで、雨が降ってしまうとブドウの実が水分を吸ってしまって糖度が下がってしまうのと、灰色カビ病などの病害が広がってしまう恐れがあるのです。ただ、早く収穫しすぎると糖度が足りないということに。1度目の雨はやり過ごしたのですが2度目が来るかも、と言う前に収穫が開始しました!

白ワイン用のブドウ(シャルドネ、リースリング、ピノ・グリ、エーレンフェルザー)は上のような機械でブドウの木を揺らしながら実だけを収穫していきます。収穫も朝から初めて夜の8時や9時までかかります。その後も収穫したブドウをそのまま放置できないので(どんどん酸化していくため)、直ぐに絞って発酵タンクに移します。それが終わって一日が終了、なのですが終わることには10時や11時……ワイナリーから車で30分の所に住んでいる私は毎日ヘトヘト。でも収穫したブドウを見ると、これがどんなワインになるんだろう、とか今年は美味しいワインになるだろうか、とワクワクします。

そしてようやくピノ・ノワールの収穫!ヴィンヤード・クルーのお陰でブドウは健康そう。そして糖度も理想には届かなかったとは言え、十分なレベルに。収穫はワイナリー内で働いている私たちも協力し、約2.5トンを収穫しました。出来るだけ灰色カビ病のついている部分は除去して、未熟なブドウも捨てて……それにしても樹齢が古く(30年ほど)、木が低いので、皆なの問題は腰痛(笑)

赤ワイン用のブドウはそこからが長い工程に入ります。色やタンニンを出すために酵母を投入する前に10日程、冷暗所で保管し、そのあと酵母投入。投入後も酵母のための酸素供給と色とタンニンを引き出すために1日に数回棒でかき混ぜます。

これも毎日やっていると筋肉痛に(笑)そして糖分が殆どなくなったころに圧搾して樽に移動、ここで数か月ほどじっくりと寝かせることになります。樽に移しても1カ月に1度ほど蒸発した分を補充したり、白ワインも澱を取り除くために上澄みだけを他のタンクに移し替えたり、と忙しい日々は続きました。

日本にいた時はワインを造るのがこんなに大変で色々な工程を経て私たち消費者のもとに届いているなんて考えもしなかったことですが、ニュージーランドに来てワイン造りを実際に経験して、どんなワインでも色んな人の努力があって造られているんだな、と実感しました。そして、何が働いている人を動かしているのか、と言うと、やはり「美味しいワインを造りたい」と言う想いなんじゃないでしょうか。

そしてワイナリーのネコちゃん(名前はグリ)は、そんな忙しい私たちを横目で見ているだけなのでした……。

2015年7月掲載
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