NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
ニュージーランドワイン第3のワイン産地、ギズボーン
第164回コラム(Mar/2016)
ニュージーランドワイン第3のワイン産地、ギズボーン
Text: 細田裕二/Yuji Hosoda
細田裕二

著者紹介

細田裕二
Yuji Hosoda

JSA認定“ソムリエ”、SSI認定“国際唎酒師”。2014年から4年間オークランドに居住。シェフとして働くかたわら、北から南まで数々のワイナリーを訪れ、ニュージーランドワインに存分に浸る。帰国後は東京にて複数店舗を展開する飲食企業に勤務。和食とワインのお店を切り盛りするかたわら、社内のワイン講師やワイン関連のプロモーションを任される。 ヨーロッパからの自社輸入ワインのみを扱うお店にて、お客様にニュージーランドワインの魅力をささやく毎日である。

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日本は桜も終わり、これから夏に向かっていく楽しい時期ですね。南半球のこちらニュージーランドは正反対、だいぶ寒くなり、これから暗くジメジメした冬に向かっていきます。そう、こちらは冬に湿度が高いのです。なので洗濯物も乾きにくいし、カビも生えやすい。私の住むオークランドは氷点下になることは無いのですが、なにかひんやりうすら寒い感じになります。逆にニュージーランドの夏は基本的にドライなはずなのですが、今年は日本ほどではないにしても、比較的蒸し暑い夏でした。

それを象徴するかのような悪天候のニューイヤー・ホリデーに、ワインの銘醸地であるGisborne(ギズボーン)へ行ってまいりました。

地図で見るとニュージーランド北島の真ん中あたり、一番右側に出っ張っているところ。オークランドからは約500km、車で7時間弱くらいでしたが、変化に富んだニュージーランドの景色と交通量が少なく走りやすい道路のおかげであまり遠さは感じませんでした。

到着翌朝、ホテルの近くでモーニング・マーケットがあるというので出かけて行きました。

着いてみるとすでにたくさんの人で大賑わい、地元の野菜や商品を売るストール (屋台) が所狭しと並んでいます。オークランドのように大都市ではないので比較的こじんまりしたものでしたが、大きく違う点としてアジア人が少ないというかほぼいないということ、それともう一つ、“ワインを売っている”のです。

オークランドでも毎週いたるところでモーニング・マーケットやナイト・マーケットが催されていますが、どういうわけかワインを売るストールを見かけることはありません。オークランドのワイン産地で有名なマタカナのモーニング・マーケットでは売っていましたが、グレープじゃないフルーツのワインでした。

売っているワインはもちろんギズボーン産、地元のワイナリーが直接売りに来ているのです。この日は3軒のワイナリーが来ていました。どこも気軽に試飲を勧めてきます。

その中のひとつがHihi Wines(ヒヒ・ワインズ)。オーナー・ワインメイカーのアンディ・ニモさんが直接ストールを出して売りに来ています。聞けば「ウチは小さいワイナリーでセラー・ドアーを持っていないから毎週土曜ここに来て売っている。ここがウチのセラー・ドアーだよ。」とのこと。名前からマントヒヒを連想してしまいましたが、由来を聞くとHihiとはワインのラベルにも描かれている小さな鳥の名前だそうです。

ストールには彼のほとんどの製品が並べられています。赤・白・ロゼからポート・スタイルの甘口まで色々あります。全て自家栽培のブドウは品種もバラエティに富んでいて、変わったところではテンプラニーリョ、アルバリーニョ、アルネイスなど。ピノ・グリもイタリアのクローン使用でリリース名も“ピノ・グリージョ”となっています。ストール販売での価格は、ほぼ全て15ドルと良心的。後日ウェブサイトなどで確認してみましたが、自身のサイトでのウェブ・リテールなどは実施しておらず、販売店舗もギズボーン周辺のリカーショップのみ。要は地元に行かない限り手に入りにくいということですね。こういうワイナリーってニュージーランドにはまだまだたくさんあるのでしょうね。

さていよいよワイナリーへ。お目当てでもあったMilton Vinyards & Winery(ミルトン・ヴィンヤーズ&ワイナリー:以下ミルトン)を訪問。こちらは設立当初よりオーガニックおよびビオディナミを実践してきたニュージーランドにおけるその道のパイオニア。創業者のジェームス・ミルトン氏は、フランス・サヴニエールの有名なビオディナミ生産者、ニコラ・ジョリー氏をリスペクトしていて、同じシュナン・ブランからつくられる辛口の白は、私も好きな二コラのクレ・ド・セランを意識しているそうです。

非常に印象が良かったのはピノ・ノワール。繊細でエレガント、深い余韻。ギズボーンでも美味しいピノ・ノワールが育つということを証明しているようです。

余談ですがこちらで試飲して家族に買わされた、マスカットからつくられるブドウジュース、一本14ドル也。もちろんビオディナミだそうです。なんて贅沢な…。

次はオークランドのリカーショップでみかけた“Heart of Gold”というワインのラベルが印象的だったSpade Oak vineyard(スペード・オーク・ヴィンヤード)へ。約束の時間についてみると、小さな醸造設備の脇にこれまた小さいほったて小屋。セラー・ドアーはどこかいなとキョロキョロしていると、向かいの一軒家からのっしのっしとゴツいおっさんが出てきました。こちらがオーナー&ワイングロワーのスティーブ・ヴォイシーさん。挨拶もそこそこに、例のほったて小屋に招き入れられました。そう、この小屋が彼のセラー・ドアー。クールなイケメンセラースタッフがお相手してくれた、前出のミルトンとはずいぶんと趣が違います。ブドウ栽培、ワイン造りにおいても全く正反対。彼はオーガニックやビオディナミなどには全然興味がないと言います。地元の生産者の名手でもあるミルトン氏のことは尊敬しているが、自分がそれをやるつもりは無い。良いワインを作っていたのに、オーガニックに転換してから質を落としたワイナリーもたくさん見ているとのこと。これはこれでひとつの信念として素晴らしいのではないかと思います。

こちらでも色々な品種を試しています。ニュージーランドはソーヴィニヨン・ブランだけじゃないですよ~。テンプラニーリョ、アルバリーニョなど前出のスペイン系品種に加え、サン・ローラン、プティ・マンサンなんていうのも使っています。プティ・マンサンからつくられる甘口の白は、好ましい酸味を備えていてなかなかのものでした。そしてこれから栽培を試してみたいのはイタリアの泡で有名なプロセッコだそうです。ホップも育て始めているので、ゆくゆくはビールもつくりたいと言っていました。

ある意味趣のあるセラー・ドアーでゆっくりと試飲をしながら、その風貌とは対照的に人懐こくにこやかに色々お話してくれたスティーブ氏、ワインのラベルやワイナリー、そして彼のつくるワインの味に、決して気取らない彼の人柄が現れているようです。

今回訪れたギズボーンには大小20近くのワイナリーがあります。行ってみたいけど時間が無いという方には飛行機が良いでしょう。オークランドからちょうど1時間くらいで着きます。

街の中心にはGisborne Wine Centreというギズボーン産のワインを集めた施設があり、食事やテイスティングなども出来ます。ワイナリー・ツアーもそこでアレンジできる様です。 文中ご紹介したモーニング・マーケットは毎週土曜日開催です。

個人でワイナリーを訪れる方は、事前に必ず電話やインターネットで営業の確認やアポイントメントを取ってからが良いでしょう。大きいワイン生産エリアや、以前ご紹介したワイヘキ島などそこが観光地でもある場合、今回のような年末年始や祝日でも一般客の受け入れを行っていますが、時期やワイナリーの規模によってはクローズしている場合があります。

世界で一番早く朝日が見られるとも言われるギズボーン、ぜひ皆さんも訪れてみてくださいね。

2016年4月掲載
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