NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
ニュージーランドワインの故郷、ノースランド地方
第174回コラム(Jan/2017)
ニュージーランドワインの故郷、ノースランド地方
Text: 細田裕二/Yuji Hosoda
細田裕二

著者紹介

細田裕二
Yuji Hosoda

JSA認定“ソムリエ”、SSI認定“国際唎酒師”。2014年から4年間オークランドに居住。シェフとして働くかたわら、北から南まで数々のワイナリーを訪れ、ニュージーランドワインに存分に浸る。帰国後は東京にて複数店舗を展開する飲食企業に勤務。和食とワインのお店を切り盛りするかたわら、社内のワイン講師やワイン関連のプロモーションを任される。 ヨーロッパからの自社輸入ワインのみを扱うお店にて、お客様にニュージーランドワインの魅力をささやく毎日である。

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こちらニュージーランドはただいま夏真っ盛り。冬本番で寒い日本を尻目に、ニュージーランドのどこまでも続く夏の青い空を楽しむため、ノースランド地方をあちらこちらドライブしてきました。

観光スポットとしては、世界的に有名な建築家フンデルトヴァッサーがデザインした公衆トイレがある小さな田舎町“カワカワ”、リゾート色が濃く様々なマリンアクティビティが楽しめる“ベイ・オブ・アイランズ地方”、入植者イギリスと先住民マオリとの間で結ばれた条約の舞台となった“ワイタンギ”、ニュージーランド最初の首都となった“ラッセル”、世界でも最大級の杉の仲間、カウリが育つ“ワイポウア・フォレスト”、さらに北上しファー・ノースと呼ばれるニュージーランドの角のような北端の細長い部分に100kmほど延々と続く“90マイルビーチ”、そして最北端のレインガ岬と見どころはたくさん。途中の広大な砂丘では、ボードを使って砂滑りも楽しめます。青い空と白い雲、そして砂丘がつくりだすコントラストの雄大な景色は圧巻です。

そしてもちろんワインもあります。国内ほぼ全域にワイナリーがあるニュージーランド、ワイン生産地域としてのノースランド地方は他の地域ほどメジャーではありませんが、それでも20軒近くのワイナリーが存在します。南半球にあるニュージーランドでは、北にあるこの地域はいちばん温暖な生産地域になります。植えられているブドウ品種は温暖な気候に向くシラーや、比較的様々な気候にあうシャルドネを中心に、ニュージーランドで人気の高まっているピノ・グリ、豊かな白を産みだすヴィオニエ、赤のピノ・タージュやシャンブルサンなど。高めの平均気温によりアルコール・ヴォリュームのあるトロピカリーな白やスパイシーな赤を産出します。日中は陽が照ればかなり暑さを感じますが、空気も乾いているので朝晩にはだいぶ気温が下がります。実際、私の訪れた時も冷え込むという言葉が使えるくらい、朝にかなり寒さを感じました。この一日の寒暖の差は、果実の生育には無くてはならないものですね。

そして実はここノースランド、ニュージーランドで最も古いワイン生産地域なんです。ニュージーランドのブドウ栽培とワイン造りはここから始まりました。

1819年、オーストラリアのシドニーから派遣された神父、サミュエル・マースデンがベイ・オブ・アイランズ地方にあるケリケリ(Kerikeri)という街に、オーストラリアから携えてきた100種余りのブドウの苗を植えたのが最初とされています。そのマースデンに続き、同じくシドニーから監督官として渡ってきたジェームス・バズビーが、フランスやスペイン原産のブドウ品種を前出のワイタンギに植え付け、そのブドウでワイン造りをしました。ジェームズ・バズビーと言えば「オーストラリアのワイン用ブドウ栽培の父」と言われ、1825年ニュー・サウスウェールズ州ハンター・ヴァレーにオーストラリアで最初の本格的なヴィンヤードを開いたその人。ニュージーランドに渡ってきたのが1833年と言われていますから、オーストラリアでワイン造りの礎を築いた直後、新天地に向かったということでしょうか。興味深いですね。

さらにその後1800年代後半、カウリ・ガム(カウリの琥珀)採掘の為に渡ってきたクロアチア人が、ヨーロッパの伝統的なワイン造りをもたらしました。これらが現在のニュージーランド・ワイン産業の礎になっています。ノースランドはニュージーランド・ワインの故郷とも言えるわけですね。現在でもケリケリ周辺はノースランドで一番ワイナリーが集まっている地域です。

そのケリケリの街に立ち寄り中心部の方に向かっていく途中にファーマーズ・マーケットを見つけたので寄ってみました。毎週土曜の午前中に開催されていて、付近の農産物や工芸品などを売っているようです。ワイナリーも数軒出展していて、グラスやボトルでワインを売っていました。私は可愛いエチケットにつられてタライレ・ブロック(Taraire Block)ワイナリーの出店でいろいろ試飲させてもらい、こちらのエチケットのように可愛い香りのピノ・グリを購入しました。面白いことにこちらのワイナリーでは、みなさんご存じのボージョレー・ヌーヴォーと同じマセラシオン・カルボニックという醸造方法で造られた、気軽に飲める軽い赤ワインも造っていました。使用ブドウはセイベルとのことですが、みなさんご存知ですかこの品種。実は私たちの国、日本のワイン産業においては一般的な品種で、多くのワイナリーが使っています。日本のスーパーのワイン売り場などでも見かけることがあるのではないでしょうか。やっかいなのはこの「セイベル」という品種名、セイベルという人が作ったたくさんの掛け合わせ品種の総称で、通常うしろに4~5桁の番号が併記され、それによって種類が違います。日本でよく見かけるのは白のような気もしますが、こちらのワイナリーでは赤のセイベルを使っていることになります。

翌日はマーズデン・エステート(Marsden Estate)ワイナリーへ。ケリケリの街の中心部からほんの数分クルマを走らせたところにあります。入口にはパーム・ツリーが立ち並び、南国的な趣。もちろんニュージーランドから見ると暖かいのは南ではありませんが。

こちらは名前からもわかる通り、この地に最初のブドウを持ち込んだサミュエル・マースデンの名前をワイナリー名にしています。入ってすぐの白く大きい母屋にはワインセラーやセラードアー、醸造設備とともに、地元の食材を使った料理をふるまうレストランも併設され、ブドウの樹が日よけ代わりに生い茂る、趣のあるテラス席からは敷地内の池やブドウ畑が一望できます。

ワインに使うブドウは、ノースランド産のソーヴィニヨン・ブラン以外はほぼ全てここの畑で育てているそうです。セラードアーでの試飲は有料ですが、ワインを購入すると試飲代はチャージされません。メルローからつくるドライのロゼと、綺麗な酸をそなえた遅摘みの甘口白が好印象。スペインを代表する品種、テンプラニーリョから造る赤もありました。面白いのはスクリューキャップ全盛のニュージーランドにあって、ほとんどの赤ワインはコルク栓を使用。熟成を促すためということです。

もう一軒、すぐ近くにあるアケ・アケ・ヴィンヤード(Ake Ake vinyard)にもお邪魔してきました。ブドウ樹が生い茂る入り口から砂利道を進んでいくと、こちらはモダンで小さな母屋。レストランも併設されています。ブドウ畑にはいたるところに案内板が立てられ、“ヴィンヤード・トレイル”と銘打って畑の中を散策できるようになっています。こちらの自社畑はオーガニック、その畑から造られるピノ・グリからは通常のスタイルのピノ・グリと、イタリアン・スタイルに仕立てたというピノ・グリージョ、2種類のワインが造られます。ピノ・グリージョの方は通常のモノにくらべてよりドライな印象でした。そしてやはりオーガニック栽培のシャンブルサンという品種から造られる赤ワインはこちらの一押し。シャンブルサンはフランス原産の交配品種、濃い色調の芳香性にとんだワインを造りだします。メルローに似た感じの味わいで、気さくにお話をしてくれるオーナー兼ワインメイカー、ジョンさんの人柄がにじみ出るような柔らかく、親しみやすいワインでした。

2017年2月掲載
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