NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
スキン・コンタクト・ワイン テイスティングの夕べ
第189回コラム(Apr/2018)
スキン・コンタクト・ワイン テイスティングの夕べ
Text: 和田咲子/Sakiko Wada
和田咲子

著者紹介

和田咲子
Sakiko Wada

日本に住んでいた頃からヨーロッパワインは飲んでいたものの、1994年の渡航以来、先ずはニュージーランドワインの安くて美味しい事に魅せられ、その後再度オールドワールドやニューワールドワインに拡大してワインをappreciateしている。ただ消費するだけに終わらない様に必死にwine drinking culture の質を高めようと努力する毎日である。

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今、食の世界ではスーパーヘルシーに向かって食材や調理方法が変化してきていますよね。

もう10年は昔に成りますが、このオークランドのあるトップ・ファイン・ダイニング・レストランで挨拶に出て来てくれたシェフとお話をする機会が持てた時にこんな事を聞いてみました。そのシェフはヨーロッパの三ツ星レストラン等でも修業を積んでいるとの事でしたので

『So, what are the majour requests for food you got from the main clients of those top restaurant? (そういうトップエンドのレストランでの常連客からの食べ物に関する主な注文はどんなものでしたか?)』

と質問を投げかけると、一言、

『Super healthy!(すっごくヘルシーにする事だね!)』

との答えが返ってきました。なるほどなあ、私もフレッシュで良い食材を使い、時にはWow factor(ビックリするようなもの)もある様な凝ったお料理を楽しく食べたいけれど、あまり脂肪分が多すぎたり味付けの濃すぎるものは歓迎できない。皆同じことを考えているのだなあ、と感じました。

世界のトレンドが『これが今流行っています。』等と記事になったりニュースで紹介されているのを見て、時々『あ!私が考えている事と同じだわ!もしかして私ってトレンドの先端を行っているのかしら。』と嬉しくなった事が何回かあります。その度に『流行りは人が作るものだけど、その時代の流れに依って必然的に生み出されてきている要素が大きいなあ。だから、より沢山の人のニーズに合致して多くの人に受け入れられて流行っていくわけでもあり、その事を知らなかった人が流行っていると聞いても、そこには既に土壌が生まれているからこそ、皆が受け入れやすくて更に広まるのだろうなあ。鶏か卵かどちらが先か、はたまた相乗効果もありで面白いなあ……。』等とつらつら考えたものです。

今の世の中は飽食の時代だと私が子供のころから既に言われており、10代の頃には既にフランス料理も今はヌーベルキュイジーヌの時代だと聞き、今ここニュージーランドに於いても他の国同様、肥満率の高まりと健康的な食生活や運動の必要性が、ほぼ毎日どこかのメディアで話題になっています。

健康維持の為には必要な栄養素を身体に取り入れて気持ちを明るく持つことも大事ですが、身体に入れてはいけないものもよく知って“出来るだけ”それを避ける食生活や生活全般を試みる事も大事です。

添加物や人体では処理できない化学物質が癌やその他の病気を増加させてきている様ですので、そう言ったものを避けた食生活に貢献する流れが色々と起こって来ていますよね。

ワインの世界でも同じことが起こっています。

ビオデナミ、ナチュラルワイン、オレンジワイン、アンバーワインなどと言う呼び方を聞かれた事があるでしょう。ニュージーランドでも多くのワイナリーがブドウをオーガニック栽培方法へ変換したり、またはそれを目指して努力していますが、今回のワイン・テイスティングはテーマを“Skin Contact White/Orange/Natural/Biodynamic & Lo-Fi Wines”としてシリアスに行いました。

実はこのコラムのテーマを最初は“Skin Contact Wine”としていたのですが、テーマの幅を広げた理由は、そもそも白ワインブドウ品種のブドウがスキンコンタクトの手法で作られるとその多くがオレンジ色や琥珀色(amber colour)のワインになり、その様なコンセプトでワイン作りを手掛ける作り手は出来るだけ自然にオーガニック手法で作っている事も多いので、オーバーラップする部分がかなりあるからです。

オーガニックやバイオダイナミックス農法(で作られると日本ではビオワイン。仏語ではビオディナミ)の定義も若干異なり国によっても差があります。ナチュラルワインにはまだほぼすべての国で規定は設けられていませんが、オーガニックワインと呼ぶにはその国が認定した機関で定められた基準を満たしていないといけない事が多いです。

おおざっぱな定義としては『ナチュラルワインは化学的な肥料や除草剤、殺虫剤や防カビ殺菌剤を使わず、自然に葡萄についている酵母を使い、オーク材チップや液状樹木抽出タンニンを入れずに発酵させ、時には卵白などの清澄剤も使わず、亜硫酸などの添加物も入れないワイン』であるのに対して、『オーガニックワインはその国で定められた有機農法(合成化学肥料や除草剤、殺虫剤や防カビ殺菌剤、さらには成長促進剤や遺伝子組み換えを行わない農法)で育てられたブドウを使って作るワイン』と原料のブドウにフォーカスされています。

ニュージーランドでもオーガニック農法のブドウや農家であることを認定(certify)する事が許されている認可機関が4つ(BioGro, AsureQuality, Demeter/The Bio Dynamic Farming and Gardening Association それにOrganic Farm New Zealand)あります。そしてバイオダイナミックス農場の認定も有機農家(オーガニック・グロワー)の認定も、3年間は完全なオーガニック方式で農場を運営していなければ認定されず、その後も毎年、国際規格に合っているかどうかの検査が行われます。世界的にも増加の道をたどっていますが既にニュージーランドでは10%のワイナリーが完全なオーガニック・ワイナリーとして認定されています。

さて、今回のテイスティングに話を戻しましょう。このグループにはワイン業界に携わっているメンバーも多く、毎月のテーマに添ったワインを皆で持ち寄って各自の家を持ち回りで行っています。会場を提供するメンバーがフードも担当し、その月のワインのテーマに合う matching food を用意します。ニュージーランドらしく、フードに対しては一人15ドル(1200円程度)を出し合います。男性のメンバーの方が若干多いのですが、皆とってもお料理が上手でリサーチもしっかりとしてあり、いわゆるワインと料理のマリアージュが抜群の状態で毎回楽しめます。今回のメニューはざっと以下の様なものでした。

蛤のシェリー蒸しニンニクとパセリ風味、ズッキーニと茄子のチャーグリル、ローカルスペシャリテベイカリーのパンとチーズボード、チャーグリルドピーチのハモン・セラーノとリコッタチーズ添え、塩辛くないオリーブ などなど。

さてワインのラインアップはと言うと堂々9本、以下の様になかなか珍しいものもあり面白いボトルが集まりました。

スキン・コンタクトとはマセレーション(醸し)の事でフランス語ではペリキュレールですね。葡萄の皮と葡萄果汁を接触させる時間を持つことです。赤ワインの場合には葡萄の果皮や種から出るアントシアニンやタンニンを出すために行われるのが普通ですが、白ワインでもこの手法を使ってそのブドウ品種独特の風味を引き出し、味を出す様にしているワインです。あまり長くスキン・コンタクトをさせていると苦みや渋みの入ったワインに成ってしまいますのでその見極めが大事な様です。

もし、まだオレンジワインを飲んだ事が無ければ是非試してみてください。少~し白濁色の薄いオレンジ色をしていて旨味や塩気の感じられるワインもあり、最近少しづつ質が上がって来ているように感じます。又多くのオレンジワインを作っているワイナリーは、バイオダイナミック方式で畑を管理しており自然との調和などしっかりしたコンセプトを持ってワイン造りをしています。

今回の試飲ワインにもありましたが、南島のクライストチャーチから近いノース・カンタベリーにあるPyramid Valley Vineyardsは、昨年ワイン友達の結婚式で訪れてますます好きになったワイナリーです。ワインの起源のある場所ともいえるジョージアでのワイン醸造方式である土のアンフォラ壺を使って樽と共に発酵させていたり、オーナーであったClaudiaとMikeの努力の伺えるワインが沢山有ります。

そのジョージア産のワインで今回のテイスティングで特に際立ったのが、Pheasant's Tearsの キシ(Kisi)と ルカツイテリ(Rkatsiteli)という珍しい葡萄の種類で作られたワインでした。

キシ種の方は少しハーブやスパイスの香りがして特徴的で、ルカツイテリ種の方はドライフルーツのような乾いた甘い香りとほんのりとしたナッツの甘い香りがしてさらっと舌に残る細かいタンニンも感じられました。どちらのワインもクヴェヴリ(qvevri)と呼ばれている土の壺を地中に埋めた中で発酵されており、特徴的な塩気や旨味が感じられました。

ニュージーランドでも今このアンフォラ壺を使った醸造方式を取り入れるワイナリーが増えて行っています。イタリアのエトナ山のふもと辺りで作られたワインにもよく感じられる旨味(英語でも広めましょう、UMAMIと言うこの日本語を!)のあるワインが大好きな私としてはとっても歓迎すべき事で嬉しい限りです。原点に返るって大切ですよね!

ワイン好きのあなたはきっと食べる事も好きで、それはただ生き長らえる為にだけ食べるのではなく、人間らしく多くの感覚を使いながら楽しんで適量を美味しくいただく、という意味での『I love eating. I love food.』だと思います。

ワインは嗜好品。だから飲まなくても生きていけますが、人間である限りは一つ一つの事柄に意義を与えて次元を高め、人生を豊かにしてゆきたいですよね。そこに一つ一つの作業へのコンセプトを持つことの大切さも生まれてくると思います。そんなワイナリーオーナー達を応援しましょう!え、どうやって?それはやっぱり彼らのワインをappreciateしながら飲んで語る事ですよ。ここでワインと人生論を交差させるのは少々場違いですが、私にとってのワインは人とのつながりを深め、色々な事を考える時間もくれるワイン・マジックなので皆さんも是非1本のワインの裏にあるストーリーを知ってそこから何か共鳴するものを感じ、家族や友達とその気持ちや想いをシェアしてワインと共に笑顔の人生を過ごしてくださいね。

2018年5月掲載
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