NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
Mt. Baseワイナリーに誘われて Part2
第201回コラム(Jun/2019)
Mt. Baseワイナリーに誘われて Part2
Text: 和田咲子/Sakiko Wada
和田咲子

著者紹介

和田咲子
Sakiko Wada

日本に住んでいた頃からヨーロッパワインは飲んでいたものの、1994年の渡航以来、先ずはニュージーランドワインの安くて美味しい事に魅せられ、その後再度オールドワールドやニューワールドワインに拡大してワインをappreciateしている。ただ消費するだけに終わらない様に必死にwine drinking culture の質を高めようと努力する毎日である。

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皆さん、こんにちは。今月のお話は5月掲載分からの続きです。ワイン友達の一人でもある女性でマウント・ベースと言うワイナリーを経営しているカースティー(Kirsty)のお誘いでマールボロに週末旅行に行った時の旅行記です。

到着2日目のフォレスト・エステートでのワインテイスティングとチーズ・プラターを楽しんでいる所まで書きましたね。このニュージーランドの一つのアイコン的なワイナリーの事を少し話しますと、

マールボロだけではなく今ではホークス・ベイやセントラル・オタゴにもブドウ畑を所有して、その土地特有のワインを幾つも産しているとの事です。

フォレストには5つのワインラベルがありますが、父娘で常に話し合って新しい企画を考えたり、新しいブドウの種類を植えてみたりするそうで、実際にニュージーランドではまだ比較的珍しいブドウの種類1種類で作られたワイン(スペインのアルバリーニョ、オーストリアのグリューナー・フェルトリーナ、南西フランスのプティ・マンセンなど)がちらほらありました。

私の好きなヴィオニエと言うブドウ種で作られた白ワインが無かったのですが、聞くとマールボロではヴィオニエの栽培は難しいからだそうでした。

ベスはブドウ畑の管理やブドウ栽培の方を主に行い、お父様のジョンがワインメーカー(作り手)なのですが、ベス曰く『20~30年でブドウの樹はナチュラル・ダイ・バック(自然に死んでゆく)が始まるので、毎年10%位のブドウの樹を新しく植えていくのよ』との事でした。

いつかはどこかのワイナリーで一年間働く経験をしてみたいなと思いつつ、まだ収穫さえも本格的にはした事の無い身なので、ヴィンヤードでの苦労は話の上でしか理解できていないのだろうと感じています。

そんな風に思いを巡らせている間にも犬のフランキーがちょろちょろと、否ゆったりと皆の前に現れたり消えたりし、ある時は水浴びをしてきた様でびっしょり濡れた毛並みを見せながら又どこかに消えてゆきました。

幾つかのワイナリーできっと皆さんも見た事があるのではないでしょうか? Vinyard Dogs、Wine Dogs 等というタイトルの分厚い写真集が置いてあるワイナリーが時々ありますよね。実に多くのワイナリーにペットのワンちゃんが居て、テイスティングルームにも平気で入ってきたりしますが、大人しくて人懐っこくとてもかわいいのです。比較的こじんまりしたブティック・ワイナリーにそういったワンちゃんの存在が目立つ様にも感じますがフォレスト位大きな規模のワイナリーでもビジター達が食べたり飲んだりしている中、何の邪魔もせずに悠々自適で辺りを闊歩しているのは流石よく躾けられているニュージーの犬だなあ、とも思います。

さてこのワイナリーを出た後は皆の希望で腹ごなしの為にカースティーのブドウ畑の中を流れる川で泳ぐことにしました。大きな川ではないのですが比較的ゆったりと水が流れていて一部深くなっているので15メートルぐらいの距離は遊泳するのに最適な場所でした。ミネラル豊富で美味しいワインが出来そうな土壌であることを示す石が辺りにごろごろしていて、その石を使って作ったベッドやカースティー手作りの景色を見る窓まで付いたトイレ、そしてブドウを食べにくる鳥達を追い払う為に音のみを出す機械など、写真でこのワイナリーの雰囲気を感じてみてください。

あ、ちなみにこの鳥を追い払うマシンですが、1時間に2度、等設定できる様なのですが近隣のワイナリーも同じ様にしているのでブドウが実る季節になると結構しょっちゅうバンバンとあちこちから聞こえてきます。それでもうるさすぎる事は無くて優雅なブドウ畑に響くいつもの音、って感じですね。

泳いでさっぱりとした後は私がオークランドから予約しておいた日本人オーナー・ワインメーカーのワイナリーで特別に時間を作って貰ったテイスティングへ直行。でも車2台共が少し道に迷ってしまいました。1台はナビを使っていてすぐに辿りつけると思いきや番地がみつからずに行きすぎてしまい、もう1台は『近道を知っているから競争よ!』と颯爽と横道にそれて行ったにもかかわらずなかなか到着しないのでやきもきしました。それでも快く私達一行を出迎えてくれたのはFolium Vinyard(フォリウム・ヴィンヤード)の岡田岳樹さん(Mr. Takaki OKADA)です。

岡田さんとちゃんとお会いしたのは昨年10月にオークランドに在るKazuyaレストランで開かれたワインとお食事のコラボディナーでした。友人の誘いで行ったのですが3人のディナーテーブルに頻繁に足を運んでくれてワインのお話を伺う事が出来、楽しいひと時だったのを覚えています。その後にはオークランドで開かれた二水会と言うオークランドの日本人経済懇親会主催のワインセミナーでもお話されましたし、今年の3月3日のJapan Day(オークランド日本人会主催)にも出て頂きましたのでマールボロとオークランドの距離もあまり感じない位にオークランドに出没されている方です。

さて、そのフォリウム・ヴィンヤードでのワイン・テイスティングですが、先ずは全員揃うとオーガニック農法のブドウ畑の前で岡田さんのワイナリーのコンセプトなどをお話し頂きました。マールボロでは年間降雨量が650ミリはあるので一定の雨が降る、しかもフォリウム・ヴィンヤードの土壌は粘土質が多くて保湿性が高いので何と灌漑はしないとの事です。世界には降雨量が少なくても灌漑の恩恵で良いブドウを生産できるようになった地域もありますが、現在ヨーロッパでは多くのブドウ畑で灌漑は禁止されているそうです。その年の降雨パターンがその年のワインのヴィンテージの特徴を出すからそれを大事にしたい、とも仰っています。子供もブドウも『かわいい子には旅をさせろ』的に過保護にし過ぎてはいけない、というのはもう随分前からしっかりと私の中に焼き付いている考えですが、フランスのブルゴーニュを巡った時にも乾燥していてもブドウの根っこがどんどんと水を求めて下に伸び、そこでMother Rock(母なる岩石)にたどり着いてそこからミネラル分を吸収するのだと聞きました。ブドウよ、更にたくましく育っておくれ!

外でのお話が終わるとお宅の中に入れて貰い、セッティングされたテーブルについて実際のテイスティングが始まりました。ピノ・ノワールとソーヴィニヨン・ブランにパッションを持っておられますが早期収穫のシャルドネも作っておられて、収穫の順序としてはシャルドネ→ピノ・ノワール→ソーヴィニヨン・ブランだそうです。リザーブも含めて2013年や2016年のものを順番にテイスティングさせて貰った所、私が一番嬉しかったのはKiwiや他の国の友人達もUmami(旨味)のある深みや広がりのある味を理解してとても気に入ってくれた事でした。ここ10年程私はオークランドで密かにこのUmamiと言う日本語を広めようと努力してきました。

何故って、テイスティングをしているとよく『ミネラル』や『セイヴォリーネス(塩気のある味)』という表現を聞きますが、どうもただの塩気を感じる味と旨味に裏付けられた『テイスティネス』の差を感じない人たちがこちらには多い事に気が付いたからです。日本食では旨味はとても重要な要素ですが、『アクワイヤード・テイスト/Acquired Taste(生まれつきではなく経験や慣れによって育まれる味覚)』という言葉がある様に、子供のころから旨味のある食べ物をそれとして認識せずに例えば塩気や甘味に隠されてしまっていれば、認識できないのではないかと思います。日本に生まれて納豆を食べていれば好きになるように(そりゃあ嫌いな人もいるでしょうが)、臭みの強いチーズも始めは食べられなくてもだんだん好きになるように、私もこの国で飲んでいる内に好きになって来たタイプのワインがあり、味覚の変化を感じています。だからこそUmamiのあるワインを一緒にテイスティングしている仲間に『これUmamiがあるよね~』と言い続けていれば認識してくれるようになると思うのです。

ここ数年はメディアなどでも使われるようになってきたので私の地道な活動がどこまで功を奏したのかは分かりませんが、一つの小さな自己満足でしょうね。所謂日本人が『美味しい~!』と言って食べたくなるような(飲むのではなく)味のあるワインが大好きです。

さて、もう一つ嬉しかったことがあります。今回同行した全員が、サイエンスからのしっかりとしたアプローチで驚きの事実を教えてくれた岡田さんのテイスティングをとても高く評価してくれた事です。かなりのワイン通のメンバーが初めて聞いたその事実とは、マールボロ独特のソーヴィニヨン・ブランのフルーティーな香りを高めるには機械収穫の方が手収穫よりも良いだろうと言う事です。

何故か?ちょっと立ち入った話になってしまいますが岡田さんの言葉を借りて説明すると、マールボロのソーヴィニヨン・ブランにフランスのロワールなどとは違ったパッションフルーツやグレープフルーツの良い香りを出している化学物質は Polyfunctional Thiole (チオール類)だとの事です。マールボロのソーヴィニヨン・ブランにはその他の世界の地域で作られたどのソーヴィニヨン・ブランにもない良い香りが生まれる、それまではソーヴィニヨン・ブラン独特の草の様な青さを感じる香りが特徴のブドウ品種でしたがそちらのかおりの立役者は Methoxypyrazine (メトキシピラジン)だそうです。そしてパッションフルーツの様な甘い香りを生むチオール類を最大化させるには、ブドウの果実が直接太陽に当たった方が良い、機械収穫の方がその数値が上がる、圧搾法はホールバンチプレスよりマセレーションの方が良い、など色々分かって来ているそうです。どんなワインでも『手摘み』がベストとは限らないのですね!

最近のワイン作りは本当に科学的なアプローチが重要になって来てそれだけにどこの国のワインも質がどんどん高まって来ていますし更に言うならば地域差も少なくなってくる傾向にあると思います。それはそれで現在の流れなのだから受け入れてよい事だとも思いますが、灌漑をしない事によってその年のヴィンテージの特徴を出すと言うのもとても感銘を受けました。

かなり長居をしたフォリウム・ヴィンヤードを出て次に向かったのはメンバーの一人であるMartin(マーティン)が仕事でも繋がっているDan(ダン)のお店です。もうワイナリーを訪問出来る時間はとっくに過ぎていますし、次の目的地はワイナリーではなくScotch Barと言うアップタウンのバーです。ダンは日本の会社と組んでナチュラル・ワインなどをニュージーに入れる仕事もしているそうですが、今回はマーティンがどうしてもダンに飲ませたいワインを数本オークランドから持って来ていたので皆で立ち寄る事に成りました。それぞれに何かを注文して軽いボードをシェアして夕食への準備(お腹の)が整います。私は『ワールド・オブ・ワイン』フェスティバル(2018年6月掲載 第190回コラム参照)でテイスティング・セミナーにも参加した事のあるマス・ド・ドマ・ガサックのシュワシュワしたロゼを頂きました。

そして漸くカースティーのベースへ戻り、今晩は彼女のラム・ロースト(続くなあ~。昨晩もラム・ローストだったけれど、美味しいから歓迎!)と環境にフレンドリーなBBQで焼かれた手作りパンやサラダでの夕食と成りました。勿論いつものように皆の持ち寄りのワインも賞味しながらのリラックスしたひと時です。夜も更ける頃にはどんなに大音響にしてもお隣のワイナリーにも聞こえないだろうと言う環境で暗闇に広がるワイナリーに向かって大きく開け開かれたベランダで踊りダンスタイムも楽しめました。ひんやりした綺麗な空気を肌に感じながら2日目が過ぎていきました。

明日の3日目はマールボロ最後の日です。夕方のフライトでオークランドへ帰るまでに5つのワイナリーを訪問しますので次回も乞うご期待!

(次回に続く)

2019年7月掲載
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