NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第33回コラム(Nov/2006)
ワインとアートの不思議な相乗効果
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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アートとワイン…いやいやワイン自体がアート…。古来よりワインは芸術家に愛され、彼らが語らうときその手には常にワイングラスが握られていました。

グラスに注がれたワイン自体が均衡、相反、変化といった美を表現するのでしょうが、それを護り育てるボトルの色や形、加えてワイン・メーカーの夢や心を暗に含んだワイン・ラベルも、ワインに付加価値を寄与しています。

フランスはボルドーのシャトー・ムートン・ロッチルドをはじめとして毎年著名な画家に委託してラベルを描かせるワイナリーもあり、その年々、ひいては歴史を反映するそのワインは、コレクターズ・アイテムとして珍重されています。

一度ワイン・ショップに足を運ぶと、そのラベルの豊富さに圧倒されます。中身で勝負だといわんばかりの手書きのシンプルなものから、何だか意味深な指紋のついたもの、楽しげな動物の絵まで。

ふと僕の目にとまったのは、ニュージーの原住民マオリの人が描いたらしきラベル。気になって製造元のトフ・ワインズにラベルの詳細を問い合わせてみると、なにやら将来の展望や希望を表現したものだということ。説明されても僕の乏しい感性ではひとつひとつの象徴が何故それを意味するのか理解できませんでしたが、もっとおもしろいエピソードが聞けました。

CEDのジェームス・ウィーラー氏によると、ラベルのみならず創設者も、また従業員も7割以上がマオリだということで、現在生産量のなんと8割を日本含め21ヶ国に輸出しており、そのマーケティングの成功に関してこのラベルが大いに活躍しているということです。ワインも恋も外見からということでしょうか…。

ワインとアートの深いつながりに思いを巡らせている最中、ホークス・ベイのプケオラでアートをメインにしたお祭りが9月頭に開かれることを知り、参加することにしました。

もと病院だったそこで開かれたフェスティバルは大盛況で、鑑賞の合間に地元ワイナリーのテイスティング・コーナーのワインで一休みしたり、グラスを片手に自慢の作品を販売するアーティスト、また外の芝地では剪定時に切られたブドウの木の枝を使用した彫刻の作成パフォーマンスが行われていたりと、まさしくワインとアートが一体化していました。

ワインは感受性を高めるとよく言われます。飲んでいる時に惚れ込んで購入したものは、酔いが覚めて‘普段の’感受性に戻った時には逆に理解できなくなるかもしれません。

ワインを含めアルコールにはまた、懐を広くして財布の紐を弛める効果もあります。

もしかしたらそれこそがアート・フェスティバルにしばしばワインが彩りを添えている理由かもしれませんね。

2006年11月掲載
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