NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第37回コラム(Jan/2007)
縁の下のちからもち – 台木
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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世の中ではアメリカナイズとか最近では東京ナイズ?という言葉が生まれるほどグローバル化が進行していますが、ブドウというとその国の風土を反映する“おらが畑のワインを飲んでみろ!”みたいなことを想像される方が多いと思います。しかし、そんなイメージの強いブドウ畑も、当の昔にアメリカ様の助けなしでは存続し得なくなっているのです。

19世紀後半に輸入され、ヨーロッパのブドウ畑を壊滅させたこの害虫もアメリカンなら、それに抵抗し得たのもまたアメリカ系ブドウ品種しかありませんでした。

ブドウ木の根にダメージを与えるこの害虫は、ヨーロッパ系品種の本体(穂木・scion)をアメリカ系品種の土台(台木・rootstock)に“接木・grafting”することで、ようやくコントロールできるようになりました…と、いうストーリーはどのワインの本にも、毎度毎度ご丁寧に書かれていますのでご存知の方も多いかと思いますが、実際にどうやって接木するかについて書かれたものにはおよそ出会ったことがありません。

どちらもギズボーンに拠を構える苗木会社のRiversun(大規模)とRiverpoint(小~中規模)へと話を伺いに行きましたので、今回はかなり専門的な話ですがなるべく簡単に説明したいと思います。

台木用の品種は、これでもかというくらいまで高く仕立てられています。果実は必要ありませんので、台木品種の性格やその年の状態を考えて枝が太く硬くなりすぎないように樹勢をコントロールされ、冬に枝を“収穫”されます。穂木は冬、ブドウ木の剪定の際に太すぎず健全な枝を取っておき、両方の枝ともにウイルスその他の処理の為特殊な液体に浸されます。

接木は接合前によく水に浸され、太さ別にそれぞれ選別されます。台木からは芽が出ないように芽を取り除かれ(通常無性生殖で土壌のみで暮らすフィロキセラの有性生殖はアメリカ種の葉上のみで行われる為、抵抗力を持った新たな個体の拡散の原因になります)、接木する為にV字型やΩ型などに一番上の芽の下をカットされます。穂木の芽ひとつを取り除かれた台木の芽の方向と同じになるようにカットし、ドッキングされます。ここで本来の枝の上下が逆になってしまうと成功しません。つまり、なるべく自然に近い形にすることが基本です。接木された箇所はきつすぎない程度にテープで固定され、今度は65度以下に溶かされたロウに浸され、ロウのコーティングをまといます。浸された際木に吸収された水分は次に説明する過程で重要な役割を果たすため、ここまでは乾燥しないように注意して行われます。

植物の血管にあたる木部と師部の間には前形成層という、おいおいどちらかに分化する細胞があり(なんとなく小学校の理科でやったなぁという感じしませんか?)、双方の形成層がcallus・カルスという、人間でいうとケロイド?のようなものを出してくっつき、順次、師部と木部、つまり根から上の組織への養分、水分のパイプが復元されます。同じ太さ、同じ向きで接木されるのはこの形成層をできる限り近づけるためなのです。

台木側の下の部分を根の成長を促す為に新たにカットした後(分裂組織のニュートラルな新細胞が根に分化されます)、熱殺菌された軽石を主とした媒体に並べられ、カルス化に最適なサングラスが曇るほど高湿度で温かく特殊な光源の部屋に移動されて接合部分の“接着”を促します。根を新たに生み出すのも、カルスを生成するのも全て枝に蓄えられた養分のみで行わなければならないため、昨シーズン健康に育った枝が選ばれるのです。

これで完成かというと、そう簡単ではありません。温室で発芽しなかったものは栽培しても発芽する確立はかなり低くなりますので、そこでうまく発芽を始めたもののみが、デリケートな若木を守るためおよそ完全に殺菌された土壌に植えられ、1年間さらに根の成長をうながします。畑に植えられたものは冬特殊な機械ですくうように刈り取られ“収穫”されたのち、洗浄、殺菌、保管されてやっと完成となります。今誇らしくブドウを実らせている木の大半は、このように手塩をかけて育てられ、長い道のりを経て畑に到着するのです。畑に到着してからも数年は苦難がつづきますがそれはまた別の話…。

フィロキセラ対策として発達した接木法ですが、いまではそれのみならずブドウの収量増/減、特殊な土壌成分への耐性(例えば強い石灰質、塩分等)、乾燥した土壌や水浸しの土壌への適応性、その他病気や害虫への耐性等、その副産物としてブドウの品質を向上する様々な特性も見出されました。日夜研究がなされより優良な台木用交配品種が生み出されるとともに、栽培家は様々なニュージーランドの土壌に適した台木の選択が可能となり、現代のブドウの品質の安定化に大いに貢献しています。果実を実らせる穂木のクローン選抜ばかりが話題を集める昨今ですが、日の目を見ずに地下で頑張っている彼らにも、語られるに足るストーリーがあるのです。次に畑を訪れる機会がありましたら、苗木場で甘やかされて育った彼らが今では畑で立派に戦い、お役目を果たしている姿にも少しだけ、気を留めてあげてください。

2007年1月掲載
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