NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第40回コラム(Feb/2007)
テイスティング - どれだけ信用できる?
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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この間のワイン・コンペティションの話と関連して、今回はテイスティングに関して議論したいと思います。ひとえにテイスティングと言ってもお店でワインを購入する前にするもの、仕入れのためのもの、また、今回のように審査のためなど、その目的によって色々あります。

日本のある有名ソムリエは、普段からねぎだのわさびだのといった香辛料を慎むようにしているといいます。まさか冷やっこを食べる際にかつおぶしのみで食べはしないと思いますが…。また、香辛料は避けていても、あるワインと山椒をかけたうなぎの蒲焼から生姜醤油のまぐろの刺身との相性まで、こまやかな事にもお詳しいようです。もし、ワインに一生を捧げるかわりにキムチ鍋が金輪際食べられないとしたら、自分には耐えられませんが、もしそうだとしたら、皆さんならどうされますか?

また、テイスティングの神様ロバート・パーカー氏曰く、昔はコーラしか飲まなかっただのテイスティング直前にトリュフ・ソースの何々を食べただのとやっかまれているのは有名な話ですし、ワイン・コンサルタントで有名なミシェル・ロラン氏がワイナリー間の移動中に葉巻をすぱすぱ吸っていることを知っている方は意外と少ないのではないでしょうか。この場合、どちらが信用できるテイスターと言えるでしょうか?

このインターナショナル・シャルドネ・チャレンジでは、さすがにタイ料理などは出ませんでしたが、審査員は普通に昼食をとり、合間合間でコーヒーや紅茶を飲んだりしていました。一日中味のないクラッカーと水だけで過ごすわけではありませんでした。

審査員はもちろん経験豊富な自分の味覚の傾向と嗜好(例えば自分は人より甘味の官能値が低いとか)を完全に理解したプロの方々です。とはいえ、ランチやコーヒーの後味はワインの味わいを左右しないのでしょうか?

また、果たして人間は一度に百種類ものワインを採点することは可能でしょうか?

そしてそこから導き出された判断は、果たして正しいといえるでしょうか?

皆さんが思われるであろう素朴な疑問を、審査委員長でありマスター・オブ・ワインのジェーン・スキルトン女史(Jane Skilton MW)に伺ってみました。

食事や紅茶等に関しては、その余韻の持続時間や影響まで熟知していれば別段問題はないそうです。ただ個人の信念というか経験上の違いで飲んだり飲まなかったり、食べたり食べなかったりはあるということです。彼女の中では少量何かお腹に入れるのがベストだということです。自分も賛成で、経験上全く何も食べずに試飲会等に行くとお腹の虫がなって気が散る(プラス、恥ずかしいですよ)のに加えてやや集中力が切れるのが早いんじゃないかと思っています。

また彼女曰く上限は特にはないけれどもベストのテイスティング結果が望めるのは一度に150のワインまでということでした。それでもさすがと言わざるを得ませんが、これも少しづつ少しづつ数を増やしていって訓練した賜物だということです。テイスティングも一夜にしてならず、ですね。

品質判断に関しては、正しく判断する為に何人ものジャッジがいるのだし、その話し合上で飲みなおして他人の意見が正しいと感じれば素直に応じるということでした。意見交換することにより、より精度の高い結果になるそうです。

ちなみにもちろん体調管理はしっかりしているけど普段なんでも食べるし、それこそが楽しみだということで、減量中のボクサーでもないしテイスティングがひかえているということでは全く何もストレスを感じないとのこと。プロに言われると安心しませんか?友達のインド人も毎日これでもかというくらい唐辛子をプレートにのっけて食べてますが、それでもかなり優れたテイスターであることを考えると、やはり直前に食さなければ別物だと考えてよいかもしれません。また試飲したワインを全て記憶できますか、と聞くとほとんどの審査はブラインド・テイスティングで行われるため正直全く頭に残らないということです。

自分も数えてはいませんがおそらく何千、何万というワインを飲む、または“テイスティング”してきましたが、例えば仕入れのための商談会などでは、汚い話になりますがいくら品質が良くても店で2倍ないし3倍の値段で売れないもの、つまり値段相応なものには時間を割きませんでしたし、もちろん何々の香りがするなどとはいちいちコメントもしませんでした。

そして、記憶に鮮明に残っているのはおそろしく印象的なワインを除き友人や恋人と飲んだり語ったりしたワインがほとんどです。その時の会話やシチュエーションが、ワインの味や香りを思い出させてくれるのです。東大卒の某先生が単語カードをめくるとき公園に行くなどして景色とともに覚えると言っていたのと似ているでしょうか。ワイナリーを訪れればスタッフとたくさん話しをするよう、晩酌にワインを開けるときでも誰かと一緒に飲むように、また、たとえテイスティング会場で別々に行動していても、たまにどれどれが良かったと話し合うようにしています。それこそがワインを憶える唯一の近道であると自分では思っていますし、またワインを一人で飲むよりいっそうおいしく感じさせてくれます。

皆さんもあまりテイスティングを難しく考えずに、なるべく他の人と飲むようにすることを、自信を持ってお勧めします。ただし、香りや味わいはともかく名前を覚えることはまた別物のようで、おいしかったワインを再度購入するときに“あの時のあれ”とだけ伝えてもさすがの酒屋さんもわかりませんので、そちらは酔っても頑張ってメモを取るなりして覚えてくださいね。

2007年2月掲載
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