NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第61回コラム(Dec/2007)
ニュージーランド・ピノ・ノワール入門
Text: 武田かおり/Kaori Takeda
武田かおり

著者紹介

武田かおり
Kaori Takeda

兵庫県出身、在住。1993年に初めてNZを訪れて以来、第二の故郷として同国への渡航を重ねている。2004年の滞在中、本格的にNZ(&オーストラリア)ワインに魅せられ、フランスやイタリアを始めとする伝統国のワインを知った上で、NZ&AUSワインの素晴らしさを1人でも多くの人に伝えたいと、日本帰国後は英国政府認定WSET(Wine and Spirit Education Trust)のコースで学んでいる。WSET International Higher Certificate 取得。おいしいワインと食事と聞けばどこへでも、フットワークは軽い。ワインニュース、ワイン関係翻訳、コミュニケーション担当。

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ニュージーランドがきっかけでワインが好きになられた方から、「なぜ赤ワインの中でもピノ・ノワールは高いの?」という質問を受けることがよくあります。

これはもちろんニュージーランドに限ったことではないのですが、その理由とニュージーランド・ピノ・ノワールについて簡単に説明させていただきたいと思います。

映画「サイドウェイ」で、普段ワインには馴染みの無い方にも一躍その名を馳せ、特にアメリカでは人気沸騰、価格も高騰したことで知られるブドウ品種、ピノ・ノワール(逆にメルローはかわいそうな思いをしたに違いありません。しかしながら「メルローなんて死んでも飲むか!」という勢いの主人公の一番のお気に入りが、完全否定しているカベルネ・フランとメルローの混醸で造られたシャトー・シュヴァル・ブランだったことに少しは救われたことかとは思いますが)。

アカデミー受賞作で紹介され人気が出たから高い…というのも確かに理由の1つではあるのですが、ではそれまでは安く買えたのか?というとそういう訳でもありません。

「気難しいブドウ」とよく称される通り、他の主要黒ブドウ品種のカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、シラー等に比べて果皮が薄く、土壌にも(石灰質が最適とされる)気候にも(冷涼な気候であることは最低条件)注文が多いことなどから、栽培家泣かせであることはもちろん、醸造の際にも細心の注意が必要とされています。

そのように非常に繊細なブドウなので、病害の被害も受けやすく、栽培から醸造まで、本当に手間も費用もかかるブドウ故高価なものになるという理由が1つ。

そしてやはり収量も限られてくるので(もちろん国や地域、ワイナリー、ヴィンテージによってまちまちですが)、評価が高かったり人気のピノ・ノワールには価値が付いてプレミア価格設定になるという理由もあります。

ニュージーランドピノ・ノワールの一部がまさにその例で、ここ10年ほどで世界的な評価を受けるピノ・ノワールが続々登場し、品質に比例して価格も上がりました。

さらには上記2つの理由に関連することですが、ボルドーを例に取ると、ボルドー・ブレンドと謳われるように、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フラン、は混醸することによってお互いの良さを引き立てるというのが一般的ではありますが(もちろん単一品種でも超高品質のワインを多数生み出しています)、ブルゴーニュの代名詞ピノ・ノワールに関しては、カベルネ・ソーヴィニヨンとシラー/シラーズというブレンドが存在し、多くの自由が許されるニュー・ワールドにおいても単一醸造が大前提です(スパークリングワインは別として)。

そのため、毎年の気候条件がブドウ果実にダイレクトに影響し、生産量や質が読みにくいこともあり、それらが生産者泣かせとも言われる所以でもあります。

さて、ニュージーランド・ピノ・ノワールに話を移しましょう。

ブルゴーニュ以外ではなかなか成功を収めることができなかったピノ・ノワール栽培において、ニュージーランドは初めて本家以外で素晴らしいピノ・ノワールを造り上げた国と称されています。

その大きな一歩を踏み出すきっかけとなったのは、1978年、政府がブドウの貴品種栽培に最適な土地を調査したところ、北島南部のマーティンボローが土壌も気候も非常にブルゴーニュに近いことが判明、その数年後には当時の調査員であったデレク・ミレン氏が土地を購入しピノ・ノワールの栽培がスタート、現在の世界的評価に至っています。

地域で言うと、マーティンボローに次いで頭角を表したのが南島南部のセントラル・オタゴ。ワイン造りに関してはほとんどが素人でありながらも情熱を傾ける地元仲間が協力し合い、今では2年に一度、世界中からピノ・ノワール愛好家を集めて大きなイベントが開催されるまでになりました。

他の地域を見ると、初めて国際的に認められるニュージーランド・ピノ・ノワールを生み出したのは、実はマーティンボローでもセントラル・オタゴでもなく、南島東部カンタベリーであるというのも見逃せませんし(St.Helena Canterbury 1982)、ピノ・ノワール栽培・生産に関しては後発地域とされるマールボロも研究・調査に莫大な時間と費用を費やし、近年は素晴らしいマールボロ産ピノ・ノワールが多く登場しています。

また南島北部のネルソンでも何度でも飲みたくなるような見事なピノ・ノワールが造られていますが、あいにく生産量が極端に少なく、ほとんどが地元のワイン愛好家に消費されている状況です(ごく一部ではありますが、日本にも輸入されています)。

小さい国ではありますが、これだけの地域で栽培・生産されていると、やはり同じヴィンテージでも出来はまちまち。地域が違うのならまだしも、お隣の畑と自分の畑で明暗を分ける、ということもあり得るようです。

百聞は一飲にしかず。ニュージーランドのプレミアム・ピノ・ノワールをお試しいただきたいのはもちろんですが、多くのワイナリーではセカンド・ラベルとして、果実味が前面に出ていて軽快で飲み易いお手頃なワインも生産していますし(もちろんこちらはこちらでおいしい)、幸いニュージーランド・ワインの中でもピノ・ノワールはソーヴィニヨン・ブランと並んで日本でもわりと豊富に揃っていますので、ぜひいろいろお試しいただき、美しいブドウ畑や生産者の苦労などに思いを馳せてみてはいかがでしょう?

もちろん最高の味わい方は直接ワイナリーを訪れ、テイスティング・ルームやさらに可能であれば併設のレストランで食事を楽しみながらとっておきの一杯(もしくは一本)を、ですね。

その際、映画「サイドウェイ」の主人公マイルスのように眉間に皺を寄せて蘊蓄を垂れ、スタッフとワイン話に花を咲かせるか、「おいしい!」の一言と笑顔で楽しむかはどうぞご自由に。

2007年12月掲載
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