NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第62回コラム(Dec/2007)
コアなニュージーランド・ワイン ザ・変り種 その1
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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最近ではニュージーランド産のピノ・ノワールも知名度があがってきましたが、世界市場ではやはりニュージーランドとマールボロのソーヴィニヨン・ブランはいまだに同意語のようです。でも、もし急にマルボロ・ソーヴィニオンなんかダサいよね~とか言われるようになり、世界中で流行りが終わってしまい誰も飲まなくなったらニュージーランド・ワイン産業はどうなるでしょうか?今回からはその現状に懸念を抱く者の1人として、ヴァラエティにとんだ(マニアックな?)ニュージーランド・ワインを紹介したいと思います。

いつぞやのテロワールのコラムに登場したアルネイスのように、その出来はともかく、新しいブドウ品種を栽培し始めてそのパイオニアを名乗るのは、世界に何百もの品種があることを踏まえるとかなり容易ですが、それを市場に認知させるのは非常に大変です。フランス・ワインのように産地で分けられるほど歴史がありませんので、ニュージーランド・ワインを含め新世界のワインはスーパーマーケットならずともかなり品揃えのよいリカー・ショップでも品種別に並べられていることが多く、もちろんソーヴィニヨン・ブランやメルローは1区画獲得できますが、マイナーなものはしばしば“その他コーナー”にひとくくりにされているため目につきにくく売れにくいのです。

ワインに詳しい人なら「へぇ~、こんなのつくってるんだ珍しい~」ということで興味をそそるものなのですが、一般の消費者はワイン好きの方より“チャレンジ”する頻度が少なく、一度低価格で満足したものを見つけると「おっ、これこれ」と次も同じものを購入することが多い傾向にあります。銘柄名でなくても、例えば1回“シャルドネ”でおいしい体験をすると次もとりあえず“シャルドネ”と書いてあるものを選び、3回ほどすると他のワインを体験したことがなくても「あたしシャルドネ以外はだめなんだよね~」なんて言い出したりします。

国中からブレンドしまくって安定安値・安定良品質・安定供給のオーストラリア・ワインが世界中で売れているのはこういう背景があるのも否めないと思います。ほとんどのニュージーランド・ワインはその分野では敵いませんので、それより値段帯が上でも特徴あるワインで勝負せざるを得ないのかもしれません。

ワインのスタイルも飲み手のニーズ、流行にあったものを選択していることが多く、つまり生産者の意思よりマーケッターの意見に重きがおかれている事もしばしばで、例えばピノ・グリが“今キている”となるとピノ・グリを作れ作れと生産者にはやし立てたりするわけです。

その他の白品種として扱われていたピノ・グリがいきなり生産量区分のグラフに現れたのですから、その影響力たるやすさまじいに違いありません。そうでもなければ現在のような世界中からワインが手に入る時代の中で生き残れないのでしょう。特にロンドンやニューヨーク、日本で販売されている方々には尊敬の念すら抱きます…。

そんななか、ワイナリーの名物として、またこだわりや野望の一部として通(マニア?)の心をくすぐるようなあまり見かけない品種や製法でワインを生産しているところも、ちゃんとあるんです。

例えば、ドルチェットという品種を使ってワインを造っているヘロンズ・フライト(オークランド地方はマタカナ・サブリージョンにあります)。

ドルチェットは、北イタリア原産の酸のしっかりしたかざらない赤ワインをつくる品種で、ここの1.5ヘクタールの畑から産出されるドルチェットもそのスタイルを踏襲しており、ニュージーランドにしてイタリアの息吹を感じ取れます。実はこのワイナリー、日本のテレビの取材が来たこともある人気のワイナリーで、その時の写真もかざってあったりします。以前はフランス系品種が主でしたが、イタリアに傾倒してからはいまや国内で唯一イタリア品種のみ栽培している粋なワイナリーです。古き良きトスカーナ地方のような生活と農業が一体となった環境を目指しており、ワイン以外のオイル等も販売されています。

かわいらしいカフェからは常ににんにくのいい香りが漂い、テイスティングをしているとチーズなんかが出てくるのでそれだけでは帰れなくなってしまいます。ドルチェットはまさに食事とともにあるワインですので、それがちょうどいいのかもしれませんけど。

カフェ・スタッフもワイン・メーカーも気さくでホスピタリティに溢れており、時間さえつけばワイナリーにも気軽に案内してくれます。もうひとつの目玉サンジョヴェーゼもあまりニュージーランドでは造られておらず、かなりセイヴリーですが上質なワインで、それも非常におすすめです。ニュージーランドで2件しか採用していないブドウ木の仕立て方、レイヤ・トレリスと呼ばれる二股にわかれた特殊な方法は必見で、畑はカフェのまわりにあるのでぜひそれもついでに見てみるといいでしょう。

ドルチェットとサンジョヴェーゼの強い樹勢をコントロールするのに一役かっているようです。

さて、出し惜しみするわけではありませんが今回は前置きがあったためこのへんで。また誤解を避けるためにいいますが、同じワインを何度も飲むのは全く悪いことではありません。逆に僕は必要なことだとさえ思っています。その香り、味が自分の中で「平均値」となり、こういった新しいものと出会ったときに自分の頭の中にあるその目安と明確に比べることができます。そして、なんかこれいつものシャルドネより酸っぱいな、とか、あ、こんな香りはあのシャルドネにはなかったとか感じたりできるわけで、全くその目安がない状態ではなかなかそういう違いも感じ取りにくいのではないでしょうか。

ただやはり、たまにはいいワインを飲んで舌を経験させないと、高級なワインに出くわしても反応することすらできないようなので(日本のTVプログラムの芸能人格付ってまだやってるんでしょうか)、同じ品種に固執するとしても、給料日には奮発してランクが上のワインを飲まれることお勧めします。ただ、自分でお金を払うとどうしても「高い=おいしい」という観念にとらわれますので、安かろうが高かろうがうまいものはうまくて、まずいものはまずい!という大原則をお忘れずに。おいしくないけどこれが高級ワインの複雑さなんだ~、なんて我慢して飲んでいたら実はただワインが傷んでいただけだったなんて、笑えませんよね。

2008年1月掲載
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