NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第67回コラム(May/2008)
コアなニュージーランド・ワイン ザ・変り種 その3
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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今回はホークス・ベイ地方の実力派ワイナリー、Esk Valley Estate/エスク・ヴァレー・エステイトより、Verdelho/ヴェデーロという品種のご紹介です。

ヴェデーロはポルトガル原産で、マデイラという酒精強化ワイン(アルコールを添加したワイン)に使われる白ブドウ品種です。日本では現地名に近づけて、ヴェルデリョとかヴェルデホとか呼ばれていたと思います。ここではそれが以前のコラムでご紹介したギムレット・グラヴェルズ地区に4ヘクタールちょっと植えられています。

この石ころだらけの畑で収量がもともと低く抑えられることに加え、しばしば開花がうまくいかないことの多い品種なので、それに比例して結実量も減り、収量減の原因となっています。現在それを補うようにギムレット・グラヴェルズのはしっこのほう、石ころが少ないところに約2.5ヘクタールにわたって植えられたブドウはもっと元気に育っているようで、2007年よりブレンドに加わっています。雑誌にもしばしば登場し、ワイン醸造学で有名な大学等で勉強せずにたくさんのヴィンテージを経験しすばらしいワインをつくる経験・感覚型ワイン・メーカーとでもいいましょうか、ゴードン・ラッセル氏がシニア・ワイン・メーカーをつとめています。彼曰く、ヴェデーロはシャルドネのボディ、糖分とリースリングの酸味をもった非常にユニークな品種であるということです。元々あったかい場所で育まれた品種だからか、事実果実が熟すと糖分は15%くらいのアルコールになれるほどにすぐあがりますが、酸味はしっかり残ったままであり、ここでは一番早く収穫してあまりアルコールが高くなりすぎないように気をつけているそうです。

オーストラリアでもかなりのワイナリーがこのブドウからフレッシュなワインを生産していますが、ここのヴェデーロは半分以上樽で自然発酵しているため、さらにボディと複雑味を備えたワインになっています。当人も誇りをもってこのブドウからのワインをニュージーランドで唯一作り続けており、必ずトライするに値するワインだと思います。あるスペインの著名ワイン・ジャーナリストはポルトガルのものを含め今まで飲んできたヴェデーロの中で一番おいしいと絶賛したそうです。といってもマデイラ用じゃないポルトガルのヴァラエタルのヴェデーロを見かけたこともないような気がしますけど…(ゴードンも一回しか飲んだことないみたいで、現在同僚であり1日5回夜遅くまでにかけて超よく食い!よく飲み!よく笑う典型的なポルトガル人3人曰くアレンテージョという地域にはあるがメジャーではないそうです)2002年当時誰も聞いたことのない品種で80ケースだけの生産から始まったワインはワイナリーの努力によって現在600から800ケースに数をのばしており、それに比例するように現地での認知度もあがっています。

エスク・ヴァレー/ベイ・ヴュー地区は、ホークス・ベイのかわいらしい中心街のネイピアより北にやや離れて位置しています。ギズボーンに滞在していた頃ホークス・ベイに向かうとき3時間くらいの恐ろしくくねった山道運転を終わってたどり着く、最初のワイナリーで(しょっちゅう駆け込んでトイレを借りてたこともあり…)なんだか思い出深いワイナリーでもあります。ワイナリーの近くにそびえるテラス式の急勾配にあるブドウ畑も必見で、フランスまで行かずとも?貝殻の詰まった地層も見えるので、ワイン好きの方のいい撮影機会になるのではないでしょうか。ゴードン曰くちゃんとスタッフに許可を尋ねれば気軽にテラス畑を見てもらって構わないということですので、訪問された際にはぜひどうぞ。

その畑からよい年のみ少量つくられるその名もテラスィズはまた、ニュージーランド最高のボルドーブレンドの赤ワインのひとつとして非常に有名です。高価で入手困難なテラシスは難しくても、赤白含めこのワイナリーのワインにまずハズレはありません。自分のお勧めはリザーブのシラーですが、もしできれば飲んでみてください。2006年のシラーは樽からの試飲でしたが、完璧にギムレット・グラヴェルズの特徴を表現しうるものになることは間違いありません。今でもコンクリートの開放桶を使い、特に変わったことや最新の醸造法は使われておりませんが、彼の舌から導きだされるワインは常に雑誌等でも高評価を獲得し続けています。

さて、現在までニュージーのアルネイス、ドルチェット、ウォァツァー、ツヴァイゲルト、ヴェデーロとご紹介してきました。多少なりともマニア心をくすぐることはできているでしょうか?

日本の大都市は、ワインを勉強するには最適な場所です。世界中ありとあらゆるワインが手に入り、うれしいことに質の高い国産ワインまで手ごろな価格で楽しむことができます。やはり外国のワイン産地では国産のパーセンテージが非常に高く、輸入ワインを試すには限られた選択肢しかありません。関税のせいで日本よりかなり高いこともしばしばで、常に海外に住むと日本のよさを実感します。我々はとても幸せな国に生まれましたが、それでもまだこのように日本で飲めないたくさんのワインが世界中に存在します。いろいろと今までワイナリーを回ってきましたが、日本市場ではお目にかかれないし、みなさんに教えるのをちょっとためらうようなすばらしいワインをつくるワイナリーを何件も発見しました。

みなさんの信じる「円」の価値は、いつもアメリカドルだけと比較されるからか一般の方が意外と知らないところで新興国の台頭もありどんどん下がっています。日本経済が好調になっても、相手国はさらに好調なのでもうこの状況からそれほど変わらないんじゃないかとも思います。ですのでいつか行きたいなぁと思っている国があれば、今のうちに行ってしまうのも手ではないでしょうか。そしてそこで著名なワイナリーを巡るのはもちろんですが、ワイン仲間に自慢できる自分しか知らないワイナリーやワインを発見することは、この上ない楽しみになることに違いありません。

2008年6月掲載
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