NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第74回コラム(Dec/2008)
ニュージーランドワインが背負う地球環境への責任~鈴木一平
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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【ニュージーランドワイン・サステイナビリティ 愛は ワイナリーは地球を救う??】

今年の夏は少し事情があって日本に滞在したのですが、雷雨に雷雨、電車は毎日止まり冠水した道路を車でざぶざぶと走り、日本ってこんな国だったっけ?と危機的な違和感を覚えました。サミット開催なんかでは全く地球のことを考えもしなかった皆さんもさすがに、何か歯車が狂ってきている、この地球がどんどんおかしくなってきている、そう感じたのではないでしょうか。

さて、諸悪の元凶はCO2から酸素へと光合成を行う森林を伐採して減少させ、人間社会から放出され続ける二酸化炭素などの温室効果ガスが地球の温暖化を加速させていることだ、という認識はすでに共有されていると思います。少し暖かくなればブドウの作柄も安定したりして良い事ずくめだ、以前よく耳にしたそんな安易な考えも現在は世界各地の異常気象によって鳴りを潜めました。

各家庭でも義務であるごみの分別とリサイクルにとどまらず、待機電源を消したり、エネルギー効率の良い家電製品にしたり、通勤を電車にしたりと、意識の高い方もたくさんおられるでしょう。その「エコ」「省エネ」の取り組みの多くが家計にやさしいことから、地球のためという大義でなくてもこの物価高の時代、少しでも出費を抑えようとはじめられた人もいるかもしれません。

個人や家庭レベルだけではなく企業レベルにおいても「我が社は何々をして環境に配慮してま~す」、という文句はあちらこちらで謳われ、例えばニュージーランドなどに店舗を展開するスーパーマーケット大手のPack n’Save / パッキン・セーブでは、エコ名目でビニール袋を有料化しコスト・ダウンを達成していますし、アメリカのあるホテル・グループでは環境のためにと連泊客のベッド・シーツの交換を廃止、こちらも経費削減をはかっています。とまぁ例をあげればきりがないのですが、先進国内で環境問題をないがしろにして企業イメージは保てないばかりか、燃料高、資源高のご時世で四苦八苦しているのは家庭と一緒ですね。

そこから一歩進んで、マールボロのワイナリー、グローブ・ミル(ザ・ニュージーランド・ワイン・カンパニー、以下ニュージーランドWC)は、世界に先駆けてCarnoニュージーランドero/カーボン・ゼロというものに取り組み、認定を受けています。ニュージーランドのTVなどでも度々紹介されているのですが、簡単に説明すると、まず一連の醸造・栽培作業(使用した電気やガス、畑のトラクターのディーゼル等などなど)にとどまらず国内輸送時のガソリン、また南半球の島国であるため昨今とかく問題になる国外輸出時の遠距離輸送、例えば飛行機などが排出している化石燃料使用のエネルギーを専門機関が計測します。設備投資などを行い作業効率改善や排出エネルギーを最小限に抑える改革を行い、最後にどうしても不可避な二酸化炭素を買う、つまり植樹をしたり森林保護に努めることにより放出したものを“相殺”することで地球環境に影響を与えないようにするといったコンセプトです。ニュージーランドWCでは牧畜を止め森林保護を約束した、つまり森林による二酸化炭素吸収と酸素の放出をしている地元の登録土地所有者より「クレジット」を買って、これを達成しています。京都議定書から話題になった国家間の二酸化炭素排出量取引と少し似ていますね。

このように複合的に色々なことを達成しているのですが、カーボン・ゼロ以外にもたくさんの実績があります。とりわけ目を引くのは、10年以上前から続けられ何度か環境分野の賞も受賞している湿地復元プロジェクトです。グローブ・ミルを訪問した際にはここが環境に配慮したワイナリーだとは全く知らなかったのですが、試飲中に色々話しを伺って興味が湧き、その後ワイナリー隣の湿地に足を運んでみました。

膨大な広さとはいえませんが、たくさんの植物が植えられており、名の知らない野鳥やカモが水面を泳いでいました。ちょっと探してみましたがお目にかかれなかったグローブ・ミルのラベルに描かれている種類のカエルは、この湿地に生息しており、汚染や変化など環境に左右されやすく世界中で減少傾向にあるカエルを、環境保護の象徴として起用されたそうです。ニュージーランドWCの別のレンジ、その名もサンクチュアリ(聖域、転じて鳥獣保護区の意)レンジのワインには、ニュージーランドの固有の鮮やかな青い野鳥プケコがアイコンとして使われ、こちらもこの湿地に生息しているとのことでした。水が沸いてきたらしめしめ、とブドウ栽培に利用しそうですが、こうして自然を残していく選択をしたその姿勢と先見の明には頭が下がる思いがします。

とかく農産物のブドウを原料とするためか、実際の現場よりも常に環境にやさしいイメージがあるワインづくりですが、こうした取り組みによってその現状がクローズ・アップされるのはいいことだと思います。ワイナリー側にも「見られる」意識が芽生え、今後取り組むワイナリーが増えることを期待する次第です。そういった意味では、このグローブ・ミルでしっかりと利益還元ができるか、注目が集まるところでしょう。すでにネルソンにあるワイナリーが追随したということです。(詳しくはニュージーランド・ワインニュース参照)

一個人や一企業が取り組んでも仕方がないこと。それでもやらなければならないこと。戦後現在のおじいちゃんやおばあちゃん達の頑張りによって、自分達はワインがたしなめるような物質的に恵まれた国にこうして住む恩恵を受けています。今度は同じように、いや世界規模になったことを考えるとより重いかもしれない責任を果たし、自分の子供や孫達に豊かな地球を残していけるか。我々が正念場を迎えていることは、間違いありません。

今回は少し真剣な話になってしまいました。余談ですが、3年後ニュージーランドで開催されるラグビー・ワールドカップも温室効果ガスゼロに取り組むそうです。どうやって実現するのか詳しいことは知りませんが、観客も興奮して呼吸回数を増やさないように注意されたりするなんてこと、ないですよね…。

2008年12月掲載
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