NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第75回コラム(Jan/2009)
ワイン造りと環境~地球に優しいニュージーランドのワイン
Text: ディクソンあき/Aki Dickson
ディクソンあき

著者紹介

ディクソンあき
Aki Dickson

三重県出身、神奈川県育ち、NZ在住。日本では、栄養士の国家資格を持ち、保育園、大手食品会社にて勤務。ワイン好きが高じてギズボーンの学校に在籍しワイン醸造学とぶどう栽培学を修学。オークランドにあるNZワイン専門店で2年間勤務。週末にはワイナリーでワイン造りにも携わる。2006年より約2年間、ワイナリーのセラードアーで勤務。現在はウェリントンのワインショップで、ワイン・コンサルタント兼NZワイン・バイヤーとして勤める。ワインに関する執筆活動も行っている。趣味はビーチでのワインとチーズのピクニック。

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2007年のニュージーランド航空ワイン・アワードの結果報告に、これまで目にしなかった賞の名前がありました。「ピュア・エリート・ゴールド・メダル」、「ピュア・ゴールド・メダル」などです。「ピュア」カテゴリーにエントリーするには、サステイナブル・ワイングローイング・ニュージーランド(Sustainable Winegrowing of New Zealand®以下SWニュージーランド)に認められていなければならないと言うのです。そもそも、SWニュージーランドとは一体なんでしょう?

サステイナブルを訳すと「環境を破壊しない(に優しい)、持続可能な」という意味。ワイングローイングはお察しの通り、「ワイン用ブドウ栽培」を意味しています。1995年にボランティアの生産者たちが集まって始めた、このSWニュージーランドの哲学はつまり、「環境を保護しつつ、持続可能なワイン用ブドウ栽培のためのガイドラインを、ブドウ生産者に提供する」ことなのです。この「環境」には、ブドウ畑周辺の自然環境、その中で働く人々、その近隣の住人、更にそのブドウで造られたワインを消費する人々をも含んでいます。これにより、ニュージーランドのワインが国際的にも珍しいということを打ち出し、「クリーンでグリーンな国」というニュージーランドのスローガンを具現化することを目指しているのです。

2007年のニュージーランド航空ワイン・アワードで「ピュア・エリート・ゴールド・メダル」を受賞したのは、たった3つのワインでした。この賞は、SWニュージーランドに認められているメンバーで、更に20点満点中、19点以上の高得点を獲得したワインにしか与えられない賞なのです(ちなみに、ゴールド・メダルを受賞するには、20点中18.5点以上獲得しなければなりません。「エリート」と呼ばれるには、更に高得点の19ポイント以上でなければならないと言うことになります)。この3つのワインのうち1つは、モンディロ・ピノ・ノワール(Mondillo Pinot Noir 2006)で、オーナー兼ブドウ栽培家は、私の家族ぐるみの友人でもあるドム・モンディロ(Dom Mondillo)でした。サステイナブル・ワイングローイングが、実際にどんなものなのか、セントラル・オタゴにある彼のブドウ畑を案内してもらうことにしました。

芝刈りトラクターを使う代わりに、ブドウ畑に放牧された羊たちが、草を食んでいました。省エネルギーと二酸化炭素の排出を削減するためです。白カビ病防止剤の噴霧は、SWニュージーランドが定めた最低限の量以下しか行いませんし、化学肥料を用いる場合も、最低限量だけ認められているそうです。ここモンディロでは、産業廃棄物となりうるブドウの種、皮、ヘタでブドウ畑の一角に小高い山をつくり、その上に麦わらをかぶせ、コンポストをつくります。定期的に混ぜたり水分を補給したりして、堆肥の出来やすい環境を整えてあげるそうです。こうして出来たコンポスト(堆肥)は、ブドウ樹の根元にまき、化学肥料の代わりとします。オーガニック(有機栽培)のワイン造りには欠かせない堆肥ですが、このような作業で堆肥作りをしているところは、オーガニックのワイナリーでも数が少なく、サステイナブルの栽培家に関しては、ほとんど例が見られません。「廃棄物になって埋め立てに使われるより、生まれた畑に戻された方が、ブドウの皮や種が有意義に再利用されていいと思うんだ。1年かけて作った堆肥は土に保水力を与えるし、ブドウ樹の根元の雑草を抑える効果もある。地元の農家から集めてきた家畜の糞も混ぜたりもするから、ブドウ樹にとって最高の天然栄養剤になるんだよ。」と語るドム。

これ以外にも、害虫やカビ病の観察記録をつけることや、会合に参加することなど、たくさんの設定事項があり、それを守らなくてはいけません。監査委員が定期的にやってきて、土壌分析や記録帳簿などで設定されたガイドラインが守られているかを調べます。立ち上がりから10年以上経った現在、50%以上の国内のブドウ畑で、サステイナブル・ワイングローイングが実践されていることは、頼もしいことです。

ニュージーランドには今や、500件以上のワイナリーが存在し、今もこの数は増え続けています。国内だけでなく、世界のワインマーケットがほぼ飽和状態になり、ワイン消費の成長が伸び悩んでいる昨今、どの国のどのワイン生産者も、他社ワインとの差別化を図り、ユニークさを打ち出し、競争に勝ち残らなければなりません。SWニュージーランドはマーケティングのツールでありながら、今一番重要視しなければならない環境保護運動でもあるわけですから、一石二鳥の良い一例です。ニュージーランド・ワインの値段は徐々に上昇してきてはいるものの、幸いなことに、ワイン輸入大国である英国や日本で、「ニュージーランドのワイン=高品質ワイン」という考え方が浸透しているようで、高くても値打ちのあるものとして、順調な消費の成長が見られます。SWニュージーランドの効果が現れている証拠ではないでしょうか。

実はアメリカもニュージーランドに倣って、似通った動きが見られるようになりました。カリフォルニア・サステイナブル・ワイングローイング・プログラムです。世界全体のワイン用ブドウ畑が拡大する中、どこもかしこも農薬や化学肥料を制限なく使用して土壌を汚染し、自動収穫機や自動剪定機を搭載したトラクターで大気を汚染しつづけたら、地球が悲鳴を上げるでしょう。ワインは美味しいだけではいけない、そんな時代の中、カリフォルニアだけでなく、ほかの国々のワイン産地でも、ニュージーランドを見習ったサステイナブル・ワイングローイング、つまり地球に優しいワイン造りが今後も世界的に広がって行くのではないでしょうか。

2009年1月掲載
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