NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第93回コラム(Jul/2010)
ワインを形づくる気体 その1 Carbon dioxide 後編
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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ドライアイスはもちろん、その本来の用途「冷やす」という使い方もできます。ただ、とても限定的です。例えば、夜間収穫され運ばれてきたブドウは冷えていますが、プレスや除梗を待つ間、屋外に置いておけば次第に温まっていきます。特に黒ブドウですが、ファーメンターに入るまでに選果をじっくり行うと時間もかかり、温まって果実が割れやすくなります。そこでドライアイスをがしゃがしゃ1ロットごとに放りこみ、急冷するわけです。詳しい話はまたにしますが、後述のカーボニック・マセレーション法、また特に発酵前に低温浸漬する場合はとても重要です。

同じく、温度管理のついていないファーメンター類、コンクリート・タンクや木桶などで発酵が最高潮に達すると温度が上がりすぎて酵母自体が死んでしまう危険が増えます。こういったタンクの場合発酵中のマストをポンプで引き抜いて冷却機を通し循環させるという措置がとられますが、その際ドライアイスを入れ、さらに冷やしたりします。

ただ、子供の頃興味本位で触ったことがある方はご存知かと思いますが、ドライアイスって手にくっつきますよね。ずっとくっつけておくと火傷もします。これと同じことが果皮にも起こるはずなので、ワインメーカーによっては非常に嫌がります。こんなポリシーによっても、気体と固体が使い分けられたりもします。

また、二酸化炭素は、赤ワイン用のカーボニック・マセレーションというテクニックでは不可欠な存在であり、促進するために発酵前のブドウやマストにも加えられます。日本ではボジョレー・ヌーヴォーだけに用いられているように言われておりますが、現在は大なり小なりさまざまなところで活用されています。

日本語訳では炭酸ガス浸漬法と呼ばれており、発酵前のブドウの入ったタンクをCO2で満たすとタンニンが少ないわりに色素がよく抽出されてフルーティなワインができる、というのが一般に知られています。

しかし、意外に書かれていないのが『何故こうなるのか』、ということです。実は丸のままのブドウ果実自体が、果皮を通り抜けてくるCO2に反応し、細胞内で香りが生まれたり酸が減ったりするのに加え、なんとちゃっかりアルコールまで生成しているのです。

参考書等ではこれだけで色素や香りがさも得られるかのように書いてありますが、アルコールが2%くらいになると発酵が勝手にとまるので、これはその名のとおり「マセレーション/浸漬」の範疇でありしっかりとしたワインができるわけではありません。実際にはその後この色素が出やすくなったブドウで通常の発酵過程を経ることになります。

元々ボジョレーでは、房のままのブドウ(ホールバンチ)を容器に入れてほったらかしにしておくと果実自体の重さで下の方が潰れて果汁が出ててきます。それが通常の酵母が関与をし発酵したCO2が発生し、この環境下の果実内発酵を引き起こしていたとされています。

よく言われるのがフルーツキャンディやバナナの香りがするようになるというもので、この香りだけなら安っぽくて忌み嫌われますが、その他要素が複雑で適度であればフルーティとして好意的に評価されますので、特にピノ・ノワールのワインづくりではしばしば一部をカーボニック・マセレーション法にする、もしくは除梗時に破砕を一切せず割れていないブドウ(ホールベリー)をたくさん混ぜて、この効果を意図的にワインに加味しています。

その他、タンニンがきつすぎる品種でも和らげるために利用されています。ただまあ、元々全房発酵(ホール・バンチ・ファーメンテーション)ばかりの時代には当たり前に起きていたことなのですが、今のようにCO2を充填などできなかったので、それもやはりCO2の重さあってこそだったといえるわけです。

もうひとつの二酸化炭素の特徴として、液体に溶けることがあげられます。よく若い白ワインを飲んだとき口の中でシュワシュワまでいかなくても、プチプチすることがありませんか?一昔前には瓶内汚染による二次発酵のためだといわれていましたが、今ではフレッシュさを演出するためにコントロールされています。流行りの「自然派」の中には亜硫酸を添加しないかわりにCO2を閉じ込めてワインを保護しているつくり手もいます。これを瓶内に意図的にたくさん閉じ込めると、スパークリングワインになります。もちろんコカ・コーラのように後からガスを吹き込むことも可能ですが、大きくて泡もちも悪く、泡の質が格段に落ちるため安価なワイン以外ではされません。シャンパーニュやシャンパン方式のワインが珍重されるのは、酵母と接触したまま長期熟成することによって生まれるコクだけではなく、長い年月の間にワインに違和感なく溶け込んだ細やかなCO2の気泡のクオリティの差があるからなのです。

最近地球温暖化が念頭にあるとき、二酸化炭素の存在自体が悪者にされているように感じて仕方がありません。これで何グラム削減できました~、というエコ精神の普及の仕方に原因があるのでしょうか。ニュージーランドの羊などの、家畜類のげっぷすら問題にあがるくらいです。しかし酸素を生む植物の光合成活動にもCO2は必要不可欠ですし、その植物だって呼吸で放出しています。

昔々とある人に、アルコールは酵母の糞で、CO2はげっぷだ、と教わったことがあります。酵母は生きるためにCO2を発生させているわけですが、このままではワインをつくることさえもバッシングされるようになりかねません。二酸化炭素を頭ごなしに悪く言うのではなく、どうかCO2あってこそ健全なワインがある、ということを忘れないでくださいね。

森林を減らすのも家畜をまとめて飼うのも商業ベースでワインをつくるのも結局は皆、我々人間なんです。

2010年8月掲載
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