NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第1回コラム(May/2004)
ニュージーランドワインとフランス人ワイン醸造家
Text: ディクソンあき/Aki Dickson
ディクソンあき

著者紹介

ディクソンあき
Aki Dickson

三重県出身、神奈川県育ち、NZ在住。日本では、栄養士の国家資格を持ち、保育園、大手食品会社にて勤務。ワイン好きが高じてギズボーンの学校に在籍しワイン醸造学とぶどう栽培学を修学。オークランドにあるNZワイン専門店で2年間勤務。週末にはワイナリーでワイン造りにも携わる。2006年より約2年間、ワイナリーのセラードアーで勤務。現在はウェリントンのワインショップで、ワイン・コンサルタント兼NZワイン・バイヤーとして勤める。ワインに関する執筆活動も行っている。趣味はビーチでのワインとチーズのピクニック。

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2004年のヴィンテージは、4月中旬にメルローの収穫と共に始まった。今年の収穫は予想をはるかに上回る量だ。ブドウは大方健康で、虫や病気の害は受けていない。収穫の作業は日の出と共に始まり、日暮れまで続く。交代で休憩をとりながら一日ほぼノン・ストップの大作業だ。

私は週末に、西オークランドのクメウ地区にあるワイナリー『ハリー・ライズ』にて働いている。ここのオーナーでありワイン醸造家であるティムは、わずか5ヘクタールのブドウ畑に、赤ワイン用のブドウの品種(メルロー、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン)を栽培している。これらをブレンドして毎年2種類のワインを醸造している。さらに、天候に恵まれた良い年にしか造らない「ビグニー・コイン」を合わせると、3種類の赤ワインを醸造していることになる。ティムは毎年、国内外の優秀な(時にはあまり優秀ではない)ワイン醸造家をアシスタントとして迎え入れているが、今年は初のフランス人であるロゴーンが選ばれた。ロゴーンは、フランス・コニャック地区出身のワイン醸造家。コニャック生産者の両親を持ち、幼いころからブドウ畑とワイナリー、蒸留器に囲まれて育ったロゴーンだが、コニャック造りより、ワイン造りのほうが興味深いと考え、大学でワイン醸造学を学んだ。その後、ボルドー地区で6回のヴィンテージを経験してきたかなりのやり手だ。私は幸運にもティムのもと、ロゴーンと一緒にワイン造りに携われることになった。セラー・ハンドとして。日暮れに作業を終えると、ティムは料理に取り掛かる。そのころロゴーンと私は、ワイナリーでブドウの果汁でベタベタになった器具類の洗浄と片付けに奮闘しているのだが、魅力的な料理のにおいにおなかが鳴る。「今日のワインはなんだと思う?」「昨日はピノ・ノワールだったから、今日はカベルネ・ソーヴィニヨンかな?」私たちの特権は、セラーに寝かされているティムのお宝ワインのお相伴にあずかれることだ。毎晩のように、最低3本は空ける。時には6本空ける時もあるらしい(他人ごと?)。どうやら私たちはみんな大酒飲みのようだ。食卓では、いつも3カ国の文化の違いや料理の話、特にワインやワイン造りの話だ。フランスの貴公子のお気に入りは、フル・ボディの赤、フル・ボディの白、そして、フル・ボディのシャンパンである。ティムと私は、ニュージーランドのワインも「うまい!」とロゴーンに言わせたかった。が、たいていのフランス人と同じように、ロゴーンもフランスワインが最高だと思っているクチなので、一筋縄ではいかない。ティムは、夕食のワイン選びにはかなり奮発していた気がする。私も毎回1~2本のワインを持参したが、かなり慎重に選んでいた。ロゴーンがアシスタント期間を終えてフランスに帰国する前日、最後の晩餐にティムが嬉しそうにコルクを開けていたのは、エイヴィエイター(Alpha Domus AD Aviator)。ボルドータイプのフル・ボディ赤ワインとして、5つ星の評価を得ている代物だ。ティムと私は、これならロゴーンもうなるだろうと思っていた。しかし、ロゴーンの反応は「かなりフル・ボディだけど、ボルドーほどじゃないね。」とさらり。ワインは一つの答えを出してはくれない。これもまた、ワインの魅力の一つである。

2004年6月掲載
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