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皆さんこんにちは、日本の蒸し暑い夏をいかがお過ごしでしょうか。こちらニュージーランドはただいま冬本番です。と言っても、私の住むオークランドはそんなに厳しい寒さに見舞われることはありません。気温が0℃以下に下がることはまずないですし、雪が降ることもありません。日中は陽が照れば結構暖かいです。ただし、天気が悪い日が多く、湿度も高いので、実際の温度以上にひんやりした感じを受けます。いつも暖房をつけようかどうか迷ってしまいます。
さて今回は、オークランドから南へ車を走らせて1時間弱のところにある小さな村、クレヴドンをご紹介します。距離的には遠くも近くもなく、休日に家族とドライブするには適当な場所なので、ちょくちょく出かけます。
もちろん目的が無ければ行く意味がありませんよね。ちゃんと見どころがあります。
まず村の中心地近くのショウグラウンドで毎週日曜日に行われる“クレヴドン・ファーマーズ・マーケット”。クレヴドン周辺のみならず、オークランド各地から農作物やチーズ、畜肉加工品、ハチミツ、オリーブオイル、その他食料品や植物などを売りに来ます。生バンド演奏や子供向けのポニーライドなどもあります。オークランド・シティ周辺のマーケットと違い、出店者・来場者ともにアジア系や、インド系の人をあまり見かけません。敷地も広々していて、開放的な雰囲気も相まって、毎週たくさんの人でにぎわっています。
ニュージーランドには結構いたるところに滝がありますが、この周辺にもあります。クレヴドンの中心から車で20分くらいのところにある“フヌアの滝”。こちらは滝のかなり近くまで車で入れるので、車を置いて徒歩5分ほどで手軽に絶景がみられます。
私たちがクレヴドンに行く理由で最も多いのが牡蠣。こちらでは通年でまわっているようですが、やはり寒くなってくると美味しいですよね。村の中心からさらに15分ほど車を走らせた海沿いにあるオイスター・ファクトリー、“クレヴドン・コースト・オイスターズ”は、クレヴドンとワイヘキ島周辺のハウラキ湾で牡蠣を養殖している、オーガニック認証を受けたファクトリーです。こちらの牡蠣は日本にも輸出されているようで、前回帰国した際にたまたま入った居酒屋さんで扱っていました。もちろんオークランド・シティにあるフィッシュ・マーケットなどでも買えますが、直接現地を訪れて食べるのもまたオツなものです。
一見殺風景な感じですが、ファクトリーにはショップも併設されていて、こちらで買った生牡蠣やオイスター・チャウダーを、そのまま表のベンチなどで食べることができます。
車でもう少し先に行くと綺麗な海岸がありますので、白ワインを携えこちらで購入した牡蠣とともに海辺でピクニックなんていうのも楽しいと思います。
そしてもちろんワイナリーもあります。クレヴドンにあるのはニュージーランドのカルト・ワインの一つと呼べる、プリリ・ヒルズ(Priri hills)。本格的なリリースは2000年代に入ってからと、比較的歴史の浅いワイナリーですが、そのこだわりと丁寧な造りが評判を呼び、年産1000ケースという小規模なブティック・ワイナリーにも関わらず国際的に高い評価を得ています。
こちらではブドウ栽培からワイン醸造までを一貫して行います。使われるブドウはすべて自社栽培、それらから造られるワインは一般的にボルドー・ブレンドと呼ばれる赤と少量のロゼのみです。こちらでは白ワインを造っていません。
オーナーでありワインメイカーのジュディさんは、フランス・ボルドーの赤ワイン、特に右岸と呼ばれる生産地ポムロルやサン・テミリオンのワインをリスペクトしており、それらと同じスタイルのワイン造りをしています。栽培品種はメルロー、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、マルベック、カルメネール。もちろん彼の地と同じくメルローとカベルネ・フランを主体にブレンドされる造りです。
ちなみにこちらのカルメネールは北イタリアからカベルネ・フランのクローンとして取寄せたものの、後の鑑定結果にてカルメネールと明らかにされたものだそうです。さらに、カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランは、聖地ボルドーのクローンで、ニュージーランドで最初の商業向け栽培ということです。
ブレンド比率はブドウの出来具合から、ヴィンテージとワインのレンジにより変えられます。例えば2008年のトップレンジ“Pope”はカベルネ・フラン主体、下に続く“Reserve”と“Estate”はメルロー主体ですが、2010年は全てのレンジでメルロー主体となっています。
ブドウは手摘み後、100%除梗されオークとステンレスそれぞれの発酵槽にて低温発酵。樽熟成は新樽比率60~80%のフレンチオークにて18~22カ月。ニュージーランドでは珍しいコルク栓を用い瓶詰め後、最低6カ月の熟成を経てから出荷されます。こちらのワインは初期の飲み頃を迎えるまで決して出荷されません。
ワイナリーが位置するのはクレヴドンの中心地を少し通り抜けたあたり、大げさなサインも無くひっそりとしたエントランスを入っていくと小高い丘一面にブドウが植えられています。その丘の頂上にジュディさんの住む家屋があり、そこがセラー・ドアーも兼ねています。クレヴドンの対岸には高級ワイン産地として知られるワイヘキ島があり、気候や土壌も似ているそうで、ジュディ氏いわくそれは地質的に彼女が目指すボルドー右岸と同じ粘土質主体で、カベルネ・ソーヴィニヨンよりメルローやカベルネ・フランの栽培に向いている土地だとのこと。セラー・ドアーという名の応接間からは彼女の畑が一望でき、こちらのワインを試飲しながら、ジュディ氏の丁寧な説明とともに至福のひとときを過ごすことができます。
実は彼女はアメリカ出身。ワイン産地としてのアメリカとニュージーランドの違いを聞いてみると、確かにアメリカも優秀な産地だけど、ファットでヴォリューミーなワインが多いということ、そしてニュージーランドは産地としてこれからもっと繊細でエレガントなワインができる可能性があるとのお答え。そしてなぜそんなにまでボルドーをリスペクトしているのかとの問いには、食事とのマッチングを考えた時に、エレガント過ぎずパワフル過ぎず、より高い質感と複雑さを備えたボルドーワインが彼女の理想だとおっしゃっていました。
実際、彼女のワインは完璧なまでのボルドー・スタイル。2008年を試飲させていただきましたが、質感も高く色合いもまだまだ若々しく、さらに熟成していくポテンシャルを感じました。アルコールの厚みをよりしっかり感じるボルドーといった赴きです。
そんな彼女の元へは、ボルドーはラ・トゥールの元ワインメイカーも興味を持って訪問し、非常に感銘を受けたということです。
ワイナリーを訪れてみたいという方、セラー・ドアーは土日の1~4時まで、オーナーのジュディさん自らがお相手してくれるので、電話でのアポイントが必須になります。ワイナリーでは名前の由来になったプリリ・ツリーも見られますよ。
クレヴドンまでは遠くて行けないという方は、オークランド近郊、オラケイにあるワイン・ショップ、“グレート・リトル・ヴィンヤーズ”にてプリリ・ヒルズのワインを試飲・購入出来ます。日本でも輸入している業者があるようなので、購入することが出来ます。
少量でも本当に質の高いワインを造りたいというジュディさんの志に、ぜひ触れてみてください。